第37話 港町オウレ(2)

 ヴァン国海軍ポッター海軍長官は、座っていた椅子から立ち上がると。

 「カスミ姫様お待ちしていました、隣のケマルなどシルアルビェッカへ向かおうと旅立つ寸前でしたよ。」

 「出来ましたなら、事前にお知らせくださいましたならお迎え出来ましたものを。」

 最後にチクりと嫌味を言ってくるなど、私が海軍に協力しないと言ったのを知っているようです。


 「お久しぶりですポッター海軍長官様、今回情報部立ち上げの為時間が取れずに申し訳無い事に成りました事お詫び致します」

 と少しお詫びの気持ちを込めて礼(カーテシー)をします。

 「これから工房が立ち上がるまで、シルアルビェッカから日参しますのでよろしくお願いします」

 と、私がオウレの港町に日帰りする事を伝えます。


 「日参されるとは、オウレに工房の立ち上げまで泊まる事は無いのですか?」

 エルフのお爺さんは少し吃驚した、程度ですが宿泊しないことに疑問を持ったようです。


 横に居たドワーフのケマル魔具省長官の方が驚いたようで、立ち上がると挨拶も省いて怒鳴りました。

 「どうなっとるんだ?嬢ちゃん!日帰りするとかできるんかい?」


 「ケマル様、私の飛空服を見ましたでしょう?」

 「飛空服を更に改良して速度をあげましたの、オウレ・ンオトとシルアルビェッカの間を1コル程で飛空できますの」


 「「・・・・」」

 空いた口が開いたままのお二人です。


 最初に立ち直ったのは、年の功なのかポッター様でした。

 「いやぁ、数万年ぶりの驚きでしたな。」


 ポッター長官が我に返ったのを聞いて、自分も我に返ったのか早口で話しだしました。

 「飛空で1コルじゃと!知りたいしりたいぞう!!」

 「嬢ちゃん、教室は此れから立てるんじゃが、別に部屋を借りるから今日から教えてくれ!」

 長椅子から立ち上がって、小テーブルを乗り越えると私の前に立ち塞がって私に迫ってきました。


 彼が小テーブルを乗り越える前に、私は扉の方へ逃げ出しました。

 「ポッター様、ケマル様、教室が出来ましたらお知らせください、時間は昼5時から昼7時までの8コル(2時間)です」

 「昼8時から昼10時まで工房の立ち上げをお手伝いしますね」

 「では、今日は失礼します」

 軽く礼(カーテシー)をすると、扉を開けて部屋から逃げ出します。


 扉の前には、先ほど案内してくれた受付のお嬢さんがまだ立ったまま、帰りの案内をする為でしょうか待っていてくれました。

 私が入って直ぐに出て来たのでビックリしています。

 「待っててくださいましたのね、ありがとう、帰りも案内をお願いします」

 と、私が言うのと同時に扉が乱暴に開けられると、ケマル様が焦って言葉が詰まりながら言ってきます。


 「ま、まっ、待ってくれ嬢ちゃん、儂が悪かった、吃驚して思わず動いたんじゃぁ~ッ!!」

 後ろから、ポッター様が面白がっているのか笑顔でケマル様に助け舟を出してきます。

 「カスミ姫様、ケマルの事は多めに見てやってくれんかのう、先ほどは私も驚愕するほどの出来事だったでの」


 「分かっています、怒っては居ません、少しビックリしただけです」

 「でも、先ほど告げました内容は変わりませんよ」

 「教室で教えるのは昼5時から昼7時まで、昼8時から昼10時まで工房の立ち上げをお手伝いしますね」

 「では、教室が出来ましたらお知らせください」


 軽く手を振って、案内係のお嬢さんを促して元来た廊下を戻ります。

 玄関まで無言で戻ってくると、案内係のお嬢さんは私に深々と礼をします。

 「何か失礼な事がありました事お詫びします」


 「問題無いわ、もう終わった事よ」

 「それより、貴方のお名前をお聞きして良い?」

 これから度々訪れる事に成る案内係の名前を知っている方が長官達の失態を責めるより大事です。


 「セレナーデ・ポッター・アリシエンと申します」

 おやまぁ、ポッター長官の娘さんのようです、エルフ系の人族でしょうか?

 聞くのは野暮でしょうね。

 でも秘する名前を名乗られた以上私も名乗るべきでしょうね。


 「改めて私は、カスミ・マーヤニラエル・ヴァン・アリシエン・ジュヲウ・シルフィードです」

 「セレナーデ・ポッター・アリシエンさん以後よろしくお願いします」と軽い礼をして、人族風に握手をします。


 セレナーデ嬢が開けてくれた扉から外へ出ます。


 この後どうしましょうか?

 カモメを預けた工房へ寄ってカモメの引き取りをしなければ成りませんが、それはまた今度にしましょう、今作っている物にカモメに使えるかもしれない物があるのです。

 会談が早めに終わって時間が出来ました。

 ここから飛空で帰っても良いのですが、養母様から1個所寄るように言われている所が在ります。


 海軍の正門から出て、飛空で空に上がります。

 空から見ると海に沿って東西に町が広がっています。


 オウレの港町は港町と呼ばれているように天然の良港です。

 ヴァン国の折れ曲がった一番奥にあるので冬は流氷が海を覆ってしまいますが(ジュヘイモスが冬の間の海軍の主な根拠地に成ります)、大きな川も無いので完全に氷に閉ざされる事はありません。

 ここに海軍の根拠地が作られたのは、養母様が首都をシルアルビェッカに定めてからです。

 ここは首都を守る海の砦なのです。


 ここに海軍の本部が置かれた時、自治庁の管轄する自警隊の自警船隊も本部を置きました。

 ですからここは自警船隊の根拠地でもあります。


 船工房は前回紹介してもらった2つ以外に大小色々あるそうです。

 しかし、大きな工房は海軍か自警船隊の専属に成っているようで、独自色を出して成功しているのは前に紹介された工房2つだけのようです。


 カモメを預けたハルク工房もこの後自警船隊に寄って、時間が在れば行きたいですね。


 自警船を作っている工房は自警船隊の本部がある町の西にありそうですので、西へ行きます。

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