第6話(ある意味これは人の人生をも左右する)


「みんな、よく集まってくれた」



山田と松山に行った次の日の放課後、俺は両手を組みながらみんなにそう言った。



「集まるに決まってんだろ、部活なんだから」



そう、今俺たちは部室にいる。部室といっても写真部のではない。ここは美術室。


俺と山田はもともと1年のころから美術部なのだ。写真部はただ兼部しているに過ぎない。



「それよりお前ら、最近写真部に入ったから月曜日は遅くなるって言ってたじゃん。どうしたんだ?」



いましゃべっている奴は前田、俺と山田のクラスメイトであり、いつもはこの3人で過ごしている。



「あー写真部ね、写真部はもう終わった」



「は!?」



写真部はさっき行ってきた。行ったはいいものの、今日も少し先生が話した後すぐに解散になってしまった。



「だから今日はもう美術部だけってことだ、そこでだ、みんなに相談したいことがあるんだが...」



「なんだ相談って?お前が相談なんてめずらしいな」



「それは誉め言葉として受け取っていいのかな?まあいい、相談の内容ってのは山田のことについてなんだが...」



「山田?山田がどうしたってんだよ?」



「実は、山田に好きな人が...」



「ちょっ!お前ふざけんなよ、またか?またお前は友達の秘密をあっさり話してしまうのか!!まさかお前、クラスの人に言ったりしてないよな?...もしそうだったら承知しねーぞ!!」



山田がまた横から茶々を入れてくる。



「言ってねーよ、大丈夫だから。それにいいじゃねーかよ前田と仲野さんに言うくらい」



「前田はよくても仲野さんはふつうに恥ずかしいよ!」



「え、私ですか?」



美術部には3年の先輩はおらず、去年の夏にもう一年上の先輩が引退してから、俺と山田と前田、そしてこの中での唯一の女子の仲野さんの4人で活動している。


現在、新入生募集中である。



「そもそもな、お前が俺に恋の相談なんかしてきたのが問題じゃねーか。聞く相手を間違ってんだよ。俺は恋なんてわからないから友達に聞くしかないだろうが」



俺は悲しいことに恋愛経験はゼロである。そうなると当然だが俺は必然的に友達に恋愛について聞くこととなるのだ。というかそれならなおのこと女子に聞いてみるのがベストだ。それは仕方がない。


少し申し訳ないが、今回も山田には納得してもらう。



「実は山田がな、清水さんのことを好きになったみたいで、同じ部活に入ったはいいものの、どうすれば仲良くなれるかなって思ってさ」



「あーだから写真部に入ったのか」



「そういうこと。で、なんか意見ある?」



「はっ、何を言っているんだい?俺たち男3人恋愛経験なんてゼロじゃないか」



前田が実に悲しいことを言ってくれるが事実だから仕方がない。それに俺はもともと...



「なあ仲野さんは女子と仲良くなるにはどうすればいいと思う?」



女子である仲野さんに期待していた。



「そうですねー、まあ席が近いと話す機会は必然的には増えますね。私も隣の席の人とは良く話しますよ」



席か。たしかに急に、遠くの席なのにその人に話しかけるなんてこと、俺にはできないし、不自然だろう。



「それにクラスは違ってても同じ部活だとやっぱり話す機会は増えますよ。ねっ、前田くん?」



「ん、まあそうだな。やっぱり話す機会を作るかなんかしないといけないんじゃないか?」



部活での話す機会はもう作ってある、このままいけば来週には俺と山田と未來、そして清水さんの4人で写真撮影のためにれんげ祭りに行くのだ。しかしそれまでに少しでも仲良くなっておいてもらいたい。



「はー、清水さんがとなりの席だったらなー」



山田がため息をついてそう言った。たしかにどこかのラブコメみたいに隣の席同士で、なんて都合のいいことはもちろんない。なんとか話す機会はないものか。



「あ、でも確かあれって明日じゃなかったっけ?」



「あれ?あれってなんだよ?」



そのとき、前田の一言によって俺たちに一筋の光がさしこむ。



「席替えだよ、席替え」



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次の日のホームルーム



今日の教室にはいつもとは違う、何か特別な雰囲気が漂っていた。



「じゃあみんなの名札を集めまーす」



先生の発言から室長がみんなの名札を一つの袋に集めていく。


俺のクラスの席替えはみんなの名札を集めてから、それぞれの席にランダムで名札を置いていく。そして置かれた自分の名札の席が自分の席になる、といった仕組みだ。



「どうなるのかなー。今回のこの席替え、俺にとっては結構重要だから怖えよ」



俺の前の席の山田がつぶやく。しかし、俺はのんきにこう言う。



「別に特定の席じゃないとダメってわけじゃなんだ。気楽にいこうぜ気楽に」



アニメとかでは運動場側の一番後ろ、といったなんとも都合のいい席に当たるというのが定番だが俺たちはそんな贅沢は言わない。


今回はただ山田が清水さんの隣であればそれでいいのだ!



…と思ったため山田にはこういったものの、指定の人と隣の席ってのも結構ありえないことでは?と今になって思ってしまった。


まあ結局は山田に主人公補正並の運があるかどうかにかかっている。



「はい、それでは置いていきまーす。え~と、市川、次は...」



先生がそれぞれの席に名札を置いていく...




数分後...




結構たくさんの名前が出てきたものの、二人の名前が来るのを待てども待てども山田や清水さんどころか俺の名前すら来ない。


運動場側から配っていった先生はついに俺たちの名前が来る前に廊下側まで来てしまった。


そして廊下側から2列目...



「この席は、はい佐藤」



「えっ!」



思わず声が出てしまった。ヤバい、人の心配している場合じゃなかった。俺、一番前の席じゃん。


結構な頻度で授業中寝てしまっている俺にとって一番前の席は最悪であった。



「おいおいまじかよ、2年生の出し最悪だよ~」



「まあ、別にいいじゃねーか。今回重要なのは俺の席なんだ、気にするなよ」



「何言ってんだよ!!他人事だと思って適当に言うんじゃねーよ!今回の席替えで俺の1か月分の未来が決まっちまったじゃねーかよ」



「そんな大げさな…」



俺の頭の中では授業中に寝てしまい、先生に怒鳴られる未来が見えてしまった。


俺が落ち込んでいると、その時は突然訪れた。



「えーと山田」



「えっ!!」



俺と山田は同時に先生の方へ顔を向ける。山田の席は廊下から1列目の前から3番目の席。先生は前から後ろに向かって名札を置いていっている。



「きたきた、さて隣は誰だ!」



俺と山田は廊下から2列目の、もう決まっている山田の隣の席に置いてある名札に目を向ける。そこには



「村上...」



村上とは俺たちと同じようなあまり目立たないような性格の無口であまりしゃべりたがらない...男、である。



「まじかよー!清水さんどころか、隣の席は男だったなんて。期待した俺がバカ立ったー!」



山田は思わず声を上げる。そりゃそうだ、知らない間に俺たちの頭の中には”隣の席は女子”という根拠のない固定観念を抱いてしまっていたのだから。驚くに決まっている。



俺どころか山田までもが落ち込んでいると...



「清水」



先生から目的の名前が発せられる。


そして、清水さんの名札は山田の後ろの席に置かれている。



「あれっ」



俺と山田が同時に声を上げる。


俺は昨日の仲野さんの発言を思い出す。



「そうだよ、別に隣じゃなくてもいいんだ。席が近ければ、話す機会はできる!」



「そうか!まだ可能性はあるのか」



俺の発言から山田は元気を取り戻す。



「よし、いけるぞ、これからのお前次第でどうにでもなる!頑張れっ!!」



「ああ!分かってる!」



俺たちは固い握手をしながら喜び合う。俺と山田は今回の席替えでいつもよりテンションが上がってしまったらしい。



そのとき、席を移動してくる前田が一言つぶやく。




「バカみてー」































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