あなたは人で私は獣で~生きること、それは与えること~

生まれた時から定められていた

 目が覚めて上体を起こす。あなたが起きないように、布団を横にめくる。

 何時かしらと、壁掛け時計を見ると。数分も時間が経てば7時になりそうだった。

 ベットの隣を見るとあなたがまだ寝ていた。

 あなたが目覚めるより早く私は起きる。寝ているあなたの顔を見る。愛しいあなた、私のあなた。私からの愛を感じないあなた、感じないから与えられるだけのあなた。

 あなただけが、私から愛を与えられるだけの存在。他の人は、与えられた愛を返そうとする。その必要は無いのに。

 私は愛を与えなければならない。それが私だから。愛さなけらば、生きられない生き物だから。

 愛が、私の内側からあふれ出ようとする。私を喰らいつくして、外の世界に出ようとする。愛は私を殺そうとする。



「おはよう」

「あら、おはよう。まだ寝ててもいいのよ。今日は土曜日だから」

「お前が起きてるなら、起きる」


 あなたは私と同じようにして上体を起こして、そのまま布団をめくった。温かい布団から、温かさが消えて。冷えた空気が肌をなでる。体が冷えて、肌寒く感じてしまう。


「なら、寒いし。もう少し寝ましょう」


 私はまたベットに横になる。柔らかいベットに体が沈み込む。


「仕事はいいのか?」


 頭の中で予定を確認する。外せない予定はなく、常に私が居なくても回るように仕事を割り振っている。今日は2度寝をしても大丈夫ね。


「いいのよ。本業は学生だもの。学生が休みなら、休んだって怒られないわ。それに、私を怒る存在はいないもの」

「わかった。なら寝る」


 あなたもベットに横になって、布団をまたかけた。あなたは直ぐに寝息を微かに鳴らして眠る。

 直ぐに寝れるあなたが羨ましいわ。横になっても私は眠れない。朝でも夜でも眠れない。体が受け付けない。過去の経験が、私を寝かせてくれない。寝れない身体になっているから。


 かつて目が覚めたら上には必ず男がいた。外が明るくても、暗くても。目が覚めたら男がいた。もちろんそれは家族だ。家族の誰かが必ず居た。布団は私の上にはかけられていない。服は脱がされている。男はそもそも服を着ていない。朝から肌を重ねる。

 家にいる女は全員、朝から男と肌を重ねた。それが当たり前の家だった。世間という常識から、隔絶された家。家の中だけが外界から切り離された別世界。現実世界の中にある異世界。歪んだ家族。歪んだ人々。自然界の動物よりも浅ましい。人が住む家ではなく、淫獣の住む家。それが、私にとっての家だったのだから。


 目を閉じていると眠気が『うとうと』と歩いてくる。あなたのそばでだけ私は眠れる。あなたがそばにいないと私は眠れない。あなたがいるから、私は生きられる。私を喰らいつくそうとする愛を、あなたが受け止めてくれるから。家族がいない私には、あなたしか愛を受け止めてくれる人が居ないから。愛を伝えるために肌を重ねる必要はないと、あなたが教えてくれたから。

 少しだけまた眠りましょう。寝る贅沢を噛み締めながらまた。目が覚めたら全ては夢で、あなたという存在が幻だった。そんな恐怖を感じながら。


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