第38話 港町オウレ(3)

 オウレの西は下町風の面影を持っています。

 道が地形に沿って坂道を登っていくように、家も道に沿って丘へ登っています。


 丘はなだらかな傾斜をしていて扇状地帯に成っています。

 道は古い川筋に沿ってあるようで真っ直ぐでは無くクネクネと曲がっています。


 東西に海岸に平行に伸びたメイン道路は東が海軍本部で終わっていれば、西は自警船隊本部で終わっています。

 東側は後ろの地は平野に成っていて広がりがありますが、西の自警船隊本部の後背地は先ほどの扇状地帯に成っています。

 傾斜は緩いのでここに町の人の大半の家が建っています。

 扇状地帯の上の方は水はけが良く礫の多い土地なので、畑に成っています。

 ここでは低木化したベリー類の木が栽培されている他にカラス麦や燕麦がほぼ全面で作られています。


 更に奥へは首都シルアルビェッカへと続く道があります。


 私の目的地は自警船隊本部ですから、空から見て西の端を目指せば着きます。


 実は水流推進機とウルの汁で強化した板材の合板で作るカモメ型の帆走しない完全自行船を自警船隊へ供給して、自警船隊を強化していく話が養母様と自治庁のオルドヴィン自治庁長官の間で話し合われていたのです。


 養母様がミエッダ師匠に私に伝えて欲しいと伝言したのは、その件でした。

 「オルドヴィンに合って自行船の建造の話を進めて欲しいの、提供する魔道具は他には秘密よ、工房などの用意はオルドヴィンに一任しているわ、お願いね」

 自行船は私のカモメしかありませんからカモメ型の設計図を幾つか書いて持参しています。

 いきなり夕食中にミエッダ師匠から直接頭の中に話掛けられて吃驚しましたが、ミエッダ師匠から話しかけられる事は前はよくあった事です。

 養母様の伝言でまた仕事が増えたのは堪えましたけどね。


 私が行くのは、オルドヴィン自治庁長官が自警船隊本部に居るのを知っているので、先ほどの話の核心となるカモメの設計図と水流推進機の供給をどうするか話す為に訪ねて行くのです。


 新型船建造の予算は政務宮で決まったので、秘密でもなんでもありませんが、性能や搭載兵器は政務宮にも海軍にも知られたくない機密事項です。


 このカモメ型自行船には偵察バードと偵察バグの配置が決まっていますので、乗組員への指導や新型船の建造への設計図を提出する事などの具合的な助言がどこまで必要か等を決めなければなりません。


 今回も自警船隊本部の前にある正門へ飛空で降りて、驚く門番にオルドヴィン自治庁長官に会いに来た事を伝えます。

 「失礼します、私はカスミ・マーヤニラエル・ヴァン・シルフィードともうします、オルドヴィン自治庁長官様にお会いしたいと取り次いでください」


 門番は私を知っているようで、敬礼すると一人が詰所へ駈け込んで行った。

 しばらく待っていると、先ほどの門番が駆け足で戻って来て直ぐに長官が会いたいので、直ぐに来て欲しいそうです、と伝えて来た。


 門番の一人に案内されて、自警船隊本部の建物の一室へ案内された。


 オルドヴィン自治庁長官様は記憶に在るようにのんびりとした性格のドワーフの方で、お母さまの無理難題を長年受けて少々の事では動揺する事もないどっしりと構えて動かない大柄な人です。


 「オルドヴィン自治庁長官様、お久しぶりでございます」

 挨拶しながら、記憶に在る彼の情報を一生懸命に思い出そうとしています。

 確か、オリブルガ族のマチス族長様の弟でクーディス(闘い殺す者)の由来名を継承されている方です。

 「突然の訪問なのに、お会いしていただきありがとうございます」


 「マーヤ様で慣れとるよ、全然かまわんかまわん。」

 と手を振りながら快活に言われます。

 そうでした、とても気楽にお話出来るお方でしたね。

 とてもクーディス(闘い殺す者)の由来名を継承されている方だとは思えません。


 「今日、お尋ねしたのは養母様とオルドヴィン様の間で決まった自警船隊の新装備の件で、主に供給と船の設計についてお話がしたかったからですのよ」


 「なんじゃ、その事かカスミ嬢ちゃんが作った魔道具を使った船を作るから工房を一つ開けておいてくれと言われての、船の整備計画が遅れそうじゃと困っとたんだよ、解決しそうで良かった良かった。」

 どうもオルドヴィン様へ丸投げして決まったからと私へ引き継げと私へも丸投げしていたようですね。


 オルドヴィン様と話し合うと養母様はお金と魔道具の事はある程度内容は知らせていたけど、具体的に必要な工房の種類や必要な材料や人員については私が全て知っているからと取り合えず工房を一つ開けて置くように話していたようです。

 話を受けてオルドヴィン様は工房を何時まで開けて待つ必要が在るのか分からず困っていた所だったようです。


 工房は新しい設計で作る自行船なので船が作れる工房が必要です。

 これまで自警船隊の使っていた船の大きさと殆ど変わらない大きさなので船工房は同じところで作れます。


 乗組員はこれまでの帆走と違って自行するので操船から船の受ける感覚まで全て違ってきますと伝えたら、頭を抱えてしまいました。

 乗組員への教育を一からとは言いませんがある程度基礎的な事から行う事に成ります。

 此の為には宿舎や教室が必要になります。


 丁度良いので私から提言として、自警船隊の専門学校を作ることを勧めました。

 整備の為にここへやって来る船から新しい自行船に変えていき、乗組員も再教育していきましょう。


 ビチェンパスト国で経験したので、船は1月程で作れますし、艤装も1月で作れます。

 2か月あれば乗組員の再教育は十分可能ですし、後半は船に実際に乗って実習できますしね。


 予算も新造船を22隻(3ヶ年計画)作るだけの予算が計上されています、金貨2万2千枚が最初の年である今期(9月から8月まで)の新造船の費用として確保されていました。


 何でこんな大盤振る舞いできるのか?何やら嫌な予感がするのですが、養母様に限って私にブラックな仕事をさせるような事を、妖怪砂掛け婆達と決めているような事はしないと確信しています。

 (逆の確信はしているんだよね by妹)

 (取引ってさ、誰かにしわ寄せが行っても取引の話をする人達に影響が無ければ気にもしないんだよ by大姉)


 今でも情報部準備室の仕事に海軍の工房への授業と工房の立ち上げに自警船隊の新造船を主導しながら乗組員への再教育があるのに、他になにをする事になるのでしょう。

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