ほどこし、ほどこされる
スーパーで買い物を済ませ、家に帰る。
俺も、彼女も。同じ家に住んでいる。血の繋がった家族などでは無い。高校生なのだから結婚もしていない。ただ、同棲しているだけだ。広い一軒家に俺と彼女で。
家の玄関を開け中に入る。この家に俺と彼女以外は住んでいない。だからただいまを言う相手は居ない。
彼女は靴を『ポイポイ』と脱ぎ捨てて、扉を開きリビングへと消えていく。
彼女の脱ぎ捨てた靴を揃えて、俺も靴を脱ぐ。玄関の扉に鍵をかけて、彼女を追ってリビングへと入っていく。
床には脱ぎ捨てられた制服が落ちており、彼女は脱衣所に居るようだ。
制服を拾いハンガーにかけて整えていると、彼女が脱衣所から出てくる。
「あなたも早く着替えなさい」
「わかった」
部屋着に着替えた彼女は、そのままリビングの椅子に座りスマホを取りだした。
彼女は家事ができないわけでは無い。天才で何でもできてしまう彼女は、日常生活でも出ないことは無い。学校でもそれは同じだ。
だが俺は、天才ではない。凡人だから人並みにしかできない。そんな俺でも家事は一応できた。
だから、
彼女は家に帰ると何もしない。
彼女は俺に出来ることを与えてくれる。
彼女は俺に居場所を与えてくれる。
彼女は俺のために隙を作る。
着替え終えた俺は料理をつくる。
「味はどうだろうか」
彼女が食べたいと言っていたハンバーグを作った。形は綺麗な楕円ではなく、歪で不揃いな円形をしている。切った玉ねぎがはみ出していたり、既にボロボロと崩れているものもある。
俺は家事ができるが、上手いわけではない。
「私が作る料理より、粗雑ね」
俺が彼女より勝ることは無い、
「見た目も悪いし、玉ねぎはあまり火が通ってないし」
俺より彼女の方が料理が上手い、
「でも」
それでも、
「美味しいわ」
彼女は美味しいと言ってくれる。
「玉ねぎはもう少し小さく切って。電子レンジで温めるといいわ。あと、パン粉はもう少し入れた方が良いわね」
「わかった」
「前よりは美味しいのだから、自信を持ちなさい」
彼女は食べながらも、助言をくれる。下手な料理を良くするための助言を。最初に作ったハンバーグは酷いものだった。ハンバーグと言うより、ひき肉をただ焼いただけ。という表現が正しい肉の塊だった。
彼女と共に過ごすようになり、俺は料理を知った。彼女は俺の知らないことを知っていて。俺に知らないことを教えてくれる。
何も無い空っぽな俺という器に、彼女は知識の
リビングでは、テレビの音は聞こえない。彼女も俺も、あまりテレビは見ないのだ。彼女はスマホでニュースを見て、それを俺に教えてくれる。
静かな食事。料理の助言以降、俺と彼女の間に会話は無い。食事を楽しむのではなく、生きるために食べるからだ。生活の一部として、食事と呼ばれる行為をしているだけにすぎない。
食事終えて、食器を洗う。彼女と共に歯を磨いた。浴槽を洗い、湯を張る。
その間も彼女は、リビングの椅子に座ってスマホを見ている。
「風呂の用意ができた」
「なら入りましょう」
「わかった」
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