第32話 誘拐同盟(1)

 誘拐された妖精族かエルフの少女を助けたい、私が冷静に対応しないとミスはあの子達の生死に直結する。


 先ず、画面と音声から分かることを調べる事から始めようと、ニキとフェンに声を掛ける。

 「ニキ、フェン、操作しているバードを自動追尾にして、こちらへ来て画面を見てほしいの」と声を掛ける。

 「「分かった」」と二人がコントローラーをセットした後こちらへ来る、二人とも状況は分かっているので緊張している。

 「この画面の人を見て妖精族の人か分かる?」二人なら妖精族の全員を知っているだろう。


 二人が画面を見る、しかし知らない顔だったようで、首を振りながらニキが

 「妖精族の村人と違うわ」

 フェンも

 「見たことない人だわ、村を出た人はここ50年あなた以外居ないからこの人達はエルフの子供に間違いないわ」

 と言い切ったので、確信があるのだろう、二人が同じ意見なら信頼できる。


 そこまで話たところで養母様が部屋へはいって来た。

 「カスミちゃんどうしたのとても急いでいたって、ハルナニアが言ってたわよ」

 伝言を頼んだのは農務省長官様だったようだ、常日頃から妖怪砂掛け婆達に近づかないようにしていたので全然気づかなかった。

 今は、妖怪よりも誘拐されたエルフの少女です。

 「お養母(かあ)さま、此方へきてくださいそして此の画面を見てほしいのです」

 養母様を画面の見えるこちらへと誘う。


 養母様がこちらまで来て、画面を見る。

 「この娘達、手錠をされているね、足枷まであるわ」

 顔だけ私へ向けて聞いてくる。


 「先ほど訓練で、船に偵察バグを降下させる事を試したのですが、その船の画像がこれだったのです」

 「船はここから西へ600ワーク(900km)離れた場所を北へと航行しています」

 お母さまの目が少し動いたようです、吃驚されたのでしょう。


 「二人に確認したのですが、この妖精村の者ではないとの事です」

 と感情を排除してできるだけ簡潔に要点を話します。


 「そうなのね、この子たちはエルフの子なのね、見たところ200歳ぐらいかしらまだ幼い表情をしてるわ」

 「このまま、いつまで追えるの?」

 最も今私が懸念している件を聞いてくる。


 「はい、偵察バグは作動時間が限界に近いためテストで使い終わる予定でしたので、後4時間程で切れます」

 「偵察バードも同じです、2時間後までに帰還させないと8時間後には魔力切れで墜落します。」

 「中継バードはまだ18時間は帰還させ無くても大丈夫です」

 「しかし、中継バードでは監視の為高度を下げてしまえば中継ができなくなります」

 「それまでに、私が飛空服で飛ぶつもりです、18時間の飛空で計算では船に追いつきます」

 ギリギリその位でしょう。


 「今偵察バードを船に追いつく様に全速で追わせています、そちらは6時間で追いつきます」

 打った手を話す、今できる事は他に養母様から各関係機関へ連絡していただく事ぐらいだろう。


 「どうやっても2時間の空白が出るようですね」

 「偵察バグの魔波は直上なら中継バードでも受信可能でしたね」

 お養母(かあ)様の懸念は分かりますが、偵察バードを簡単に墜落させて機密の性能が漏れる可能性が発生するのは不味いのです、墜落する前に帰還する事が許可されると良いのですが。


 「はい、魔波の上空に居れば中継に支障はでません」

 中継バードはその為に作られたのですから。 


 「偵察バードは2時間後返しなさい」

 「魔通信でこの件は海軍と自警船隊へ直ぐに知らせましょう政務宮へはその後でも良いでしょう」

 「それからあなたが飛空服で飛ぶのはダメよ、泥棒に追い銭どころか鴨が葱を背負ってくるようなものよ」

 お養母(かあ)様からダメ出しを食らってしまった。


 「下手に手を出したら、彼奴らはあの子らを殺してしまうわ」

 「彼らを皆殺しにしても、彼女達が戻らないのなら意味が無いのよ」

 「これまでも同じような事件はあったわ、そして最も良い結果に成ったのは船から降ろされた後で、政治的に交渉して取り返す事なのよ」

 「もちろん誘拐した船と乗組員は再びヴァン国へ来れば、誘拐犯として処罰しているわ」

 そこまで聞いて、私は今の帝国や低地連合国との関係では取り返すには決着が着く3年以上先に成ってしまうと理解してしまった、養母様は其れを踏まえて言っているのでしょう。


 長寿を誇るエルフでも幼い頃に受けた心の傷は何万年たっても消えないそうです。

 解決までに最低でも3年、その間に受ける心の傷を思うと居ても立っても居られません。

 しかも、私は養母様のダメ出しが出て動けません。


 でも姉ねネエネ達なら動けるよね。

 (分かった、私が飛ぶよ私なら2時間で着いて見せるよ by大姉)

 (メガロン君に襲わせれば、彼女達を殺さないで船を止められるよ by妹)


 「お養母(かあ)様、分かりました、ここで待機しています、でもただ待機するのは苦痛です、偵察バードや偵察バグ、中継バードなどの作成を行いますので材料と魔石を用意してください、用意できるまでは手持ちの材料で作っています」

 今の内に必要となる物を作ってしまいましょう。


 それから、私の部屋の中は人が忙しく出入りする場所へと変わってしまいました。

 部屋の壁際に作業用の机と椅子を用意して貰い、ベルトのポーチから魔金属や錬金術の材料と魔石を出して作成の準備をしていると、養母様が手配した材料が届いて来ました。

 養母様はモニターを見ているようです。

 他にも、ニルディア軍務省長官が入って来ていて養母様の横でモニター画面を見ています。


 この部屋で養母様達は作戦の指揮をされるようです。

 人があわただしく出入りして殺気立った雰囲気がするようになりました。

 ニキとフェンは養母様やニルディア軍務省長官から色々聞かれたり指示されたりしています。


 オウレの海軍本部と連絡するために、通信魔道具が持ち込まれていますから、中継バードで通信する為の魔波の割り付けを指示しているのだと思います。

 通信が繋がったのだろう、養母様やニルディア軍務省長官が盛んに通信を行って命令を発しています。


 私は部屋の中の騒音を一切無視して、今必要とされる物を必要とするタイミングで出せるように作っていきます。

 最初に偵察バグを作成していき、魔石が無くなるまで60体程作りました。

 次いで偵察バードを1機作った所で手持ちの材料が尽きてしまいました。


 その後は、養母様が持ち込ませた材料を一旦ベルトポーチへ入れ、一つづつ取り出して錬金で材料の純度や大きさを変えていきます。

 そうして2時間ぐらいたった頃、姉ねネエネから船の上空3000mまでたどり着いたと連絡がありました。

 (着いたよ、今誘拐犯の商業同盟の船の上空3000mだよ by大姉)


 フェンの方を見ると、偵察バードは誘拐犯の船から離れて帰還しているようです。

 これなら船の上空に居ても偵察バードに見つかる事は無いでしょう。

 (了解、神域の部屋経由で偵察バグを渡すからそれを船に撒いてください by小姉)

 (養母様達に新しく投下する偵察バードの魔波が急に入ってきたら、どうするの? by妹)

 (中継バードに私達専用の空間を超えた頑固な関係を利用した魔術陣を入れているのよ、だからレタ達が家の中でも送受信できるから養母様達には見つからないわ by小姉)


 私は立ち上がると、養母様に少し離れますと告げて部屋を出た。

 養母様達は偵察バードを返し、中継バードに偵察バグの真上に移動させようとしている最中だったので、私の事は手を振っただけで画面とニキへの指示で其れ処では無いようです。

 そのまま館のトイレへと向かい人目が無い場所で家(神域の部屋)のドアを開けてレタに先ほど作った偵察バグの内30体を渡した。


 そして何食わぬ顔で自室へ帰ると、もう一度作業机の椅子へ座ると作業を続けた。

 (受け取ったよ、今から撒いていくね by大姉)

 (分かったわ by小姉)

 (船内に入ったらこちらからも監視するね by妹)

 (ええ、監視はレタ達にお願いして、カスミちゃんは別にお願いがあるの by小姉)

 (あっ、分かった!身代をしろって事? by妹)

 (そうよカスミちゃんは私とそっくりですから、入れ替わっても誰もわからないわよ by小姉)


 さて入れ替わっても後4時間で先ほど飛ばした偵察バードが着くので、それまでに解決する必要があるのよね。

 先ずは偵察ね、まだ入れ替わるのは早いから、レタ達に偵察して貰わないと。


 最初に確認する事は、誘拐されたのは2人だけなのかを確認しなければなりません。

 誘拐された人の人数と居場所が分かれば、襲撃をどうするか考えられるようになります。


 しばらく待っているとレタから連絡が来た、新たに投下した偵察バグは無事に船内に潜入出来ているそうです。

 誘拐された2人の居場所も特定出来ているそうで、他にその部屋には誘拐された人はいない事を確認したとの事です。


 今偵察バグで荷物や全ての部屋や隠し部屋に成りそうな船の死角部分を探していると連絡がありました。

 30匹の偵察バグで探せば人の大きさならば直ぐに結論が出るでしょう。


 今は待つしかないのです。

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