第48話 氷雪の森ダンジョン(7)

 ナミの新しい能力を確認した後、私たちは更に奥地へと2組に分かれて踏み入った。

 レタやアイには今の所、体の切れが良くなったとか今まで以上に身体能力が上がった位で新たな能力は見つかっていないのですが。

 私の感ではレタは私と同じように空間把握が統一されて別次元の把握になっていると思うのです。

 アイの方は聖域の結界が今までの防御魔術に加えて使えるのでは無いかと感じています。

 時々アイの張る矢除けの結界などに聖域の神力が混じっているのを感じる時があるのです。


 採取した魔木などをカバン毎倉庫へ入れると、姉ねと妹に後を任せて私達は外へと出ます。

 氷雪の森ダンジョンもここはすでに背骨山脈の麓(ふもと)に入っています。

 あちこちに崖が現れるようになり、歩いていると上り坂に成っているのが分かります。


 出て来る魔物は中級の中でも7級(大鷲、グレイトベア)ぐらいだったのが、迷宮毛深黒オーク6級が出て来るようになりました。

 迷宮毛深黒オークは見た目黒い雪男に見えますが、魔力を使う魔物です。

 魔術を使ってくるわけでは無いのですが、魔力を身に纏い身体能力を上げて来るので、見た目以上に力が在って接近戦には注意が必要です。


 カ式連発小銃で撃っても傷は負っても中々倒れません。

 連射で数発急所を撃てば倒れるので、近づく前に倒して行きます。

 ドロップ品は6級の魔石とオーク肉でした。

 でも地面に落ちているオーク肉を拾って食べる気に成りません。

 この付近の地面は木の葉などの腐葉土が積もっているのでドロップした途端、オーク肉にべっとり土が着くのです。

 魔石だけ持って行くことにします。


 昼7前(午前中)に更に2体の魔木を採取出来たので、今日中に後3体の魔木採取の目的は達成できそうです。

 お昼ご飯の前にお風呂に入って汚れを落としました、ご飯は昨夜から用意して朝の内にナミとアイが作って置いたキドニーパイです。

 新鮮な牛の内臓が手に入ったので、作ってみたそうです。

 暖めなおして熱々のキドニーパイとジャガイモのフライを食べます。

 牛の腎臓は丁寧に処理されていて、臭みはあまり感じませんし一緒に入っている牛肉がおいしさを増しています。

 ハーブやトマトに豆などの野菜が良い味を出していて思ったより美味しくて好きになった味です。

 因みに昨日のブラッドソーセージには心臓や肝臓などの他の内臓も入れているそうです。

 そうですよね、豚より角の在る牛の方が怪我が致命傷になりやすいですよね、ベーコンが二日目の朝に出たので豚だとばかり思っていました。


 昼から更に奥へと踏み入ります。

 背骨山脈もここまで近づくと山脈の高峰が遠くに壁の様に見えて来ます。


 しばらく上り坂を登っていくと、開けた場所へ出ました。

 何故か、周りに木が無くて草地がこの部分だけ広がっています。

 「お嬢さま、この草地は何らかの生物がここで木を倒して作った草地だと考えられますです」

 レタが何かを感じたか、それとも新しい把握スキルで知ったのかもしれないですね。


 「レタ、何らかの生物って木を倒す事が出来るような生き物なのよね」

 「はい、その生き物が大きいか、小さくても大きな集団なのか分かりませんが、木が根こそぎ無くなっていて、その後が窪みに成っていますです」

 とレタが指さす先は、確かに窪みが在ります、更に周囲を見渡すと同じような窪みがあちこちに見られます。

 窪みは下から尾根に沿って登って来てここで一度広がりを見せて、そのまま又尾根伝いに登って行ったように見えます。


 窪みを調べる為に近くの窪みまで近寄ると、地下の根が在った部分まで空洞が続いていて上からの地面の重みで潰れた事が把握スキルで分かりました。

 いまだに空洞になったまま形を保っている部分も在ります。

 この事は木が切り倒された訳では無く、さりとて引き抜かれた訳でも無い事を知らせています。


 白アリの様な木質を食べる生き物なのでしょうか、それにしては樹皮や枝も残っていません。

 根まで丸ごと無くなっています。

 草は恐らく一度無くなって、又生えて来たのでしょう、だとすると此の変化は年単位で移動していると考えられます。


 一つだけ思い当たる魔物が居ます。

 ヒュージスライムです、大きさは人の指先ぐらいから山の大きさまで食べて来た量によって変化します。

 山スライムとも呼ばれています。

 ヒュージスライムはとても珍しい魔物です。

 発生する事はめったにありませんが、一度発生すると討伐されるまで食べ続けて、大きさもどこまでも大きくなります。

 分裂したり、素早く動いたりはしませんが、大きくなったスライムはそれ自体が厄介です。

 先ず、攻撃が通用しません、核にダメージを与えて倒すのが有効な方法なのですが、核の場所が分からないと倒せないので、核までどのくらい距離が在るのか、核が何処にあるのか調べなければ攻撃もできません。

 しかもスライムの移動に巻き込まれてしまうと取り込まれて吸収されてしまいます。


 その他の方法は過去に山の如くに大きくなったヒュージスライムを討伐した記録がありますが、数百人の魔術師で遠巻きにして魔術の火と油や薪(たきぎ)などの燃せる物を使って焼き殺したそうです。

 ヒュージスライムは乾燥すれば燃えるそうです。

 燃やすと魔石もドロップも無いそうです。

 つまりお金に成らないのです。


 ダンジョンに発生すれば、その階の全てを覆って人の探索が出来なくなります。

 為政者にとってお金にもならない魔物を大金を出して討伐する必要があるとても嫌な魔物です。

 しかし、発生してしばらくの間はとても小さいので、その時に討伐するのは簡単です。

 ヒュージスライムの討伐は小さい時なら踏みつけるだけで殺す事が出来るので、柔らかい魔石が取れます。

 使い道はありませんが、為政者はこの魔石に懸賞金を出していて、金貨を払っている所が多いそうです。

 ドロップ品の記録はありません、ドロップ率が悪いのかスライムの肉とかなのかもしれません。


 ただし、ヒュージスライム以外にもスライムは居ます。

 アシッドスライムや毒スライムなどの種類は、大きくはなりませんが水たまりなどに潜んで踏みつけた足などに絡みつき毒や酸で攻撃してきます。

 魔物なので毒や酸が強力なのでこれも嫌われています。


 さて厄介な魔物と遭遇しそうです。

 ヒュージスライムを放って置く事は出来ませんので、退治します。

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