第40話 港町オウレ(4)
オルドヴィン長官との話し合いで、カモメ型の設計図の提供をすることになったので、自警船隊の工廠へいくことになった。
「ここが自警船隊の工廠として使用している自警船隊付属船工房だよ、自警船は全てここで作られとる。」
オルドヴィン長官が案内してくれたのは、自警船隊の本部から歩いて5分もかからない海に面した一角です。
大きな建物の中が工廠に成っていて雨の日でも作業が出来ますね。
「おおい!オーレは居るかぁ!!」突然オルドヴィン長官が大声を上げて誰かを呼びます。
すると工廠の奥にある部屋から一人のドワーフが出てきて怒鳴り返します。
「オルドかぁ!工房を開けとけなどとふざけた事を言ってくる奴は!!」
2人とも大声で言い合うので私の耳が痛くなってきました。
「オーレ!、連れて来たよ工房を開けさせた理由のその人をだぜ!!」
とやはり大声で答えています。
オーレと呼ばれるドワーフの親方は、オルドヴィン長官が私を指さして理由じゃよとか言うものですから。
私を睨み付けています。
仕方が無いですね、挨拶しましょう。
「はじめまして、私はカスミ・マーヤニラエル・ヴァン・シルフィードと申します」
礼(カーテシー)をしてオーレ様に挨拶します。
オーレ様は私の挨拶で吃驚したようです。
「なんじゃとう!カスミ姫様ではないか、何でこんなところに来るんじゃぁ?」
少し戸惑った様子でしたが直ぐに立ち直って挨拶してきます。
「オーレトーカ・オリオハン・クルディデスと申す、オーレと呼んでくれ。」
直ぐにオルドヴィン長官へ向き直ると。
「おい!理由がカスミ姫様とはどうゆう事じゃ!!」
と、近くで大声を上げられると耳が痛くなってきました。
2人から離れます。
少し離れると話し声が普通の声ぐらいの大きさで聞こえるようになりました。
「オーレよ!お前が欲しがっとった、新型の船を作る事に成ったんじゃ!!」
「オルド!ほんとかぁ!!新型の船をつくるじゃとうぅ!!」
その叫びは工房中に聞こえたのでしょう、工房中から大きな歓声が上がりました。
「「「ウォー!!!」」」
「新しい船を造れるぞぅ!!」「船じゃ船じゃ新造船じゃ!!」「やったぜー!!念願が叶ったぜー!!」
「で、どんな船を造るんだ?オルドよぉ!!」
ここの人達はいちいち叫ばないと会話が出来ないのでしょうか?
「じゃからカスミ嬢ちゃんを連れて来たんじゃよ。」
やっと話が出来そうです。
更に大声でのやり取りが合って工廠のオーレ様の部屋で詳しく話すことに成りました。
「やれやれじゃよ、オーレは相変わらず察しが悪いのう。」
と部屋に入った側から、オルドヴィン長官がオーレ様に悪口を言っています。
この部屋へ来る前に新造船の内容を早く話せとオルドヴィン長官にしつこく強請ったのだ。
切れたオルドヴィン長官がオーレ様の耳を引っ張って部屋へと連れて来た所でした。
「痛ってえなぁ!もっと優しく引っ張りやがれ!」
「で、此処までくれば話してくれるんだろ!新造船の事!」
オーレ様は相変わらずの声の大きさで話されます。
「焦るな!早く座れ!」
「カスミ嬢ちゃん、あんたもそこに座ってくれ。」
と、自分も椅子に座りながら言います。
ドアから一番の奥に私が座って、左右に2人が座っています、座る位置などどうでも良いのでしょうね。
3人が座って、一息つくとオルドヴィン長官が話し始めました。
「聞いて驚け、3年計画で初年度に金貨2万2千枚の予算が付いた!」
「全て!新造船7隻分の予算だ!!」
最後は、自制できなかったのか声が大きく響きます。
部屋の外で、「金貨2万2千枚!!!」「すげぇー!!」「全て新造船に出来るぞうぉー!!!」などと歓声が聞こえて来ますが、これで良いのでしょうか?
オルドヴィン長官様も気が付いたのか、其れからは声を小さくして話される様になりました。
「マーヤ様はカモメ型新造船を3年間で22隻作られる様に言われた。」
「予算は、毎年金貨2万2千枚で、総計金貨6万6千枚じゃ!」声が大きくなり、慌てて自分の口を塞ぎます。
「笑いが止まらんじゃろ、金貨6万6千万枚じゃからなぁ」
ここで、急に真顔になって、私の方を向いて聞いてきます。
「何でこんな金額に成ったのか、カスミ嬢ちゃん新造船の価格の出どころはあんたじゃと聞いたぞ。」
オーレ様はビックリ顔でこちらを見ています。
「何を驚かれているのか分かりませんが、今回新造するカモメ型自行船はビチェンパスト国で既に建造実績のある船の型です」
「その時の建造費が金貨1千枚でしたので、養母様に新造船の価格を聞かれた時に1隻に付き船体価格金貨1千枚と魔道具が金貨2千枚の値段を足した金貨3千枚とお答えしましたの」
「そう言えば自行船とか言っていたの?」
「魔道具としては安いのか?なんで魔道具の値段が金貨2千枚なんじゃ?」
オーレ様が心配そうに聞いてきます、金貨3千枚の内魔道具が金貨2千枚だと安いのか高いのか分からないので心配されたのでしょう。
「そうですね、新型カモメの魔道具として、水流推進機が2機、操船魔道具一式、火球砲改2門、が装備品ですこれらが私から提供する魔道具に成ります」
「偵察バードと偵察バグは完成後の消耗品として魔具省の工房から供給される予定です」
「これまで使ってこられた魔道具の内、通信魔道具と拡声魔道具は変更が必要になります」
「その他の魔道具で操船と帆や帆柱に関係する魔道具がある場合は要らなくなる物が出てくるかもしれません」
「まてまてまて、一度に言われても頭に入らんわい。」
「書いた物は無いのか?」とオーレ様が言われますがそうですね、提供できるのは概略図しか持っていませんからこれを提供しましょう。
「新型カモメの概略設計図です、斜め上からの全体図と正面と側面、上下半面図と使用する部品が主な物だけですが乗っています」
この図をテーブルに出すと、オルドヴィン長官とオーレ工廠長の2人とものぞき込もうと乗り出して頭をぶつけています。
しかもぶつけても関係ないとばかりに熱心に図面を見ています。
瘤が出来ていないか心配です、結構「ゴン」と音が聞こえたのですが。
やがて2人ががっかりしたような顔でこちらに力無く聞いてきました。
「カスミ嬢ちゃんよ、これほど魔道具を使えば金貨3千枚は魔道具だけで少なく見積もってもするじゃろ?」
とオルドヴィン長官様。
「そうじゃわ、これじゃあ赤字じゃよ。」オーレ様はがっかりしたとばかりにため息をついています。
「ご心配なく、新しい魔道具は私から提供しますので、総額でほぼ実費の金貨2千枚で済みますの」
「おお、それじゃあ建造費は金貨1千枚か?」
と安心して力が抜けたのかオーレ様は椅子にへたり込んでしまわれました。
「はい、問題はウルの汁ですが、今回の新造船はウルの汁で強化した板材を合板にして使用します」
「全体がウルの汁で強化した板材を使った装甲艦になります」
「そりゃあ豪勢なもんじゃが、ウルの汁が手に入っても強化材に出来るまで1年かかるぞ。」
とオルドヴィン長官様が懸念を伝えます。
「そうじゃ、ウルの汁も簡単に手に入るもんでも無いしの。」
オーレ様はやっぱりダメだったかと落ち込んでしまわれました。
「ご心配なく、ウルの汁は私が氷雪の森ダンジョンで手に入れてきますし、私がシリアルビェッカに持っている工房で強化材まで作ります、ですから強化用の木材だけ用意してください」
とつい安請け合いをしてしまいます。
(ウルの汁で強化する方法は目途が立っているけど、氷雪の森ダンジョンは何時行く暇を造るんだ by大姉)
(小姉、安請け合いして自分で墓穴掘ってるよ by妹)
(2人が落ち込んでいる様を見て居られなくてつい by小姉)
「カスミ嬢ちゃんあんたそんなに強かったのか?」
「氷雪の森ダンジョンは中級から上級までの魔物が多いし強いのもうじゃうじゃおるぞ。」
とオルドヴィン長官様。
「行くんなら先に水流推進機と操船魔道具一式に火球砲改の魔道具を先に置いて行ってくれ。」
こちらはオーレ工廠長様。
まだ船体の基礎も出来ていないのに、魔道具だけ先に渡せる訳がありません、丁寧にお断りをさせていただきました。
「そんなぁ、殺生な!!カスミ姫様はこの心の奥底から湧き上がる、見てみたい触ってみたい知りたいと、喚く心の声が聞こえるじゃろ!」
と情けない声で訴えます。
でも、私にはそんな心の声など少しも聞こえません。
さっさと此処を出ましょう、出ないとケマル魔具省長官様の様に飛び掛かってこられても困りますから。
トボトボと自警船隊本部から出ます、来る前まではオウレの町でも見て行こうと思っていましたが、気持ちが萎えてしまいました、帰る事にします。
氷雪の森ダンジョンへ行ってウルの汁を採取する事を約束した事は仕事を増やしてブラックから暗黒へ既に変わっているかもしれません。
更に強化材の作成まで安請け合いしています。
強化材の作成は工房で足り無い分だけ提供しようと考えていた事です。
ですから、強化材の作成は最初から計画しては居ましたが、全部作って供給するのと氷雪の森ダンジョンは余分でした。
仕事を自分で増やしてしまいました、どうしましょう。
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