第51話・3 (閑話)教室を早く!

 ケマル魔具省長官は集まった錚々(そうそう)たるドワーフの匠達を前に、如何に今回建てる事に成る建物が重要か説明していた。

 「よいか!皆の衆!良っく聞け!カスミ姫様はこうおっしゃった!」

 「教室が出来てから授業をします!とな!!」


 「よって!!今求められているのは如何に早く教室と付属施設を建てるかだけだ!!」

 「幸い!建物の参考に成る教室はジュヘイモスの工房大学にある!!」

 「此の建物の設計図を基に既にオウレ工房の教室用に設計しなおした物はここにある!!」

 ケマル長官が設計図が入っていると思われる筒を振り回すと、集まったドワーフの匠達から歓声が上がった。


 「おお!」

 彼らに取ってもこれほど早く設計図が出来ているのは驚くほどの速さと言って良いだろう。

 カスミ姫様が来られたのは昨日、今日昼3時(午前8時)に出来ていると言ったからには徹夜で書いたのだろう。

 たとえ参考にした設計図があったとしても1日に満たない時間で一つの建物の設計を書き上げるなど、出来無い事もないかな程度の「おお!」だったが。


 ジュヘイモスの工房大学は彼らが学んだ大学と言う名の弟子入り先だ。

 この大学の理念は『全ては!全てに!』と言うもので真っ当なものだが。

 実践は、一に体力、二に知識、三四も体力、五は技術、を学長自ら学生(弟子)に指導(強要)している。


 別に学生はドワーフだけと言う分けでは無いのだが、他の種族の学生が居たとしても教育内容に付いて行けず、残るのはドワーフのみになる。

 就学期間も50年と人族なら寿命が来てしまう歳月が必要だ。


 一と三四の体力だが、一日に3回ランニングがある、学生は毎日これを食後の腹ごなしに走らなければ為らない、もちろん全校生徒と学長を含めた教師(師匠)全員でだ。

 知識と技術は50年学べば十分身に付くと思う、身に付かなくても50年の間に教師(師匠)が拳骨と一緒に体に叩き込んでくれる親切仕様だ。


 因みに、年月と共にランニングの内容はより加重が掛かった物に成って行く。

 最初はランニングだけからやがて砂袋を担いで走るようになり、専攻科によっては材木や鉄骨果ては魔鉱石などの袋を担いで走る。

 卒業が近い学生や教師達は、身体強化の魔術を行使して船や魔鉄の合金で作った聖樹を象った大木を担いだりして走る。


 最後の聖樹の像は他の種族から「不敬だ!」と批判が出ているが、ドワーフ達は「これが大学の敬意の表し方だ!!」と意に介していない。


 因みに、ドワーフの女性だけの学園もある。

 日本流に例えれば、保育園から大学院まで一貫して学べる学園と言った所だろう。

 途中入学も出来るが、ドワーフの女性以外はドワーフと結婚した人族や他国から来たドワーフ系の人族に限られている。


 エルフの女性とドワーフの男性が結婚したらどうなるか?

 結婚した例が無いので分からないが答えです。

 では、エルフの男性とドワーフの女性なら?

 エルフの男性がドワーフにリンチに遭って終わりです。

 帝国などへ誘拐されて、子供を人族との間に作ったドワーフの女性はいます。

 生まれた子供は人族でした。


 さて、話を教室の建設に戻すと彼らは1日で基礎を作り、次の日に柱を立て屋根まで作り上げた。

 3日目には外壁まで仕上げた、4日目には内装に掛かり。

 5日目は内装を仕上げ、魔具や家具を運び入れて教室を完成させた。


 建築に携わった人を紹介しよう。


 設計並びに総指揮 ケマル・オリノラン・ガスウィン、魔具省長官にしてオリハラン族の黒髪の男、知的好奇心を刺激されるとオタク的行動を取る。


 木工関係の方は。


 ジグラット・オリブルガ・クーディス、オリブルガ族長の息子、大学の木工科の教授、茶色の髪でドワーフ一の大男(ナイスガイ)を自称、ウルの汁で強化した木材の研究をしている、木工道具にこだわりのある男だ。


 シニアス・オーブ・エルネスト、オリブルガ族系のアーチボルト船工房の頭の息子、頭は坊主頭だがビげは自慢の黒い美髭、カンナ掛けに命を懸ける削り一筋の男。


 オスカー・オリエスト・カナント、オリハラン族系のハルク船工房の頭の息子、木工道具の手入れが好きな黒髪の男の子、現在ジュヘイモスの工房大学大学院生、ウルの汁で強化した木材を専攻。


 オルドニス・オリオハン・クルディデスはオリハラン族系の自警船隊付属船工廠の親方の息子、木工道具のコレクターとして有名な茶髪な隠れオタク、現在ジュヘイモスの工房大学大学院生、ウルの汁の研究者。


 制御系関係の方は。


 ホーリホック・オリガルグ・カーティス、オリガルグ族の長の黒髪の息子、魔術は付加以外に土魔術もマスタークラス、教室の土台は彼と仲間たちが作った、音頭取りがうまい男だ。


 サスマッタ・オリブノン・ナノニス、オリブルガ族系、同じ付加科だがホーリホックの仲間では無い、孤独な付加術師として研鑽する魔通信の専門で付加科の教授だ、髪は茶色。


 ジョブスン・オリガルノ・カニーニ、オリガルグ族系で黒髪のキドニィーと従弟で父が兄、工房大学卒業と共にホーリホックと組んで各地の工房を渡り歩く、映像と音声の通信が専門、土と付加のソフトな性格の魔術のマスターだ。


 キドニィー・オリガルノ・カニーニ、オリガルグ族系で茶髪のジョブスンと従弟で父が弟、工房大学卒業と共にホーリホックと組んで各地の工房を渡り歩く、土と付加の魔術の腕前は3人の中で最も高いが引っ込み思案の男だ、因みに内臓肉は嫌いでは無い。



 動力系関係の方は。


 カーライル・オリハラン・ガーヴィン、オリハラン族の長の息子、ドワーフにしては物静かで真面目な回転魔具専門の錬金科の教授、錬金と付加では右に出る物は無い実力を持つ黒髪の魔術師。


 マイノン・オリハント・セリス、オリハラン族系、カーライルの同僚で同じ科の魔石研究の教授、努力の人だが報われ無い事が多いと思っている黒髪の男。


 彼らによってオウレ工房の最初の建物、教室棟は5日と言う記録的な時間で建てられた。

 人呼んで「オウレ工房の11人」とは彼らを言う。


 帝国への魔道具の輸出停止を受けて、国内での魔道具の出荷先を探していた魔具省はオウレ工房の成功により、先端技術の習得が出来たためこれを国内の工房へ普及させる事が出来る様に成り、魔道具の品質の向上と価格低下を実現した。


 以後ヴァン国内の需要が高まり魔具省は更なる発展を目指すことに成る。

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