第68話 執務宮の妖怪(4)

 逃げた2人の捜査は国内から国外へと移りました。

 彼女達は漁船で逃げ出した後行方知れずになっています。

 行先は不明ですが、恐らく低地連合国あたりだろうと噂されています。

 暗躍した者の中にノスリの名前が再び聞こえて来ました。


 私達は妖怪砂掛け婆達が逃げ出す算段をする前からその動きを見張っていました。

 養母様とその都度相談しながら、要所要所に偵察バグを置いて見張っていたのです。

 しかし、妖怪砂掛け婆の名付けに負けない妖怪染みた行動力を発揮しての逃亡でした。


 馬車が見つかった後、偵察バードを北洋海に配置して逃げた彼女達の漁船を探させました。

 やっと見つけた時はセルボネ市に入る直前でした。

 偵察バグを空から撒いて彼女達の服に取り付くのがやっとでした。


 (彼女達は追えているの? by小姉)

 『はい、であります』レタの勢いが良いですね、妖怪砂掛け婆達が逃げたのが特に嬉しいようです。

 私のトラウマに成っていましたからね。


 (今は、セルボネ市の港から上陸したところだよ by妹)

 (ナミに又闇の商人として暗躍してもらうと良いかもね by小姉)

 (そうだね、ノーフェスとして今回は北の頭に情報を提供してもらうと良いさ by大姉)

 (早い内に彼女達が持ち出した物に厄介な物が無いか調べないといけないね by妹)

 (仕事が忙し過ぎてヴァン国から当分離れられないわよ by小姉)


 『帝国への潜入捜査は現在の状況が落ち着いてからと言うことでありますです』

 とレタが当分何も対処できない事を遠回しに言います。


 (偵察バードやカモメの設計図ぐらいは持ち出していそうだね by大姉)

 (問題は、通信の暗号化の方法を知られていないかよ by小姉)

 (中継バードの存在は知られたと考えた方が良いね by大姉)

 (インベントリのカバンぐらい持っているでしょうから厄介よね by小姉)


 (空から襲って捕まえる事は出来無いかな? by大姉)

 (無理だと思う、妖怪たちも警戒してるし、帝国が2人を受け入れているから by小姉)

 (彼女達が持ち出した物を知りたいけど、インベントリの中に入れる? by大姉)

 (それは大丈夫、神力型タイプだからリングで通信できるしね by妹)

 (偵察バグは2人に取りついているのね by小姉)

 『はい、であります、マルティーナとマーニアルには5匹づつ取り付かせているであります』

 レタはやっぱり嬉しそうに言います。


 インベントリの中身を調べるようにレタに指示します。

 しばらくは監視だけで放置するしかないようです。


 残された情報を纏める中で見えて来た妖怪砂掛け婆達の目的は、死を超越することだったようです。


 もっと具体的に言うと、聖樹をダンジョン化させて世界中をダンジョンにして、自分達は魔物化して死んでも再生する事により死を超越しようとしていました。


 聖樹をダンジョン化させると聖樹の持つ魔力生成能力で世界中をダンジョン化出来ると考えたのです。

 妖怪砂掛け婆達は過去に森ダンジョンのコアを進化させ神の恩寵型ダンジョンにする事に成功していたのです。

 聖樹ダンジョン化もうまく行くと考えて実行したのが、聖樹の変でした。


 聖樹をダンジョン化する事までは成功しましたが、暴走して炎上し誰も生き残れなかった。

 なぜ炎上したのか原因などは今となっては誰にも分からないでしょう。

 それに、実行したエルフの女達は全て死んでしまったので、今更原因が分かったからと言っても罰する人は死んでいる為どうしようもないのです。


 妖怪砂掛け婆達は、魔物化が先だとして聖樹のダンジョン化に反対だった者達でした。

 そのおかげで襲撃には参加せずに済み死ぬことから免れたのです。

 でも根本的思想は同じなので魔物化出来ていたら参加していたでしょう。


 疑問があるとしたら、誘拐に積極的に関わっている事です。

 誘拐は彼女達とは基本関係の無い事だと思うのですが、何が在ったのでしょうか。


 今考えられる事は帝国の脅迫を彼女達は真剣に脅威ととらえていた可能性がある事です。

 ジュヘイモスへ攻め込まれ、彼女達の聖地エルフ学園を破壊される事を恐れたのではないかと考えられるのです。

 エルフ学園の医学部は魔物化の研究を唯一行っている場所です。

 此処を守りたかったのかもしれません。

 今は研究は禁止され責任者の学園長と副学園長を含めた研究に関わっていた全員が逮捕されています。


 11月となり、ジュヘイモス市に出されていた緊急事態は解除されました。

 捜査は全容の把握が終わり、個別の犯罪捜査へと移っています。

 既に外は冬です、雪が降り始めていますし、シリアルビェッカ村では積もっているそうです。

 私は全然帰って居ませんし、オウレにも行けていません。

 ニキやフェンに会いたいと思う毎日です。


 私は捜査の全権と総務省の全てを預けられています、何でこうなったのかしら?


 ヴィチェンバスト王国からの小麦を満載した船団が来たのは、そのような時期でした。

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