第53話 工房の立ち上げ(2)
約束の昼5時 (午前10時)少し前に工房予定地へ降りる事が出来ました。
教室は、最初に来た時立っていた小屋の場所の反対側に立派な建物が立っていました。
門が作られる予定の場所側に建てられているので、この建物が工房の事務所に成るのかもしれないですね。
中に入ると、ケマル様と10人のドワーフの方々が居られます。
「ケマル様この方達が今日から授業を受けられる方々なのですね」
挨拶をした後、ケマル様に後ろに控えて居られる方々の事を聞きます。
「そうじゃ、名前は此の名簿に書かれておる、これから早速授業を始めて欲しいのじゃ」
お名前の紹介も省いて、早速授業を始めるように催促します。
教室は2部屋用意されていて、一部屋は授業を、もう一部屋は実習が出来るように作られていました。
教室は教壇を底として、奥へと半円形に囲んで徐々に高くなっていきます。
その途中に円周に沿って机と椅子が作り付けられていて、3本の通路が通っています。
その雰囲気は地球の大学の教室に良くある様式に似ています。
早速授業用の教室でインベントリのカバンからホワイトボード2枚と書き込み用の太いホワイトボード用ペンと消しゴム替わりのスポンジを出しました。
聴講者が100人は入れる部屋の最前列にドワーフの全員が椅子に座ります。
半円形に成った生徒席からさらに一段下がった教壇から見ると、見下ろされて結構な威圧感を感じます。
最初は自己紹介でしょうか、私の名前から披露していきましょう。
「初めまして、今日から5日間飛行機とそれに関連する魔具などについての授業をします」
「カスミ・マーヤニラエル・ヴァン・シルフィードともうします、よろしくおねがいします」
教室に来ているドワーフの匠達は皆さん私の事は知っているようです、名前を聞いても動揺していません。
この国の王女である事は、ケマル様から聞いているようですね。
「5日間の授業を行い最終日に試験を行います」
「試験と言ってもこれから皆様が作って行く飛行機を5日までに完成させて、飛行機が求められている性能を達成していれば合格に成ります」
「授業は昼5時から昼7時までが理論的な解説です、昼8時から昼10まで飛行機作成の実習を行います」
「皆様がテストに合格されたら、昼8時から昼10時までの実習は工房立ち上げのお手伝いになります」
授業内容に付いては此の位でしょうか。
「では、名簿に載っている順番にお呼びしますので、返事をお願いします」
「先ず、ケマル様」とケマル魔具省長官の名を呼ぶ。
「おお、儂じゃ。」とはケマル様です。
「次はジグラット様」オリブルガ族長の息子さんが来ているのですね。
「おお!ジグラット・オリブルガ・クーディス、工房大学の木工科の教授じゃ、よろしく頼む。」
声も体も大きな方ですね。
「次は、シニアス様」髭にこだわりがあるのでしょうか、口の周りに綺麗に揃えられています。
「アーチボルト船工房で匠頭をしておる、よろしく頼む。」
オウレの2大船工房の片方の人だね。
「次は、オスカー様」今日の出席者の中で一番若い方では無いでしょうか。
「ウルの汁を使った強化材の研究をしておる、工房大学大学院生ですじゃ、よろしく。」
おや、この方はハルク船工房で見かけた事があります、関係者でしょうか?
「次は、オルドニス様」この方も若いですね。
「工房大学大学院生でウルの汁の研究を行っていますだ、以後よろしく頼んます。」
目が鋭いですね、何か武術を習得されているのかもしれませんね。
「次は、ホーリホック様」オリガルグ族長の息子さんですね。
「各地の工房を渡り歩いて修行する身でござる、付加以外に土魔術が得意ですじゃ。」
気風の良さそうな方です、次期族長と言って良い趣がありますね。
「次は、サスマッタ様」何か研究をされているのでしょうか、ドワーフの匠にしては細いですね。
「魔通信の専門で付加科の教授ですじゃ、カスミ姫様よろしくお願いします。」
一番丁寧な挨拶ですね、研究に専念されているのでしょう。
「次は、ジョブスン様」ドワーフの方は黒髪の方が多いですね。
「ホーリホックと組んで各地の工房を渡り歩いておる、映像と音声の通信を専門としておる。」
モニターの作成はジョブスン様に成るのかしら。
「次は、キドニィー様」ジョブスン様と似ています、血縁関係かしら。
「同じくホーリホックと組んでおる、土と付加の魔術を専攻しておる。」
把握の感触では一番魔力が多い方のようです。
「次は、カーライル様」オリハラン族の長の息子さんです。
「回転魔具の専門で工房大学で教えておりますじゃ、教授をしておりますな。」
真面目そうな方です、回転魔具の専門家ならモーターお任せして大丈夫でしょう。
「次は、マイノン様」この方も真面目そうです。
「魔石から魔力を取り出す研究を長年しております、工房大学の教授です。」
魔石から魔力を取り出す魔具の専門家が居たのですね、縁の下の力持ち的な研究をされているのですね。
11人の出席を確認して授業を始めます。
今日は翼の構造と空気の流れ、それによる揚力の発生を説明していきます。
竜骨を備えた船の縦帆の働きなどの、ドワーフの人達に身近な例を出しながら話をしていきます。
大雑把に纏めながら、揚力の計算式から翼の材質が揚力にどの様に影響するかなどを教えて行きます。
質疑応答の時間では空気の性質や水中での揚力の計算などの質問が出て、理解が出来ている事を実感しました。
次の時間は飛行機の構造と動きにする事を伝えます。
最初の授業が終わったので、食事に行こうと教室から出た時、ケマル様から声を掛けられました。
ここに食堂も併設されていて、既に食事の用意が出来ているそうです。
授業の在る間は昼もここで食べて昼10時(午後3時)までいて欲しいそうです。
ケマル様の目を見ると、逃がさんと目が言っています。
お皿より大きなステーキが出ましたが、大声でしゃべられるので唾が飛んできて食べる気が失せてしまいました。
パンも岩石パンが一つ丸のまま出ていて、私では歯が立ちません。
食事の最中も、食事を諦めた後もケマル様やドワーフの方々からの質問や疑問点が出てそれに答えていると、席を立つ暇もありませんでした。
昼からは工房の立ち上げのお手伝いですが、しばらくは工房で作る事に成る部品などの制作実習をします。
実習では各自が分担する専門の分野毎に分かれて行う事に成ります。
木工関係の方は。
ジグラット、シニアス、オスカー、オルドニスの4名です。
オスカー様はカモメを預けたハルク船工房で見かけた事が有ったので確認したら工房の息子さんでした。
偵察機本体は基本木製です、偵察機の胴体、前翼、尾翼、離着陸用橇などを作る事に成ります。
他に偵察機本体に取り付ける補助翼、方向舵、昇降舵なども木製です。
後、私とは直接関係はありませんがウルの汁を使った強化木材などもこの人達が作って供給する事に成るそうです。
今回はウルの汁で強化した合板の板材を提供しています。
その件でケマル様から合板に使ったウルの汁から作った接着剤を教えて欲しいと頼まれてしまいました。
さらにケマル様からは合板用の接着剤の独占契約をして、魔具省だけが使えるようにしたいと迫られています。
ハルク船工房と契約する事に成っているので、ケマル様と契約しても構わないと思いますけど、独占契約は出来ませんと答えています。
制御系関係の方は。
ホーリホック、サスマッタ、ジョブスン、キドニィーの4名です、オリガルグ族は通信長の家系で秘めた名(繋がり知る者)を持っているので多いのかもしれませんね。
作るのは、飛行機の制御を行う通信魔道具からの魔波を各機器へ分波する為の魔道具と逆の働きをする集波用魔道具などです。
操縦装置一式(通信魔道具、音声画像魔道具、推進力の切り替えレバー、操縦べダルと操縦桿)もここになります。
基本は通信用の魔波と魔波に乗る魔力を操作する為の魔道具作成です。
映像通話が広まればここで作られるモニター(テレビ型音声映像魔道具)が基準となっていくのでしょう。
ここに集まった方々はそれが出来る方々の様です。
制御系の実習は出来る事の確認に成りそうです。
動力系関係の方は。
カーライル、マイノンの2人です、さすがオリハラン族ハイドワーフ(機関長)の家系です(運航し進む者)の秘めし名持ちだけあって動力機関係は他のドワーフには譲りたくないのでしょう。
動力として、推進用の旋風推進機と動力源の魔石などです。
偵察機本体に取り付ける補助翼、方向舵、昇降舵の制御用モーターもここです。
旋風推進機以外は皆さん作った経験があるそうなので、旋風推進機の作成の実習だけをする積りです。
今日の実技は此の3つの班で行います。
実習を始めた所が、木工のグループが騒がしいので行ってみると、最初に取り掛かった材料の切り出しで提供した合板の板がのこぎりで切れないと騒いでいます。
聞くと渡した飛行機の設計図から必要な板材を準備する為に凡その大きさに切り分けようと板に印をつけて強化木材用の魔鉄(アダマンタイト)合金製のこぎりで切り出そうとしたそうです。
所が、そののこぎりでは刃が立たなくて、其れで騒いでいたそうなのです。
渡された魔鉄(アダマンタイト)合金製のこぎりを調べて見ると、妹が使っているのこぎりは魔鋼(アダマンタイト)合金製で魔鉄の割合は同じぐらいな事が分かりました。
仕方が無いので持ってきた木工用の道具を4セット彼らに渡し、其れで作るように言ったのです。
「これはすごい!誰が鍛えたのこぎりか知らないが名工の手になる物に違いない!」
などと、ジグラット(オリブルガ族長の子)が手にしたのこぎりを高く掲げて息巻いています。
魔鋼を見た事が無いのでしょうか?
「いや、此方のカンナ屑を見てくれこんな薄く一様に削れるカンナの刃は見た事無い!」
シニアス(アーチボルト船工房の子)が感心したように削ったカンナ屑と刃先を見つめています。
オスカー(ハルク船工房の子)とオルドニス(自警船隊付属船工廠の親方の子)は無言で大小のノミが入った箱の中を覗いています。
何か刃物に魅せられた人のような雰囲気がして、思わず遠ざかってしまいました。
道具は渡しました、飛行機の部品を作る技量はあると思うので、私は別のグループへ行くことにしましょう。
決して逃げるわけではありません、例え怖かったとしても今の私は教師なのですから、ただ危うきに近寄ら無いだけです。
今後も凶器を持ったアブ**人には近寄らない様にします。
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