第7話(山田の奮闘記)
「いざ話しかけるとなると厳しいよなぁ」
俺は小声で呟く。
昨日の席替えで清水さんの前の席になれたはいいものの、実際に話しかけるとなると心の中で大きな抵抗が生まれてしまう。
とある休み時間、
俺は話しかけようと後ろを向きたいのだが、その一歩がどうしてもできない。
何とか振り向こうと、少し後ろに目をやると清水さんは本を読み始めてしまう。
この時点で俺は清水さんに話しかける機会を失ったと思い、前を見返す。
ここ最近、俺はこの行動の繰り返しである。こんなことが続くと話しかける勇気さえないチキンな俺自身に腹を立ててしまう。
その日の放課後、
「なんで一言もしゃべりかけにいかねーんだよ!あの席なら別に話しかけても不自然じゃないだろ」
一緒に帰っている佐藤にこう言われてしまった。
「清水さんってさ、休み時間になるといつも本を読んでるだろ、邪魔しちゃ悪いかなって思っちゃって」
「なにここで変な気を使ってるんだよ、ここはガツンといけよガツンと!」
「話しかけたいのはやまやまなんだけど、話題がないんだよ、話題が」
今まで考えたことがなかったが、女の子との話題とは何なんだろうか?今までの経験のなさが悔やまれる。
そこで佐藤に聞いてみる。
「そういえばお前が佐々木さんと話す内容ってどんななんだ?」
佐藤もあまり女子に話しかけるタイプではないが、佐々木さんとだけはいつもしゃべっているのを見かける。
「別に大した内容じゃねーよ、お前と話す内容とほとんど一緒だよ。だから気にする必要はないって。とりあえず行動しろよ」
佐藤と話す内容と一緒か。たしかに佐藤と話す内容なんてとりとめのない話がほとんどだ。清水さんとの会話もそんなものでいいのだろうか。
「まあ、とりあえず頑張ってみるよ」
俺は佐藤につぶやいた。
「いいか、絶対だぞ。わかったな」
なぜか佐藤は俺の恋がうまくいく方にお金でも賭けてるのかと思うくらい積極的である。
「はいはい、わかってるよ」
そんなこんなで一日が終わってしまった。
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次の日の朝、俺はいつもより早く学校に来ていた。人が少ない時のほうが清水さんに話しかけやすいと思ったからだ。
席に座り、荷物を片付けていると、清水さんも登校してきて同じく席に座る。
チャンスだ!!
今現在、俺と清水さんの周りにはほとんど人がいない。
さすがにこの好機を逃すわけにはいかないと思い、ついに俺は後ろを振り向き、口を開く。
「清水さんって写真部だったよね、写真、好きなの?」
俺は、さも清水さんが写真部に入ってたかどうかしっかりと覚えてない体で話を切り出す。
「ええ、写真を撮るのが趣味だから」
俺は最初に、久しぶりに清水さんの声を聴いたなと思った。
清水さんはあまり口を開かないタイプであるため、マラソン大会以降、声を聴くことはほとんどなかった。
「へぇ~、どんなところが好きなの?」
俺は一問一答で話が完結しないように積極的に話を進める。
「写真はその時の記憶をそのまま映し出してくれるから。楽しかった思い出も綺麗な風景を見た時も、そして、忘れたくない思い出も...」
俺は話題の選択を間違えたかもしれない。
俺はこの清水さんの発言にどう返せばいいのかわからなかった。
少し沈黙した時間が続くと清水さんから話を振ってくれた。
「そういえば、なんで山田くんは写真部に入ったの?」
おっと、これは厳しい質問だ。馬鹿正直に“あなたがいるからです”なんてことが言えたら苦労はしない。とりあえず何か返さなければ。
「まあ、佐藤の誘いがあってね、とりあえず入ってみることにしたんだ」
すまん佐藤、お前を出しに使ってしまった。
これからいろいろと話してみたものの、大して盛り上がることはなかった。
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その日の放課後、俺は俺は一人で帰る準備をする。
放課後には先生が生徒のことを知りたいからという理由で新学期から出席番号順で毎日面談を行っているのだが、佐藤はその順番が来たと言って職員室に行ってしまった。
つまり今日は一人で帰ることになる。
結局今日一日、清水さんに話しかけてはみたものの、大した発展はなかった。
「は~、どうやったらうまくいくのかなあ」
少し落ち込んだ心情で廊下を歩いていると、人がいるはずのない教室から物音が聞こえる。
そう、俺たちが所属する写真部の部室だ。部員は1クラス分くらいいるものの、毎週月曜日のミーティング以外、活動することはほとんどない。
そのため、月曜日以外の活動は個人の自主的な活動なのだ。
俺は珍しいなと思いつつ興味本位で部室のドアを開ける。
「ガラガラ...」
部室の中をのぞくと、俺は急に気持ちが切り替わる。
部室には、清水さんがいた。一人でカメラをいじっているらしい。
「何してるの?」
俺は思わず声をかける。
「写真でも撮ろうかなって思って、準備してる」
前回のミーティングでも思っていたが、写真部の中でも清水さんだけは活動する気があるらしい。
今週末にある、れんげ祭りの撮影会も、清水さん目的の俺と俺に協力してくれている佐藤を除くと、佐々木さんくらいしかいない。
「どこか撮るところでもあるの?」
「あと少しで高校総体だから部活の写真でも撮ろうと思ってる」
SDカードをカメラに入れると清水さんは部室を出ていこうとする。
そこで俺は清水さんに問いかける。
「ねえ、俺もついて行っていい?」
俺と清水さんは総体間近でやる気に満ちているであろう様々な運動部のところに乗り込んでいく。
写真を撮っているときの清水さんはとても楽しそうで、俺はただ横でそれを見ているだけなのだが、俺もなぜだか楽しい気持ちになってしまう。
清水さんは人だけでなく、
「あ、あそこに雀がいる。いってみましょ!」
と興味を持ったものを見つけるとそれに向かっていく。
ある程度の写真を撮り終え、俺は床に座りこけると、
「清水さんって本当に写真が好きなんだね」
と、沈んでいる夕陽を撮っている清水さん向かってそうつぶやく。
「みんなさ、毎日同じことの繰り返しって思ってるかもしれないけど、実はちょっとずつ変わってて...。高校生活だってそう、1年の時と大して変わってないなって思っていたけど、ふと1年の頃の写真を見てみるとクラスメイトだって違うし、勉強している科目だって違う。その上、新しい1年の後輩だってできちゃった。私も、みんなも、変わっていってる」
「まあ、それは仕方ないよね」
「でも、写真に写っている場面はさ、あの時のままで止まってる。あの時にしか出せなかった笑顔や必死になっている表情、いろいろなものが写真には残ってる。それってすごいって思うし、怖いとも思うんだ。自分が変わっていってることに気づいちゃうから。でもね、変わっていくことは悪いことじゃないと思う。私は今を楽しみたいし、その時の思い出も振り返りたい。だから写真を撮ってる...」
清水さんは俺のほうを振り向き、
「パシャ!」
と、俺に向かってシャッターを切る。そして、
「そして今日も、振り返りたいと思える日になったよ。今日は付き合ってくれて、ありがとう」
清水さんは俺に向かってそうつぶやく。俺は一瞬、ドキッとしてしまった。
「どういたしまして。さて、今日はもう帰ろっか」
俺たちは部室に戻ると、片づけをして帰路に就く。
俺は今までこの時ほど終わってほしくないと思った時はなかった。
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