第3話(田舎人がちょっとした都会へ)

俺たちが写真部に入った週の日曜の朝、俺は最寄りの駅前の椅子に座って人を待っていた。


数分程して待ち人が来たことを確認する。



「ごめーん、待った?」



「たいして待ってないよ、早く行こうぜ」



ここまでを切り取ると、初々しいカップルの待ち合わせの会話みたいだが、実際は男2人のなんて事のない会話である。



「待てよ、どうして都会に行こうだなんて言い出したんだよ?」



山田が不思議そうに俺に言った。



「いいじゃないか、たまにはちょっとした都会に行ってみたかったんだよ」



四国の愛媛県のはずれに住んでいる俺らにとって一番近い政令指定都市である広島どころか県庁所在地である松山市にすらほとんど行ったことがない田舎人である。


俺らにとって松山は家の隣にみかん畑がある地元とは大きく異なる都会なのだ。


俺らはこれからその松山へ向かう。何かしたいなんてことは特にないものの、都会という漠然としたワードに何か淡い期待を抱いてしまっている。



「よし、じゃあ行くか」



俺らはとりあえず駅から松山へ向かって出発する。

なんか旅っぽくていいな。いってみよう!



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俺らは後部座席で二人座って移動する。ただいま高速道路を走行している真っ最中だ。



「なんでお前んとこの車で移動してんだよ。さっきの流れはそのまま電車に乗る流れだろうよ」



山田が横から小声で文句を言ってくる。そう、今俺たちは俺の親の車に乗って松山へ向かっている。



「しょうがないだろ、ここから松山まで電車でいくらかかると思ってるんだよ!2500円だぞ、2500円!それも片道で」



俺の地元の駅から松山までは結構遠く片道で車で1時間半、電車で行くとなると結構なお金になってしまうのだ。



「ごめんね〜、後ろ狭いでしょう?この子昨日まで部活だったから」



後ろ座席には俺と山田、それと俺の妹が座っており、疲れているのか妹は眠ってしまっている......山田の肩を借りて。



「いえいえ、大丈夫ですよ~」



山田は俺の母に何気なく返事をする。俺の家族と山田でのドライブ。山田は終始気まずそうであった。



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松山市駅に到着すると俺と山田だけ車を降り、俺の家族とは別行動をすることとなった。



「お~!でっけーなー!!」



愛媛県とはいえ、さすが松山の中心である、駅に百貨店が入居しており、さらには観覧車がそびえたっている。



「で、これからどうするんだよ?」



俺が町中を見回していると、山田がそう聞いてきた。



「何って、こんな人がたくさんいるところに来たんだ・・・・・ナンパに決まってんだろ」



「は、何言ってんの?そんなのできるわけねーだろ」



「お前こそ何言ってんだよ、清水さんと仲良くなりたいんだろ。女子に話しかける勇気も必要だって」



「そりゃそうかもしれないけど、それとこれとじゃ話は別だ!」



当然である。いきなりナンパしようぜと誘われて、いいね~と言ってと普通にできるやつは相当な陽キャであろう。俺や山田にできるわけがない。


俺もただなんか理由付けをして山田と都会に行きたかっただけなのだ。別にやろうがやらまいが正直どうだっていい。


しかし、面白そうだからもう少し粘ってみることにする。



「別に成功することが目的じゃないんだ、ただ女性に話しかけたということが重要なんだ!」



なんかそれらしいことを言ってみる。



「ほらほら、とりあえず一回やってみようぜ」



俺は無理やりやらなければならない雰囲気を作り出し、山田の背中を押す。



「マジかよ~、」



山田はしぶしぶ人ごみの中に入っていく。本当にやるのだろうか。


無理だよというツッコミを期待したのに。


山田は覚悟を決めたのか深呼吸をしてすぐ前にいた女性の前に向かっていった。



「あいつマジでやるのか、スゲーな」



この時の俺は結構頭がおかしかったのかもしれない。俺はこれを言った後、言葉の前後が明らかにおかしいことに気づく。


そして山田は女性に向かって話しかける。



「あの~すいません、少しお時間よろしいd」



「チッ!」



女性は早歩きでどこかへ向かう。



山田はこの時、大きなトラウマ一つ増えた。





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