第36話 港町オウレ(1)
シルアルビェッカ村を昼3時(午前8時)に出ました、今日から新型飛空服でのオウレ町へ日帰り出張の始まりです。
この新型の飛空服は聖域の結界を利用する事を前提に時速300ワーク(時速450km)もの速度を出せます。
前の飛空服に対して、プロテクター部分を含めた飛空服の全ては背負った肩掛けのインベントリのカバンに収納されています。
展開時に体を支える部分も展開されるので、腕を拘束されてしまわない様に両手を広げて展開させます。
翼は速度が上がったのに合わせて強化しました、全てミスリルの合金です。
ジェット推進機は2つ翼の根本上部に突き出す様に展開されます。
この部分が尾翼に成ります、方向舵も付けて左右への方向転換をしています。
翼は後退翼で重心は私の重心と重なる腰からお尻ぐらいになります。
翼の先端を少し上へと折り曲げています。
更に翼の前方、頭の上に小さな翼を展開する事にしました。
この小さな翼は尾翼の水平尾翼を前に持ってきただけです、昇降舵として翼全体を動かします。
今回の高速化により操縦を体重移動から変えて飛行機の回転は翼の補助翼(エルロン)、左右への方向は2本の推進機に在る方向舵、上下の方向へは頭の上の昇降舵で行います。
先日の誘拐同盟との闘いで姉ねの飛空に頼らないと新しい偵察バードが来る前に誘拐同盟から二人を助け出して船を処分する事は出来なかったでしょう。
飛空があんなに早いとは知りませんでしたが、姉ねに言わせると戦場にいち早く着くためにはもっと早く飛空できなければ遅れてしまい、他の戦乙女に良い魂を捕まえられてしまうそうです。
姉ねは戦乙女の中で速さ自慢でしたので、音より早く飛べたそうです。
戦乙女の世界がスピード狂とは知りませんでした。
考えているうちにオウレの港町が見えてきました。
偵察機(中継バード、偵察バード、偵察バグ)と端末(モニター、コントローラー)を作る工房予定地は海軍本部に近い、港から離れた場所にありました。
まだ単なる空き地のその場所へ降りると、空き地の一角にある小屋へ向かいます。
恐らくここがケマル魔具省長官と選抜ドワーフが居る場所でしょう。
今日は、ポッター海軍本部長官とケマル魔具省長官に合うので、細身の折り目のついたズボンに襟の在る軍服の様なスーツを着ています。
スーツの下に着ているシャツも襟が在って首元まで真珠の小さなボタンで留める白い物にしています。
髪は飛空する事もあって、頭の上で一つに纏めてシニョンにグルグル巻いてピンで止めています。
小屋は大きな一部屋があるだけの作りに成っています。
トイレや厨房などの生活に必要な設備は何処にもありません。
私はここでドワーフ達に飛行機の授業をしなければ成らないのでしょうか?
小屋の中へ入ってみると、中は空っぽで誰もいませんでした。
仕方が無いので、海軍本部へと行くことにします。
ここオウレに在るヴァン国海軍本部は、ジュヘイモスに居るニルディア軍務省長官が事務方のトップなら、ポッター海軍長官が海軍本部のトップです。
最高司令官は王である養母様です。
でも通常の業務はニルディア軍務省長官が予算や事務などを管理していて、軍を動かしているのはポッター海軍長官が行っています。
海軍は男エルフが高級士官として多く居ます、ポッター海軍長官も現場たたき上げの男エルフです。
海軍本部に併設して、海軍士官学校と海軍兵学校、海軍工廠と海軍専用の港があります。
その為、海軍関係の施設はオウレの港町の東側一帯を占めています。
偵察機と端末の工房は海軍施設の一番西の端に敷地が用意されています。
ここから海軍本部へ行くには真っ直ぐ東へ続く広い道路を歩いて行く必要が在ります。
道路には海軍施設が始まる場所へ門が作られていて、出入りを見張っていて関係者以外入れないようです。
塀を巡らせているので門以外から入る事は出来そうにありません、空からなら入れるでしょうがそんな事をする積りはありません。
とりあえず、歩いて行って門番にポッター海軍長官かケマル魔具省長官に面会したい、と申し込んでみる事にします。
門まで歩いて行き、門の前で2人の当番と思う人に声を掛けます。
「面会をしたいのですが、ポッター海軍長官様かケマル魔具省長官様にカスミ・マーヤニラエル・ヴァン・シルフィードが来たと取り次いで下さい」
門番をしていた人族の2人は、私が空から隣の空き地に降りるのを見ていたのでしょう。
「ハッ!、カスミ姫様既に連絡が来ております、ポッター長官とケマル魔具省長官様がお待ちです、どうぞお通り下さい。」
と、敬礼して、門を開けてくれました。
どうやら既に私が到着した事は知られているようで、門番が気を利かせて連絡したようです。
門を通ると、道路は東へと真っ直ぐ通っています。
道路に沿って北に海軍本部の建物が、反対の南に海軍工廠が見えます。
どちらも特徴的で大きな建物なので見間違え用がありません。
此の奥には海軍士官学校と海軍兵学校がそれぞれ塀に囲まれて奥の方まで続いています。
道路の北側に校舎が道を隔ててグランドと学校専用の桟橋が在るのが見えます。
どちらの学校も生徒は学生寮に住んでいますし、先生方はそれぞれ学校の後ろに官舎が建っていてそこに住んでいます。
学校以外の海軍関係者もこの海軍の敷地に官舎や宿舎があります。
海軍が家族的だと言われるのはこのような環境から生じているのだと思います。
海軍本部の建物は4階建てで中央に車回しの在る東西に長い建物です、玄関脇には土を盛ったゴーレム置き場があります。
ヴァン国は聖樹であるミエッダ師匠が神の恩寵ダンジョンを嫌っていて、発生したらどのような方法か知らないのですが潰しているそうです。
その為神の恩寵型ダンジョンはありません。
ヴァン国のダンジョンは氷雪の森ダンジョンが東から西へと中央を通る背骨山脈から北側一帯を覆っています。 そこには魔木の魔物や危険な中級から上級の魔物が多く出ます。
取れる魔石の中では最も稼げるのが中級の6、5級クラスで更に上級の4,3級の物が取れると一個で大金持ちに成れると聞いています。
魔物が落とす物も利用価値が高く良い取引に成ります。
そしてその魔石やドロップ品を利用した、魔薬やゴーレムなどが多く作られていて、海軍工廠でも船の加工やウルの汁のような強化魔具を研究しているそうです。
その海軍工廠は大きな塀に囲まれた造船工房なので、船の帆柱が塀の上から覗いています。
道を歩いて行って土を盛ったゴーレム置き場の横を通り、海軍本部の車回しの玄関から中へ入りました。
中はホールに成っていて、西側に受付があったのでそこに居る人族の女性に要件を門番に話した内容と同じものを伝えます。
「カスミ・マーヤニラエル・ヴァン・シルフィードと申します、ポッター海軍長官にお取次ぎ願います」
私の問に慌てる事も無く対応してくれます、既に私の名前は知っているようです。
「どうぞ、此方へ御出下さい」と立ち上がって私に一礼をすると、ホールの奥へとゆっくり進んでいきます。
私は彼女の後を付いていきました。
彼女の姿は細身ですが上背の在る姿からは鍛えられた力を感じます。
後ろから見ても規則正しく歩く姿は軍人なのだなと思わせます。
ホールの奥から東へと続く廊下へ入って行きました。
しばらく歩いて、やがて南側にある扉の前で止まるとドアをノックして声を掛けます。
「長官、お待ちの方が見えられました」
すると、「入ってもらってくれ。」と扉の向こうから声が掛かった。
意外と渋い若くない声だったので、頭の中に朧げにエルフの老人が浮かびます。
どうやら私の記憶に在る、前に会った事のある人だと思うけどお爺さんエルフなんて会った事在るのかな?
受付の女性が、扉を開けて中に入るように「どうぞ」と声を掛けて来た。
「ありがとう」と彼女に声を掛けて部屋の中へ入った。
部屋の中は応接室のようで、低いテーブルを左右に挟むように長椅子が在り向かい側に一つの硬そうな椅子にお爺さんエルフが座っていました。
(お爺さんエルフの人は覚えがあるわ by小姉)
(何歳ぐらいからエルフって老いるのかしら? by大姉)
(確か9万歳は超えていたと思うわ by小姉)
長椅子の左側には一人のドワーフが座っています、ケマル魔具省長官様です。
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