第59話 桜草の宮(2)

 魔薬入りのクッキーなどと言う奇怪な食べ物を出されてレタを交えたカスミ姉妹で色々話し合いました。


 (これは妖怪砂掛け婆達が仕掛けた事だと思いますか? by小姉)

 『帝国が仕掛けるには執務宮の中まで入り込むのは無理がありますです』とレタ。

 (彼女達以外に心当たりが無いし、他に誰か仕掛ける奴がいる? by大姉)

 他に執務宮の中でクッキーを魔薬入りにすり替えることなど無理がありますね。


 (だとしたら何が目的なのかしら? by小姉)

 『仕掛けて来るのが早い気がしますです』レタは何か懸念がありそうですね。

 (露見する事が目的なのかもよ? by大姉)


 (でも、1枚だけだし簡単に分かる様な匂いや見た目では無いわ、魔薬の量も少ないし by小姉)

 『桜草の宮で作られたクッキーと寸分たがわぬ同じ外見のクッキーを用意しておりますです』

 レタの懸念は分かるわ、用意周到な準備が伺えるけど、私が来るタイミングを読んで出せるかしら。


 (ねえねえ、単純に誰でも良いから、食べさせる事が目的じゃあ無いの? by妹)

 (1回食べた所で気分が悪くなるくらいで中毒に成ったり、死んだりはしないわ by小姉)

 (それは小姉だからじゃ無いの? 他の人ならもっとひどくなるとか by妹)


 (人族や樹人の子供の場合は中毒になるかもしれない by大姉)

 (中毒の症状が出ても、此処は桜草の宮だから対処は出来ると思う by小姉)


 (警告だろうね by大姉)

 (やっぱり、警告よね by小姉)

 (桜草の宮で作ったクッキーに魔薬を何時でも仕込めるぞ!でしょうか? by小姉)


 (警告としたら、誰に対してかしら by小姉)

 (妖怪砂掛け婆達ならカスミにだろう by大姉)


 (マーヤニラエル様へとかは無いの? by妹)

 (背後に居る妖怪砂掛け婆達まで遡る事が出来れば戦争に成るかも by小姉)

 (そんな簡単に調べられる事はしてないと思うよ by大姉)

 (誰か犠牲者がでたら、養母様なら絶対報復するでしょうね by小姉)


 (これを仕掛けた奴は如何した? by大姉)

 (私をここへ案内した人達? by小姉)


 (政務宮の事務官の二人組は神力型偵察バグを付けて泳がしているわよ by小姉)

 (一人がお菓子を持ってきた侍女に話掛けて、一人がおかしをすり替える、熟練した技ね by大姉)

 『しかもクッキーの種類や型まで同じにしているです』レタが指摘した事は深刻です。

 (しっかり映像に残したわ by小姉)


 (そちらは心配いらないね、では警告だとしてどんな反応を期待してるのかな? by大姉)

 (私なら警戒するでしょうよ、当たり前だけど by小姉)


 (カスミが警戒するなら如何動く? by大姉)

 (犯人が分からなければ、周りの人間を疑うわね、そして疑心暗鬼に陥って桜草の宮の人を信用しなくなる? by小姉)

 『マーヤ様が桜草の宮で孤立する事を狙っていると思うであります』レタの分析は正解だと思います。


 (養母様なら、疑心暗鬼に陥らずに再発防止に努めるでしょう by小姉)

 (妖怪砂掛け婆達に報復する? by妹)

 (どうするかは養母様のお考えがあると思います by小姉)


 (犯人を養母様に密告して捕まえて貰えばどうなる? by大姉)

 (妖怪砂掛け婆達は今回は失敗したと考えて、しばらくは大人しくなると思うけど by小姉)


 (それでも何か仕掛けて来たとしたら? by大姉)

 (妖怪砂掛け婆達に明白な何らかの意図か目的がある場合だけだよ by小姉)


 此処まで考えて、養母様へ知らせる事にしました。

 これ以上は養母様のお考えを聞かないと分かりません。

 他にもカモメ盗難の事を知らせる必要が在ります。


 紅茶を飲みながら、養母様を待ちます。

 この部屋には紅茶を注いでくれたエルフの侍女やお菓子を持って来てくれたドワーフの侍女の他にエルフ2人、ドワーフ1人、人族1人の侍女が居ます。


 養母様は既に公務は終わって、自室で寛いでいたようで1コル(15分)も待たずにやって来ました。

 お風呂から上がったばかりのネグリジェ姿です、少し目のやり場に困ります。

 養母様はまだ千歳ほどの若いエルフなので胸はあまり目立たないですが、姉ねのようなスタイルの良さが透けた服から好く分かります。


 「何かあったの? カスミちゃん」と部屋に入ると直ぐに聞いてくる。


 「はい、2点ほど、一つは私がヴァン国に乗って帰って来た船、カモメが預けた船工房から盗まれました」

 「もう1点は、ジュヘイモスの執務宮に来てから発生しました」続けて報告したい2点を言います。


 「これに魔薬が仕込まれています」

 とクッキーの中から一つをそーっと避けます。


 そう言った瞬間周りの侍女達に警戒のざわめきが立った。

 特にこのクッキーを運んだ侍女は顔が真っ青だ。


 養母様はしばらくジッとクッキーと見つめた後聞いて来た。

 「魔薬を仕込んだ方法は分かっているの?」


 「はい、私を此処まで案内してくれた政務宮の事務官2人です。」はい、と答えた瞬間緊張があたりを包むのが分かった。

 政務宮の事務官だと言った時には、殺気に似た何かが立ち上がった。

 二人の侍女が養母様に頭を下げると奥のパーティションで区切られた中へと消えて行った。

 事務官2人を追う為出て行ったのだろう、その内の一人はクッキーを持ってきた侍女だった。


 養母様はそれを見てから、此方を向くと、カモメについて聞いて来た。

 「カモメが盗まれたと聞きましたが、どのような状況で盗まれたの?」


 私は、ハルク船工房での出来事を持ってきた書類を見せながら説明した。

 書類は魔紋があった部分が白紙に成っている状態で養母様に見せた。


 「この白紙は?」と養母様が聞きます。


 「はい、そこに商工省長官の魔紋とサインがあって、カモメを引き取る事情が書かれて在ったそうです」

 ハルク船工房頭の話を伝えます。


 「引き取る事情の内容は分かる?」養母様が続けて聞かれます。


 「私が引き取りに来れないので、商工省が引き取って養母様のお召艦にすると書いてあったそうです」

 私が書かれていた内容を話すと、養母様は何か思い出したご様子です。


 「実はね、7月の終わりごろカモメを私のお召艦にしないかと、話があったの丁度貴方の仕事が多くなってきた頃よ」

 「オウレが忙しくなるし、私も素早く動ける船が在ると助かると思っていた時だしね」

 「軍務省にはカスミちゃんが良いと言ってくれれば、話を進めてくれと回答してたの」

 どうやら、妖怪砂掛け婆達の暗躍は結構前から始まっていたようです。


 「でも、白紙ではどうしようも無いわね」養母様は改めて書類を取り上げ、裏表を確認しています。

 「この魔紋とサインは盗まれた工房のもの?日付は今日になってるわ」ハルク船工房頭のサイン用魔紋とサインが書かれて在る裏を見て聞いてきました。


 「はい、持ち出すときに証拠として使えるようにサイン用魔印章でサインしてもらいました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る