第41話・1 準備の色々(1)

 シルアルビェッカ村へ帰って来た。

 養母様の村の執務室から帰還の報告を行う為、モニターを起動して養母様を呼んでもらう。


 執務宮での養母様専属の通信担当者は5人で担当しているようなのでそろそろ顔を覚えてきました。

 今日の担当者は見た目は20代の娘に見えますがエルフなので恐らく数万歳なのでしょう。

 妖怪砂掛け婆達の仲間なのかは分かりませんが、油断はできないと思っています。


 養母様は直ぐに画面に出てくださいました。

 私は今日の事を養母様に報告します。

 「お養母(かあ)様、先ほど帰ってまいりました」

 画面越しに養母様に挨拶をする。


 「お帰りカスミちゃん、海軍本部に行ったそうね」

 養母様が海軍本部から連絡が合った事を教えてくれる。

 これも中継バードが首都とオウレとジュヘイモスを繋げているおかげね。


 「はい、オウレの港町に着いた後、工房の予定地へ行ってみましたが、更地に1つ小屋が在るだけでした」

 「それで、海軍本部へ行ってみたのです、ポッター海軍長官様とケマル魔具省長官様にお会いして、教室の設置をお願いしてきました」


 「ケマルから報告がありました、飛空服の事ばかり話して要領が分かりませんでしたが」

 「ポッターの話では授業を始めるのは教室を建ててからだと貴方が言っていたと聞いています」

 養母様は海軍本部での出来事を凡そ知っておられるようです。


 「はいその通りです、工房の立ち上げはある程度知識を得てからに成りますので、五日ぐらい授業してからに成ります」

 と海軍本部で話し合った事と私の考えを報告する。


 「工房の立ち上げは建屋だけでも早く着手できないのですか?」

 養母様は工房を早めに立ち上げたい御様子です。


 「はい、ドワーフの作り手の理解と技能を把握出来てからに成ると思います」

 「全て任せられるのなら、本格的な錬金炉の設置が必要ですが、コア技術を私が供給する場合は、製造ライン毎に倉庫と組み立て用の部屋が必要になります」

 「授業を行って技量が見込めるのでしたら、立ち上げも彼らに任せて私は助言するだけで良いと考えています」

 と、工房で作れる物が何に成るか次第で建屋も変わる事を伝える。

 大きな建屋を一つ作って中を仕切って使う方法もありますけど、飛行機型の偵察バードとその操縦系だけしか作れ無い場合は建屋の大半が無駄な空間に成ってしまいます。

 私の感触ではそうなりそうなのです。


 「分かりました、では教室を建てた後、授業を行い、5日後判断の為テストを実施する事とします」

 養母様はそうおっしゃると、続けて私に時間が出来たのなら仕事があると言います。


 「貴方に仕事の依頼が来ています、今回の造船の量から考えてウルの汁で強化する板材は早めに用意しないと間に合わないと考えています」

 「そこで貴方が自警船隊で氷雪の森ダンジョンにウルの汁の採取に行くと申し出たと聞きました」

 少し目線が強まった気がするのですが?

 期待されているのでしょうか、それともまだ余裕がありそうだと思われておられるのでしょうか?


 「貴方は5級クラスの魔物を倒している実績がありますし、インベントリ(通称魔法のカバン)のバッグを持っています、自警船隊が使う分は集められるでしょう」

 「トレント系の魔物は中級クラスですから、十分対応できるでしょう」

 どうやら期待されていたようです、養母様に期待されるのは嬉しいです。


 「ドロップ率は3割だと聞いていますからトレント系を4体も倒せばウルの汁1グッシュ(約7キログラム)が期待できる計算に成ります」

 養母様は何を言いたいのでしょう?ドロップ率など言ってくるのはなぜでしょうか。


 「必要な量は1グンド(約7トン)よ、此の量を1年かけて採取して欲しいの」

 「仕事の合間にお願いね」

 養母様は私が予想していた仕事と違って氷雪の森ダンジョンへ行ってウルの汁をヴァン国が必要とする全ての量を集める事を言ってきました。

 しかも今の仕事はそのまま続けて、合間を見つけてダンジョンで採取して来るように言っています。

 先ほどの嬉しさは消えました、どうやら先ほどは私に余裕がありそうだと思われていたようです。


 「お養母(かあ)様、オウレの港町で教えるのと立ち上げるのは海軍だけではありません、自警船隊本部の新造船に乗せる魔道具の授業が在るのですが、氷雪の森ダンジョンを優先的に行ってオウレの町での件を遅らせる事で対応できませんか?」

 何とか余裕を作りたいと泣きを養母様に入れて見ます。


 「これは3年で体制を作らなければ成らない事態への対応を考えた末の結論です」

 「それに何も全てを貴方一人で行う必要は無いのですよ」

 「貴方に仕事が集中する事を執務宮の長官達からも懸念する声が出ています」

 「貴方の知り合いで教える事の出来る人に教師役をやってもらう事も考えてみて」

 む、何か引っ掛かりますね、省の長官が何か仕掛けて来たのかもしれません。

 私の負荷を増やして、レタ達か見守りたい繋がりの誰かをオウレの港町へ出させたいのでしょうか?


 「今回、船の新規建造を大幅に増やしました」

 「軍事的優先度は海軍、自警隊共に船の改造と新型船が一番で二番が通信です三番に北洋海に面した地域の自警隊の強化です」

 分かりますよね、とお顔が念を押しています。

 私が招いた事態ですから重々承知しております。


 「船を造る為のウルの汁を使用した強化木材の作成には1年もの時間がかかります」

 「その為ウルの汁が火球砲改より最優先なのです」

 「しかし、船に火球砲改が戦力として必要なのは強化木材と同等の優先度です」

 「現在在る、強化木材全てを使っても船が2か3隻分です、ウルの汁も足りません」

 「ですから、オウレの町で工房を立ち上げる合間に氷雪の森ダンジョンでウルの汁を集めていらっしゃい」

 養母様は私一人にウルの汁を集めさせるつもりでしょうか?


 「お養母(かあ)様、ウルの汁を集めるのは森林組合に依頼できないのですか?」

 ヴァン国では冒険者や傭兵は嫌われていて、ダンジョンで魔石やドロップ品を取って来るのは自治庁が管轄する森林組合が行っています。

 その為何時もでしたら森林組合に依頼してウルの汁を集めていたはずです。


 「もちろん森林組合にも依頼していますが、板材が大量に必要となってそちらに働き手を取られるため採取まで手がまわらないのです」

 養母様の目が吊り上がってきました、これは四の五の言わずに働けと言っているのでしょう。


 わたしの目に涙が浮かんできます。

 「はい、お養母(かあ)様、お言いつけ通りにいたします」

 (むちゃぶりが酷い by大姉)

 (ウルの汁を使った強化木材の作成は7日ぐらいで作れるように成ったの知ってるよね? by妹)

 (今、泣きまねしているのだから黙っててね by小姉)


 急いで、通信を切って養母様にウソ泣きがばれるのを防ぎます。

 『あのね、妹(いも)ちゃんウルの汁で強化材を7日で作れる事はまだ秘密なの』

 『この件と私のドロップ率がほぼ100%なのは秘密にしておかないと、ドワーフさん達がコア部分が作れない事が分かったら、私の仕事がブラックを通り越して暗黒に成っちゃうのを防ぐ為に必要なの』


 もう既に暗黒になっているのかもしれません、ならば次は漆黒でしょうか?

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