第39話 私は思う

 養母様と妖怪砂掛け婆達との取引で(話し合いがあったのか知りませんが確信しています)私への仕事が積みあがっていく様が想像できて怖気がします。


 ついこの間までの事を懐かしむ事になるとは信じられませんが、今私が感じているのは、あの時に戻りたいと思っているのです。

 帝国に追われて休む暇もありませんでしたが、研究したり、好きな物を好きなだけ作れる時間がありました。


 このまま家(神域の部屋)へ引きこもりになりたい。


 でも、そうです、でもなのです。


 帝国を散々叩いてケチョンケチョンにしたのは私です。

 その結果は戦争です、例え帝国がヴァン国へ対して戦争を計画していたのは事実でも計画は計画で、実際に戦争に成ったかは分かりません。


 妖怪砂掛け婆達がこれまで戦争を回避してきた方法(たとえそれが違法な事でも)が私を帝国へ引き渡す事だとしても戦争より益しかもしれません。


 でも、そう、でもです、私はそれが許せません。


 個を犠牲にして全体を救う、政治的に正しいのでしょうが、犠牲に成った個々の人はその理不尽に抗う事ぐらいしてもそれは正義と言って良いと思います。


 私は抗います。

 たとえその結果多くの犠牲が出ても、理不尽な行いが降りかかるのなら跳ねのけるだけです。

 だからこそ、その結果から私は逃げないのです。


 帝国との外交はまだ帝国の反応待ちですが、少しづつ情報が入ってきています。

 帝国は先の北洋海戦の結果が帝国最強とされる北洋艦隊の壊滅と成ったことに衝撃を受けて、しばらくその件について緘口令かんこうれいかれたそうです。

 帝国首都のヴァン国大使館に入った情報によれば、帝国は私との戦闘では無く新兵器の大砲の取り扱いに不慣れな事で起こった事故として処理したそうです。


 帝国はいまだに大砲が火球砲を上回る性能を持っていると判断しているようです。

 北洋海戦の戦訓からどのような事を学んだのか分かりませんが、飛距離は火球砲を遥かに上回ります。

 破壊力や貫通力は帝都のミンスターで偵察バグの画面でしか見ていないので私にはわかりませんが、火球砲と大きな隔たりは無いように感じます。

 補給については火球砲が圧倒的に有利ですね。


 火球砲は魔石だけなのに対して火薬や薬莢、弾頭に火薬などの保管庫を作る必要が在るかもしれません、大容量のインベントリのカバンを持っているのなら別ですけどね。

 (インベントリのカバンを造れるのはヴァン国だけです by小姉)

 (帝国にはこれまで輸入した物が多くあるんじゃないか? by大姉)

 (金額が金額ですので数年に1個小型の物が表裏無しに輸出されています by小姉)

 (なんでそんな事が分かるの? by妹)

 (インベントリを付与するには何が必要か考えれば分かるわよ by小姉)

 (そっか、神力が無いなら、氷雪の森ダンジョンの笑い猫の核が必要だよ by妹)

 (下級の8級魔物のドロップ品だけど、手に入れるのは至難の業だよね、年に1個取れれば良い方だと森林組合の報告にあったよ by小姉)


 (あ!分かった、アクアラのスリが何であんなにしつこかったのって、ベルトポーチ見られたからだよ! by妹)

 (あー! by小姉)

 (ああ、そうだよな by大姉)

 (そ!歩く宝箱だったんだよ小姉チイネエは! by妹)

 (・・・・)


 さて気を取り直して、帝国のヴァン国への対応です。

 予想していた通り、東部への戦線拡大の為、今後ヴァン国への穀物の輸出は一切しないと通知があったそうです。

 おかげで魔道具の輸出に便宜(犯罪的に使用できる魔道具の輸出、性的な効能がある魔薬の輸出、軍事用魔道具の輸出等)を計らなくて良くなったのは良い事です。

 穀物の輸出禁止で慌てているのは、魔薬や魔道具が入って来なくなり魔薬や魔道具を必要としている貴族や軍から突き上げられている帝国政府のほうです。


 又、誘拐同盟の犯罪に対して帝国の関係は一切無いといつもの反応があったようです。

 帝国貴族の側妃として誘拐してきた樹人を無理矢理側妃にしているのでは、との疑問に対して。

 帝国は過去にはそのような事があったが今の側妃達は自ら望んで側妃に成っていると魔紋付の本人の答弁書を送ってきたそうです。


 魔紋付だと嘘は書けないので、闇魔術で洗脳して書かせたのでしょう。

 特にアルベルトの魅了スキルなどは洗脳に最適ですしね。


 悪辣なのは、誘拐そのものは否定していないのです、帝国は保護した樹人が自主的に側妃に成ったと言いたいようです。

 彼女達も誘拐されて、帝国に助けてもらった、そこで知り合った人が好きになったので側妃になる事にした。

 と判で押したような同じ文章の名前だけが違う内容で書かれていました。

 誘拐されたのが事実ならヴァン国で捜査したいので事情聴取をさせるように申し込んでみましたが、既に帝国の人民に成っているので拒否すると回答がありました。


 ここら辺は何時もの帝国の反応なので、ヴァン国の抗議は無視されてお終いのようです。

 それでも抗議するのが外交ですから、側妃が新たに分かった都度申し入れを行っています。


 ヴァン国政府はこれまでの事を勘案して、今年帝国へ向かったヴァン国大使に8月に養母様が8月末を持って魔道具と魔薬の輸出禁止を通告するように命令を出したとおっしゃっています。

 帝国とヴァン国の関係は急速に冷えて来ています。


 魅了スキル持ちのアルベルトですが、皇太子への就任が決まったようです。

 大砲やその供給についても目途が付いたらしく新しい工房が出来て大砲の製造が軌道に乗って来たらしいです。


 そして船ですが、蒸気船と言う名の船を建造しているそうで、その船は自行船で帆を一切使わず魔石と水で動くのだそうです。


 どうやら、帝国は戦争に向けて準備を進めているようです。

 蒸気船に大砲を積んで、新しい北洋艦隊を作ったら、その時こそヴァン国へ攻めて来るのでしょう。

 誘拐した人達も返す気が無いし、更に誘拐して増やそうとしています。


 アルベルトが作った偵察飛行機は脅威ですが、人が乗って飛ぶにはあの旋風推進機では力不足です。

 推力を上げるには、私がやったように回転と圧縮が必要でしょう。

 アルベルトがそれに気が付く可能性はありますが、人が乗って飛ぶまでは時間が掛かると思います。


 私の予想では、帝国は3年後戦力を整えてヴァン国へ私を引き渡すか戦争するか迫るでしょう。

 そして、私を帝国へ渡してもヴァン国を攻めるでしょう。

 帝国や妖怪砂掛け婆達はミエッダ師匠の実力を知らないので、帝国は勝利を、妖怪砂掛け婆達は敗北を確信しています。


 まだ幼木のミエッダ師匠ですが、その力は神の理不尽な力を持っています。

 その為振るえば敵味方を問わず、殲滅してしまうでしょう。

 その意味では妖怪砂掛け婆達の必負の確信は正しいのでしょう、例え理由が真逆でも。


 ミエッダ師匠にそのような理不尽な力を振るわせる訳にはいけません。

 私はその為なら帝国を滅ぼす事も厭(いと)わないでしょう。


 私の神力を使うイオン粒子線よりも強力な破壊をもたらすものを私は作れますし結果を厭(いと)わなければ行使も出来るでしょう。


 でも、そうです、またもやでも、です。


 私はそんな恐ろしい大量虐殺を行わなくても、帝国を撃退出来る方法を考えています。

 単純ですが、皆の力を集めて帝国と戦う事がその方法です。

 多くの犠牲が出ますが、ヴァン国を守る事は自分達を守る事なのです。

 たとへ自分がその為に死ぬことに成っても守りたいものがあれば守りたいのです。

 死を覚悟できているわけではありません、たとへ何万年生きて居ようと死は初めての事なのです。


 幸いヴァン国は海で帝国と隔てられています。

 帝国からヴァン国へ来るには海か空から来るしかありません、空はまだ無いでしょうから海だけです。


 私が海を見張り、いち早く帝国の北洋艦隊の動きを捉えたいと思っているのは帝国は海からしかこれないからです。


 その結果が今日のオウレの港町へ来ることに繋がっています。

 海軍と魔具省へ偵察バードやバグとモニターの供給をする為工房を立ち上げる事はトップの2人へ伝えました。

 自警船隊との同様の話は今していますし、さらにカモメ型自行船を提供します。

 これによって対帝国の戦力として自警船隊を活用できるでしょう。

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