第35話 誘拐同盟(4)

 8月に成り、養母様達がジュヘイモスへと帰られた。

 私は情報部準備室への人員増員の為、妖精の村の若木の集いへ声掛けをして”見守りたい”への参加を募った所、5人が応募に答え参加する事になった。

 この5人と私、ニキ、フェンの8人が”見守りたい”改め情報部準備室のメンバーとなります。


 先ずは新人の教育を兼ねた準備室の機能テストを行います。

 この教育は自警隊や海軍への教育へ備えたものでもあります。


 画面を切り替えて映したい偵察バードや偵察バグからの映像と音声を壁のモニターや自分の前のモニターへ出す練習を終わらせた後、実技に移行します。

 実際の偵察バードや偵察バグをコントロールする、これは教官役になる私とニキとフェンが一人ずつ付いて指導します。

 こうして数日もすると5人とも偵察バードのコントロールは出来るようになりました。

 偵察バグはバグ本体が自動的に人から隠れる動作を取ったり、常に人を感知していてその動きを追ってゆっくり移動するので追いかける人間を指定すれば後はほっといても動いてくれます。


 難しかったのは中継バードで必要な場合偵察バグの上空に移動する必要があるし、中継する為の遠方の中継バードとの位置関係を常に把握していることが肝心です。


 その中継バードの操作にも一定の技量が付いてきた頃。

 定期連絡で政務宮の養母様から正式に情報部の発足に向けて動くようにと予算とドワーフの選抜で選ばれた人員による、中継バード、偵察バード、偵察バグ、モニター、コントロール端末の作成工房を作る場所を港町オウレ・ンオトにしたことを告げられた。

 予定通りではありますが、既に作ることを前提に基礎工事は始まっています。

 正式に決まったので、情報部準備室長の私の忙しさは増えているのに更に増えてしまいました。


 お養母様に工房には関わりたく無い事を伝えます。

 「お養母(かあ)様、今は新人の教育や運用するためのバードの機数を増やす為に忙しく、他に割く時間がありません」

 「60ワークも離れた町へ教えに行くだけで無く工房の立ち上げまでかかわるには時間が取れません」

 と、切々と訴えます。


 「貴方が工房のドワーフに教えなければ作れないではないですか」

 と、モニター越しに言われてしまった。

 「では、教えてほしいと思っているドワーフの方にここへ(シリアルビェッカ)来て下さるようにお伝えください」

 「お養母(かあ)様、今情報部準備室は立ち上げの準備が終わり、業務を始めたばかりです、此の村から数日でも離れるのは業務に差支えがでます」

 私も仕事を抱えて忙しいのです、決して新しい研究の為に時間が欲しい分けではありません。


 「あらあら、ニキとフェンに聞きましたよ、カスミが自分の部屋に籠って新しい研究に没頭して、中々仕事に出てこないって」

 ニコニコ笑いながらこちらを見る目は、全てオミトオシダって言っています。


 「そっそれは、あの、少し時間に遅れたかもしれませんが、・・・・ すいませんでした」

 全面的な降伏をしました、こうなれば早く工房を立ち上げて村へ帰る事にしましょう。

 「急いでオウレの港町へ行って工房を立ち上げてきます」


 それに、飛空服改が在りました、これなら日帰りが出来ます。

 考えていると、養母様が不穏な内容の話を伝えてきました。


 「情報部の主な建物も隣に土地を確保したからそこに立ててね」

 「海軍と共同で使いたいので建物も共用にしたいの」

 さらに、追い打ちを掛けてきます、しかし最初の案と違って来ていますね?


 「お養母(かあ)様、妖精村に情報部は作るのではないのですか?、オウレの港町は海軍専用の部署を作ると決めていたのですよね」

 一体なぜ変更に成ったのか、理由を知らないと動けません、責任者は養母様でも運用責任者は私なのですから。


 「ニルディア(軍務長官)とカノニーネ(軍務長官筆頭秘書)がそろって情報部の主な機能は海軍が管轄する必要が在ると申し入れがあったのです」

 と養母様はどうやら問題を私にやらせて、私が如何に対応するのか見たいようです、でなければこのようなあからさまな新しい部署への介入に、素直に応じる訳がありません。


 「妖精村に作った情報部準備室はこのまま進めても良いのなら、その申し出に反対しませんが、もしそうで無いなら私の協力は無いと思って下さい」

 私としては、私の目的に障害となりそうな物には協力する必要を感じません。

 「海軍は海軍で情報部を作れば良いのです、私の協力無しでね」


 「分かったわ、二人に貴方の協力は得られなかったので、そちらは自分たちで考えて作るように言っておきますね」

 養母様は私の対応に表情一つ変えず淡々と彼らへの返事を答えます。


 モニター越しだからでしょうか、養母様の反応が分かりません?

 いつもの養母様ならばそもそも彼らの申し出を跳ねのけていたでしょう、何か私に此の件について関りを持たせたかったのでしょうか。

 ドワーフの工房関係者には飛行機型の偵察バードを作る約束をしていますけど、急に港町オウレに行けと言ったのは、妖精村に私が居るとまずいのでしょうか?

 ミエッダ師匠がこの妖精村に居るので外部からの物理的、魔術的な攻撃は防げるので、そのような攻撃が計画されているのでは無いでしょう。

 ビチェンパスト国の皇太子みたいに私を餌にネズミ捕りをしたいのでしょうか?

 この線はありそうです、港町オウレに長期滞在していたら誘拐同盟が私を狙って何か仕掛けてくるかもしれません、しかしこの線も”かも”が着く以上確実に狙ってくるかは分から無いので違うでしょう。

 申し入れをした妖怪砂掛け婆達が私へ何か仕掛けてくるのが、養母様はわかっているのでは?

 やっとシックリきました、何らかの計画が私に対して計画されているのでしょう。


 養母様の顔を見て、どうやら私が理解したようだと分かったのか。

 「工房にはケマル(魔具省長官)が既にいますから彼と話し合って進めてくださいね」

 と今度は笑顔で言われた。


 「では、明日からドワーフの工房の立ち上げが早く出来るように手伝ってきます」

 「オウレまで新型の飛空服で飛んで行きます、この新型ならオウレに行って仕事してその日の内に帰れます」 

 養母様は困った子ねと言った顔で頷いた。


 養母様との通信を切ると、通信用のモニターを置いている執務室の机から立ち上がります。

 そのまま養母様の執務室を出ると情報部準備室へ行いきます、ニキとフェンがいるので、お仕置きです。

 「よくもお養母(かあ)様に私の事(研究で遅刻した事)チクってくれたわね!」

 二人の耳をつまんでやったw。


 「ごめんなさい、エルフの長様からあなたの事を毎日知らせるようにお願いされてるのよ」

 「痛たた!」、「あう、やめてー!」涙目で痛がるので、勘弁してやることにした。

 「おかげで、オウレまで一月程出張よ!日帰りするけどね」

 「当然その間、二人で準備室をお願いね、やることは今までと変わらないからできるでしょ」


 「エーッ!そんな」「何か事が在ったらどうするの!」

 二人は頼りない事を言っていますが、最初の事件の時に冷静に対応出来ていたので私は信頼しています。


 「大丈夫よ、あなた達なら何が起ころうと対応できるわよ、それに夜には帰って来るしね」

 「それから、日常業務に追加が在るの偵察バードでヴァン国の海岸線に沿って映像を記録して行って欲しいの」

 「私が偵察バードでヴァン国の全ての海岸線の地図を作りたいの」

 「この件は見守りたいと養母様以外秘密の任務よ」

 と言うと、ニキとフェンは「エッー」「嫌だよ、秘密任務なんて」と嫌がっていましたが。

 「地図は将来きっと役に立つはずよ、ぜひ協力してね、お願いね」

 と言ったら、「仕事が増えるの反対!」「そうよ!残業に成るかもしれないわ、あなたが帰ってから仕事するのなら考えてもいいわ」

 と反対しながらも妥協の余地はありそうです。

 「実はね、新しくクッキーを焼いたの、美味しくできたので誰かにおすそ分けしたいなぁって思うの」

 私がお菓子の提供をほのめかすと、秘密任務をやっと引き受けてくれた。

 「仕方ないわね、クッキーの約束が守られている間は、仕事を引き受けるわ」

 「クッキー大好き、他にもお菓子を造ったら頂戴ね」


 ナミが作ってくれたのはベリーや木の実をポリッジ(燕麦のおかゆ)に混ぜてハチミツと小麦粉を入れて捏ねて焼いた物です。

 ただ混ぜて、丸く型取りして焼いただけなのにとても美味しいのです。


 これで、用意は出来たので明日からオウレに出勤です。

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