第54話 工房の立ち上げ(3)

 制御系へ行きましょう、此処は通信と制御の魔道具の作成ですから、彼らの道具で魔術陣の作成は手慣れている事でしょう。


 「こんな緻密な魔術陣など見た事も聞いたことも無いぞう!」

 と図面を見て叫んでいるのはホーリホック(オリガルグ族長の子)です。


 「どうされました?」

 と図面のどの部分が理解が出来ないのか聞いて見ます。


 すると、横に居たサスマッタ(オリブルガ族系)が私に聞いてきました。

 「カスミ師匠、この通信魔道具の制作は上下に2層で作るのじゃろか?」


 「ええ、そうですよ上の層は送受信系です、下は各装置に分波か集波する部分を分けて繋げている部分に成りますね」

 と解説して上げる。


 「カスミ師匠、一層だけの作りでも良か無いかの、と言うより上下2層なんて作ったことも、見た事も無いんじゃが」

 これは反対側に居るジョブスン(オリガルグ族の従兄)が不貞腐れたように言って来る。


 「それでは今の大きさの3倍ぐらいの大きさに成りませんか、それに消費魔力が5倍は掛かりますよ」

 と何故2層にしたのか説明する。


 「カスミ師匠、此処まで緻密な魔術陣は私達の持っている道具では書けませんし、この設計図に書いてある許容範囲に収める程正確に刻めません」

 私へ近づいて来て、キドニィー(オリガルグ族系の従弟)が打ち明けてくれる。


 彼らの技量なら此の位の物は書けると思っていましたが、仕方がありません。

 提供する気はありませんでしたがラッパ型の超小型魔波通信機作成の為に作った、微細書き込み装置を提供する事にしました。


 これは10倍の大きさで作った原盤を人が針でなぞって、書き込み用の基板へ1/10のスケールでなぞった通りに正確に書き込む装置です。


 もともと私の詳細空間把握のスキルで書き込めば魔石CPUのような物まで作れるので私達には必要のない物ですが、ラッパ型の超小型魔波通信機には必要かもしれないと作った物です。

 それより、10倍以上線が太い通信魔道具の魔術陣を作る為に使う事に成るとは思ってもいませんでした。

 これで、偵察バグは作れ無い事が確定してしまいました。


 制御系の人達が微細書き込み装置を囲んであれこれ騒いでいるのを後ろに、最後の動力系へと何事もありませんようにと祈る気持ちで向かいます。


 「カスミ師匠、魔術陣を曲面に書き込む事など出来るのでしょうか?」

 と近寄ると、私を見つけたカーライル(オリハラン族長の子)が早速に聞いてきます。


 旋風推進機の筒は曲面です、そこに旋風の魔術陣を書き込んでいくだけのはずなのですが、何が問題なのでしょう?


 「カスミ師匠、私達は平面への魔術陣の書き込みはできますが、曲面へどうすれば書き込めるのか戸惑っているのです」

 とマイノン(オリハラン族系)は今困っている事を率直に話してくれます。


 「曲面も平面も基本は同じです、ただ平面は書きたい場所から場所へと書いていけますが、曲面で其れをすると歪みが出来る事に成りかねません、曲面へ書き込む場合は常に上に成る一本の線の幅に書き込んでいくのです、慣れない内は設計図を同じ曲率の管に巻き付けて書き込む位置を同じにして見ながら書き込めば間違いが少なくなりますよ」


 話しながら、動力系は慣れてくれば歩留まりも良くなってくるでしょうから人数は半分の2人ですが、一番余裕のある部署になると思いますね。


 木工系の刃物を振りかざす人たちの近くに寄りたくなかったので、ケマル魔具省長官を見つけて合板の契約について隣の教室へ戻ってそこで話合いました。


 契約は合板の売り上げの5%を私のロイヤリティとして魔具省から私へ支払う事に成りました。

 私は合板の接着剤のレシピを提供しますが、独占契約では無い事は念を押して置きました。


 ケマル魔具省長官は最後までぶつぶつ文句を言っていましたが、私が契約書3通を同じ内容で作ってケマル魔具省長官に突きつけると、文章の文言を確認して渋々魔紋とサインをしました。

 私もさっさと魔紋とサインすると一通はケマル魔具省長官、一通は私、最後の一通は執務宮の自治庁へ渡す分です。

 契約などの政府との何らかの決め事は担当部署が契約書を保管しています。

 今回は、魔具省と私(個人)との正式な取引の契約書なので魔具省と自治庁で保管します。


 契約の話し合いは意外と時間が掛かり、契約が終わる頃には昼の10時(午後3時)は過ぎていました。

 実技の教室へ行って、私は帰る事を伝え、貸し出した工具を4セット全て回収しました。

 なんだか彼らにこのまま持たせて置くと危険な予感がしたのです。

 木工系の4人ともこの世の終わりのような顔をして容赦無く彼らから工具を回収する私を見ていました。


 微細書き込み装置はある程度の大きさと重量が在るので、このまま実技室へ置いて置くことにしました。

 制御系の4人はなんだかホットしたような顔をしています。


 動力系の2人は熱心に筒への書き込みの練習を行っています。


 教室の全員に明日の授業は飛行機の構造と動きにする事を再度告げて、今日は帰ります。

 帰る前にオスカー(ハルク船工房の子)さんに明日工房の帰りに寄る事をハルクさんに伝えてくれるように頼みます。


 工房から出て飛空で空へと上がりながら、考えます。


 今後提供する物が増えると今回のように契約書を書く事が多くなるかもしれません。

 金銭的な管理は此れまでもレタが行ってくれていましたが、表立って仕事をしてもらうには正式にオーナ姉妹を私の個人的な使用人として登録する必要が出てきました。


 オイナさん宅への下宿は良い機会なのでこの件を利用してオウレの港町で雇用した事にしましょう。

 私が作ったオーナ姉妹用のヴァン国身分証明書には妖精族としか書いていません。

 出身は帝国より東の国で聖樹の変で東へ逃れた妖精族としましょう。


 雇用主をするからには、彼女達への給与の支払いが必要ですし、私の金銭的収入も必要です。

 今後の為にも自治庁の情報部の室長として、今回の工房立ち上げの仕事は正式な辞令として養母様に書いてもらえば、私の収入が増えるかもしれません。


 これまで仕事は全て養母様からの言葉だけの指示で行ってきました。

 情報部準備室長への就任は辞令として貰いましたが、其れも正式な予算が付いたからで、実働はもっと前から働いていましたからね。

 今回の仕事も養母様の指示だけで行っています、これをお金にするには辞令を貰うのが一番の早道ですね。

 授業料や提供予定の工具や魔道具の支払いも貰う必要が在ります。


 (なんだか急に所帯染みて来たね by大姉)

 (お金は大切だよ? by妹)

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