第51話・2 (閑話)ある男

 彼はジュヘイモスの近郊の小麦農家に生まれた、15歳の時巡回学校で回って来たキャラバンに同乗させてもらってジュヘイモスの町へ出て来た。


 船の積み荷の手配をする商店で働き出した彼は仕事柄船員と仲が良くなり、良く酒を飲んで馬鹿話や仕事の愚痴を言い合って騒ぐ事が楽しかった。


 そんな無謀な若さに任せたバカ騒ぎを毎日送っていたある日、彼はエルフの女とひょんなことから酒場で知り合った。

 そのエルフの女が若い男ばかり狙う男漁りのエルフの女だと気が付きもせず付き合った。


 数回付き合って気の済んだエルフの女は「遊びは終わったの」と言い残して消えて行った。


 捨てられた彼の方は、簡単には諦められなかった。

 港の酒場や娼婦のいるような店にまで顔を出してエルフの女を探した。


 やがてそんな場所で働く一人の男と知り合い酒を飲んで話す間柄に成っていった。


 港の闇ギルドに関わる様な男だったが、彼と飲む酒は不思議と心を穏やかにしてくれた。

 大概の人は彼のような闇ギルドと関りが在る男とは関りを持ったりしない。


 しかしその男は彼と同じエルフの女に捨てられた過去を持っていたのだ。


 彼から自分も関わったエルフの女達が、人族の若い男を漁る万の歳を超えるエルフの女だと教えられた。

 最初は信じられなかったが、同じ様な経験をしたと言う彼の知り合いの男達の話を聞いて、信じるしか無かった。


 彼によると。


 「エルフの女は一つの芝居の場を作り出し、その中で自分に割り当てた役を役に成りきって演技し状況の変化を楽しむのさ。」

 「例えば、こんな設定だよ、此処に横暴な男の妻で一人の純情なエルフの女が居るとする。」

 「彼女はある日在る時町で男と出会いをする、雨の降る日に馬車が跳ねた泥水を被って困っている女を助ける男でも良いし、晴れた日に暑さにふらふらに成った女に助け舟を出す男でも、もっとストレートに酒場で偶然手と手が触れ合うでも良い。」

 「出会いが終われば男と女、二人は何度か出会いを重ねて行くにしたがって情熱を高めて行く。」

 「そして在る夜二人は結ばれる。」

 「しかしエルフの女は帰らなければ成らない家があった。」

 「別れを告げる女、すがる男。」

 「男の手を振り切って分かれる女。」


 「まぁそんな状況を作って演技して楽しむのさ、エルフの女って。」

 そう言って、酒を呷(あおる)る男だった。


 エルフは性欲はあるけど普段は気にもしてい無い、所がだいたい百年に1回程度の周期で性欲が高まる時期がある、子供ができやすい時期らしい。

 厄介な事に樹人全般に言える事だけど、ある程度親密な関係に成らないとその気にも成れないし子供もでき無いらしい。


 エルフの夫婦なら問題無いけれど、一人者だと性欲を持て余してしまうのは人もエルフも変わりが無い。

 しかもエルフは数万年前に男と女で大喧嘩をして、男はエルゲネス国へ女はそのままヴァン国(当時はダキエ国)に残った。

 つまり夫婦のエルフは殆ど居ない事に成った。

 エルフの女は性欲を持て余す事に成り、自分から状況を作って性欲を発散するようになったのさ。

 しかもそれがエルフの人口を増やす事に貢献している、エルフの女にとって良い事ばかりなのだよ。

 捨てられた男の事は全然気にもしないでね。


 え、子供が出来たのならエルフの女が戻って来るか?だと。

 戻って来る訳が無い、エルフの女が生むと男がどの種族でも全てエルフに成るんだよ、全てね。

 しかもヴァン国ではエルフの女達は金持ちなんだ、エルフ専用の学校や生まれた子供を預かる施設を作って親に負担の無い子育てが出来る様になっているんだ。


 エルフ専用で、人族用は無いがな。


 やがてノスリと名を変えた彼は、商業同盟で頭角を現してい行く。


 エルフの女の暗黙の黙認の元、魔薬や魔道具などを使いエルフやドワーフの子供を誘拐する事に成る。


 帝国への戦争回避の為樹人を暗黙の内に誘拐させる事で、帝国の要求を満足させたいエルフの女達。

 厳しい取り締まりを搔い潜り誘拐して、金儲けをしたい商業同盟。


 皮肉なことに利害の一致する事で彼女らと再び付き合う事になる。


 ノスリは時々エルフの女が単純に戦争回避だけの為に子供の誘拐を見過ごしているのか疑問に思う時がある。

 帝国の圧力に泣く泣く人身御供を差し出しているにしては、ヴァン国は帝国を恐れていないし、協力するのは一部のエルフの女で政府の高官に限られる。


 何か彼女達には思惑がある、そうでも考えないと、自分達の子供を誘拐させる事など人族では考える事さえ出来ないだろう。

 エルフの女の思惑に何か彼女達が思い描く舞台が在るのではと思えて仕方ない、エルフの女は舞台で演じ切る事が大好きな妖怪だから。

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