第66話 執務宮の妖怪(2)

 それからの養母様の動きは早かった。

 オウレの海軍本部に居るポッター海軍長官へ直接モニターで連絡して、海軍の動きを一時的に止めてジュヘイモスに今現在居る船を動かす事を禁じた、それと同時にジュヘイモスへと入港目的で近寄る船へは沖にて停泊して次の命令を待つようにエルフ王の名で命令した。


 海軍の動きを止めると次に自警隊へ命令書を何通か書き、軍務省、商工省の強制捜査に乗り出した。

 魔紋付のエルフ王の名で書かれた命令書には、業務の即時停止と自警隊による捜査に協力する事を命令する内容が書かれて在った。


 命令を矢継ぎ早に出すと、次に残りの省へ今回の事態についての内容を書いた文章を配り、事態が更に深刻化すれば非常事態の宣言も考えると書き添えられていた。

 これは総務省のマルティーナへの牽制で、事態を静観して見て居ろとの脅しも含んでいた。

 彼女がボスなのは前から養母様には分かっていたが尻尾を掴ませない用心深さを持っていてなかなか切っ掛けが掴めなかったのだ。

 今回の事態は彼女達の組織を壊滅させる切っ掛けに成るかもしれないと養母様は考えているようです。


 私は、養母様からオウレに移動して事態が収まるまで待機しているか、桜草の宮で大人しくしているか選択を迫られたので、桜草の宮で大人しくしている事を選んでいます。


 オウレの工房の授業はアイとナミとで順調に進み、今は旋風推進機の構造と魔術付加の陣について行っているそうです。

 偵察機を組み立てる時の注意点や点検時や修理への対応など、授業と実習で偵察機の完成まで持って行きたいそうです。


 然(そ)ういう事なのでオウレの方は問題無いと思います。

 ジュヘイモス市の捜査状況ですが、疑惑の焦点だった魔印章が商工省の長官の机から見つかり、あまりの杜撰(ずさん)さに呆れかえった所です。

 養母様はカモメの帝国への引き渡しについて、国家反逆罪の適応も視野に入れて捜査しているそうです。


 私を襲った、海兵の所属が分かってきました。

 彼女らはジュヘイモス港に常時配備されている、港湾防衛の海兵団隊員でした。

 ジュヘイモス港へ入る為の長い曲がりくねったフィヨルドの途中に幾つか防衛用の砦があります。

 その砦の一つを守る海兵団支隊の所属で、エルフ部隊のゴーレム騎乗戦を得意とする分隊だそうです。


 養母様はポッター海軍本部長官を信頼できる人物と見ており、彼らの調査に自警隊を使う事無く、海軍の海兵隊から部隊を抽出して捕縛に当たらせる事にした。

 ポッター長官は人族の海兵を中心として今回の件に無関係と思われる海兵を集め、ジュヘイモス港湾防衛海兵団の本部と問題の海兵が所属していた防衛用砦の海兵団支隊を捜査した。

 この時、防衛用砦に籠って抵抗する敵を実力で排除して逃亡した4名のエルフを捕縛している。


 前軍務省長官のニルディアと前筆頭秘書のカノニーネそれから前商工省長官のエカティナと前筆頭秘書のニエルダです、職名の前に前が着くのは養母様が即日解職したからです。


 抵抗した以上、反逆行為が付くのが確定してしまいましたが、暗殺を恐れた養母様がその日の内に桜草の宮へ移動させ、養母様直々の取り調べが行われています。

 彼女達はこれまでの苦い経験を踏まえ、持ち物や身体検査で髪を丸坊主にされ、其れこそ身体の穴と言う穴全てを厳重に調べた結果、忘却薬などの魔薬が見つかって居るそうです。


 養母様が私に仰るには、桜草の宮全体に結界が張ってあり、出入りする全ての人や物を見張る事が出来るので暗殺から守るにはここが一番良いとの事です。

 養母様の周りも厳重な警戒が敷かれ、執務宮に勤めている人でも北側の養母様の執務室へ近寄る事が出来ない様になりました。


 この間七日程立っていますが、オウレでは無事に工房のテストが終わり、偵察バードがその性能をクリアして、正式に工房の立ち上げとなりました。

 オウレ工房で作られる内容は偵察バード関連と、ウルの汁で強化した材料の作成と、新しく合板も作られることに成りました。

 映像通話用のモニターへの需要が高いそうですが、私の予想通りです。


 新建屋の基礎も終わり、現在建設中だそうです、彼らの事ですから数日で建ててしまうと思います。

 魔道具や工作機器の設置などこれから発注する物も多いので完成は11月ぐらいに成るでしょう。

 それまでは、効率は悪いですがドワーフ得意の家内制手工業的作業で偵察バードやモニターは作られて行く事に成っています。


 必要な材料の供給は姉ねに頼んで、ジュヘイモスから一度オウレへと飛空してもらい、そこで家(神域の部屋)からリアカーへ乗せて工房へ供給して貰いました。

 これでミオヘルンで家(神域の部屋)を出した事をオウレへと戻すことが出来ました。

 レタも事態が進んで私に影響が少ないと見てオウレでアイとナミに合流しました。


 ウルの汁で強化した木材の作成は準備が順調な様で、今は工房内の需要を見据えて準備しています、供給体制が整ってくればヴァン国内へ出荷できるようになるでしょう。

 特に合板用の薄板であれば1月程度ウルの汁に漬けて置けば十分強化されるので、合板に加工して出荷する体制を早めに作るそうです。


 レタの報告によれば、魔鋼製の工作道具の更なる購入を、しかも大量に求められているそうです。

 一度オウレに行って対応する必要が在りそうですね。

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