第34話 誘拐同盟(3)

 彼女達が助けられた後事情徴収が行われました。

 彼女達がまだ船上に居る間にも捜査は始まっていました。


 誘拐の現場となったお菓子屋は自警隊により直ぐに見つけられて、店へ出入りしていた人物と店員と店主が捕まりました。

 しかし、その先の今回誘拐同盟の船を雇っていた商店や荷の上げ下ろしを請け負っていた商店は、自警隊が踏み込む前に既にヴァン国から逃げ出していて、止めようとした自警隊の艦艇と戦闘になり沈没してしまいました。


 生き残った乗組員を尋問して分かった事は今回既に10人以上の犠牲者が出ている事。

 主犯は低地連合国と帝国で商業同盟がその仲介をしていた事。

 実質商業同盟が実行犯で更に仲買人としても依頼主から誘拐の依頼を受けて、仕事を計画から実行まで主体的に行っていた事が分かりました。


 いち早く逃げ出せた理由は自警隊の動きを知らせる警告が、お菓子屋を捜査する前に商店主にあったそうなのですが、彼は船と共に海へ沈んでしまいました。

 その為、誰が知らせたのか不明なままです。

 誘拐された少女たちが救助された事をいち早く知ることの出来た者の仕業だと思います。


 今回の捜査でお菓子屋を囮に誘拐する事を考えて実行したのは、商業同盟の幹部の一人でヴァン国生まれの人族でノスリと言う名の男だと捜査で分かったそうです。

 しかし残念な事にノスリは商店主に警告があった頃にいち早く身を隠して逃げたようです。


 助けられた二人は、誘拐同盟の船から助けてくれたのが誰だったのか、人数や性別もあいまいで本人達も良く分かっていないようでした。

 結局はっきりした事は分からないままに事件の捜査は自警隊が捕まえた誘拐犯達を裁判に掛ける為、刑務所へ移動して終わりとなりました。


 保護された二人は親の元へと帰る事が出来ました、誘拐された人の中では運の良い方でしょう、誘拐されていまだに祖国へ帰る事の叶わない人が多く居るのです、悲しい事に。


 誘拐同盟の起こした今回の事件は決着が着きました、罪人の裁判や帝国への抗議など此れからする事は多いですけど、区切りはつきました。


 事件としては終わったのですが、養母様は此の件でこれまでに無かった有用な手段と道具を見出してしまったのです。

 私は帝国の艦隊をいち早く見つける為に見守りたいを作って運用は此れからと思っていたのですが、養母様のお考えはもっと大規模なものでした。


 先ず、私達の見守りたいに名前が決まりました。

 「情報部準備室ですか?」名前に準備が付いているのは私が準備するのでしょうか?


 「お養母(かあ)様、私は3人でしばらくの間続けたいのですが、ダメですか?」


 「カスミちゃん、今回の事件を発見した事、見事でした、見事過ぎました、軍事的に有効過ぎて見過ごせなくなりましたのよ」

 「既に、ニルディア(軍務省長官)から艦艇の連絡に使いたいと申し出がありました」

 「それに、ケマル(魔具省長官)から偵察と中継さらにバグの制作の公開依頼と工房の設置申請が出ています」

 「更に、エカティナ(商工省長官)とハルナニア(農務省長官)とマルティーナ(総務省長官)から話をしたいと貴方に会談の依頼を私が受けています」


 「全て私が纏めて拒否しました、此方に考えがあるからとね」

 「ただし、ケマル(魔具省長官)の件は前に貴方が約束した、発明の基本的な考え方の教授をする件がありますので、オウレの港町に工房を作る事を許しています」


 と、ここまで一気に話すとニッコリ笑顔で私を見て続きを言います。


 「ですから貴方も観念しなさい、”見守りたい”は規模を大きくして国が組織化し、運用も国が行います」

 「貴方はその中心となる情報部準備室の室長をしなさい、ニキとフェンは室長補佐ね」

 「情報部は私(養母様)直下の組織にしますので、自治庁に属することに成ります」

 「分かりましたか?」

 と笑顔で私を見ています、はい、以外の返事は無いと自覚し(諦め)ています。


 自治庁とは、政務宮とは財源以外は独立した、地方自治の為の役所で、お養母(かあ)様が直接管轄しています。

 主にキャラバンの運営と地方の中核となる町で学校などの運営に関わっています。

 キャラバンの活動は地方の経済活動の為に始まったのですが、次第に村長や町長へその地方の行政を行う時に法律面の助言や人材の育成も行うようになりました。

 他にも、村や町の治安を守る自警団と警察を合わせたような自警隊や法の番人の裁判所と刑務所も含まれます。

 自警隊は沿岸警備の自警船を持っています。


 「はい、お養母(かあ)様、事業の内容は今のままで良いのですか?」

 引導を渡されて覚悟をすることに成りました。


 「まだ内容は固まっていないのですけど、今回のような海での情報をいち早く知ることが出来るような組織が目的ですね」


 少し考えます、私の最初の構想では、沿岸を偵察バードで警備して艦船の動きを監視し、異変の兆候をいち早く掴むことを目的としていました。

 それを実現する為に中継バードは高空で通信の中継を行い、1機の中継バードで5~10機の偵察バードからの通信を中継できるように考えていました。

 しかし、お養母(かあ)様の考えでは自治庁の下部組織に成るのでしたら、沿岸部の全てをカバーする偵察バードを一か所で管理するより、自警船に偵察バードと偵察バグを乗せて各船毎に運用するのが良いですね。

 考えが纏まったのでお養母(かあ)様に話してみます。

 「お養母(かあ)様、自警船毎に此の偵察のバードとバグを運用するのが良いと思います」

 「そして、情報部は中継バードを管理してそこからの情報を一か所へ集めて運用する形にするのが良いと思います」

 新しい構想を養母様に話します。


 「そうね、運用は分散させ、情報は集中させて管理するのね」

 と私の話した事からお養母(かあ)様が考えの元になる部分を抽出してくれました。


 「はい、私もお養母(かあ)様の言われた事が基本的な考え方だと思います」


 情報を集中させる事は、今回の通信の中継で出来るようになりました。

 これまで途中に何か所もの中継基地を置くような離れた距離を中継バード2機だけで繋げる事が出来たのです。


 今後はここヴァン国の首都から遠く北の海の北部へ凡そ600ワーク(900km)離れた船まで通信の魔波を直接繋げる事が出来るのですから、ヴァン国の領海全ての自警隊と海軍の船を通信で直接繋ぐ計画を進める事になるのでしょう。


 自治庁は自治庁で、海軍は海軍で船の管理にこの情報部を経由した通信網を利用することに成ります。


 情報部準備室は元は養母様のお客用控室で先ほどまで指揮指令室として運用した部屋をそのまま使うことに成りました。

 部屋は北側に廊下からの出入り用のドアがあり、南側のドアから廊下で養母様の執務室へ繋がっています。

 この北側の廊下を部屋の手前で完全に壁で下から上まで塞いでしまいます。

 締め切られた廊下は(反対側は養母様の執務室の壁に成っていて行き止まりです)トイレと給水室へと作り替えます。

 これで、養母様の執務室からしか出入りできない部屋に成りました。


 正方形の部屋の中を西の壁一面をモニター画面にします。

 ここに自警船や海軍の船から送られてくる偵察バードや偵察バグの画面を表示します。


 3段階に高さを上げながら東を一番高くして、その真ん中に私の執務机とモニターを置きます。

 中段に3台の机とモニターを置き、そこで画面の切替えやモニター毎の管理している中継バードの状態を確認する事が出来るようになっています。


 そして1段目は中段側にベンチを置いて座れる様にしています、ここは通路兼見物席です。

 1段目から2,3段目へと手すり付きの階段が両脇にあります。


 養母様達は8月に入るとジュヘイモスへ帰られるので、政務宮の養母様の執務室にもモニターを2台設置する予定です。

 必要な場合養母様と直接会話して意志と情報の齟齬を無くそうと思います。


 その為モニターや中継バードの制作を大量に受けたのですが、私は技術的に作れる部分は外部で育成した人に工房を任せて作ってもらうつもりです。

 しかし、神力や大量の魔力が無ければ作れ無い部分が多く、その部分を外した物は限られてしまいます。


 そこで提供するのは、偵察バードとその操縦方法とモニター部分を新たに作って提供する事にしました。

 これはアルベルトが作った偵察機その物をアレンジして提供する積りです。


 後は、偵察バグですが、出来る限りゴーレム化しますが、もともと魔物の魔石なので小さな虫の形はしていません、無理矢理虫の形を取らせて動くのかわかりません。

 ゴーレム化が成功すれば作ってもらう事にします。


 中継バードは旧型の中継バードの通信部分をブラックボックス化した物を見せようと思います。

 ただし、中継バードは全て情報部が管理します、見せるまではしますが、貸し出しも提供もしません。


 表向きには、ケマル魔具省長官からの申し出を受ける形になりました。


 工房を運営するドワーフの匠達に私が授業し作り方も指導する事で、偵察バードとモニターを作る工房をオウレの港町に作る事になりました。

 偵察バグはゴーレム化がうまく行けば作る事になりましたがドワーフの匠達は作る意気込みはあるそうです。


 育成は時間が出来れば直ぐに行う事に成り、オウレの港町に工房を新しく作る工事がはじまったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る