第67話 執務宮の妖怪(3)
10月に成りました。
9月の最後に、大事件が発生しています。
総務省長官マルティーナと総務省筆頭秘書マーニアルの執務宮の妖怪たちが突然失踪したのです。
突然の失踪に養母様達は油断していたわけではありませんが、虚を衝かれた格好になったのは仕方ありません。
軍務省と商工省の4人を捕まえられて、桜草の宮で尋問されている状況は、さすがに不味いと早い段階で判断していたようです。
それでも前日まで逃亡の気配を感じさせなかったのはさすが妖怪たちです。
逃亡に気が付いて全市に緊急事態を宣言し、自警隊に捜査させたのですが、取り逃してしまいました。
逃亡する前日に養母様に取引を持ち掛けています。
全ての情報を処分せずに残す、代わりに罪を一等下げ軟禁状態を甘受する、と言って来たのです。
これは、検討するだけの価値はありました、彼女らに守る意思があればですけど。
でも、逮捕に向けて動いていた流れを、一瞬でも止める効果が在りました。
その隙を突かれたのです。
私は偵察バグを執務宮の彼女らの執務室に3匹張り付かせ、その他に自宅や捜査で明らかになった隠れ家にも置いていました。
彼女らが怪しい動きをすれば一早く察知できるようにしていた積りでしたが、執務宮から自宅へ帰るゴーレム馬車の中から忽然と消えてしまったのです。
今回の4人の逮捕から始まった、妖怪砂掛け婆達への捜査を受け、2人は執務宮への行き帰りを同じ馬車で行い、お互いの行動を相互に補佐し合ってこちらの追求を躱そうとしていました。
恐らくお互いに監視し合って、裏切りを出来ないようにしていたのでしょう。
こちらも4人からの話だけでは、逮捕まで持ち込めても決め手に欠けていて、具体的な証拠探しに汲々としていました。
焦っていたのかもしれません、彼女らからの提案を真に受けてしまったのですから。
執務宮からゴーレム馬車へは乗る所を用務員の中の影が確認しています。
途中も影が後を付けていて常に見張っていました。
なのに、自宅に着いた時には乗って居なかったのです。
報告を受けて、直ぐに全市に非常事態を宣言し、自警隊に捜査させましたが、わずか1コル(15分)の帰宅時間の間にジュヘイモスから逃げられてしまいました。
私も偵察バードを投入してジュヘイモス近郊を捜索しましたが、其れらしい馬車や旅人は見つからなかったのです。
その後の捜査でこうなのではとの推測は出てきました。
中抜けと言う方法だそうです。
執務宮から帰宅する時間は込み合う時間帯でもあります。
複数のゴーレム馬車が出入口の前に待機していて、人も御者や付き添いに交通整理係等大勢が動き回っています。
妖怪の2人は一端馬車に乗り、直ぐに反対側のドアの下から地面へと抜け出すと、手下が作った人垣で隠れながら別の馬車へ乗り換えた、らしいのです。
数日後乗り捨てられた馬車が見つかり、妖怪らは乗り捨てた場所の漁村から漁船に乗って逃げた、と見ていた人の証言が在りました。
妖怪達が持ち出した物はそう多く無いでしょう、隠れ家などは見張っていましたし、分かる限りの彼女達の仲間は偵察バグで見張っています。
目撃者の証言では、漁船に身一つで乗り込んでいたそうです。
それでも持ち出した物について追跡調査をする必要が在るでしょう。
捜査は、妖怪砂掛け婆達が残した膨大な物品や犯罪の証拠となる書類など整理するだけで大変な物が在ります。
養母様は私が、残した証拠の山から要約して必要な次の指示が出来る事を見抜くと、全て私へ押し付けて纏めた物を提出するように丸投げしたのです。
(ひどいと思わない? by小姉)
(そう言われても、小姉が幾つかの書類を見て犯罪の証拠を探し出したから養母様に目を付けられたんじゃない by大姉)
(養母様は情報部の権限を拡大して、自警隊に命令できる権限を付けちゃったのよ by小姉)
(今回の捜査に関わらず、自警隊の事件に対する捜査指揮を養母様の代行として情報部室長の私がするって指名したのよ by小姉)
(でもガイア『アーカイブ室のCPUの集合体の名前よ』君が処理して分かりやすく纏めてくれているでしょう? by妹)
(ええ、私も確認したけど問題なかったわ by小姉)
(これも迅速な捜査の為だ、頑張り給え! by大姉)
(するい!絶対ずるいの! 私だって、魔石CPUや魔紋の研究をしたいし、もっと自由な時間が欲しいのよ! by小姉)
(諦めるんだな、今のカスミは執務宮のボス代行だ、あんたが抜けるとヴァン国が混乱するからね、マジで by大姉)
妖怪砂掛け婆達の残した情報は膨大な量が在りました。
書類だけでも財産目録、犯罪の証拠品リストや記録、人物の繋がりを書いた書類、金銭出納簿、裏と表の帳簿、魔薬や魔道具の作成依頼表、等々が数万年分です。
とりあえず全てコピーしましたが、処理はガイア君(アーカイブ室のCPUで無数の魔石CPUからなる何か)にお任せです。
最終的に私が目を通して判断する事に成るでしょう。
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