第31話 シルアルビェッカ村(4)

 次の日部屋にやって来たニキとフェンに音声画像付与魔道具(モニター)を見せて、中継バードと偵察バードから音と画像が送られてくることを見せる積りです。

 実際にニキちゃんの顔を偵察バードで映すとそれがモニターに映る事を二人に見せます。


 驚いた二人が、偵察バードを抱え込んでお互いの顔を映しあってキャイキャイ騒いで楽しんでいます。

 収まった頃、二人から偵察バードを取り上げると、偵察バードを空に飛ばします。


 モニターの前に座ると、モニターとつながったコントロール用の端末で偵察バードを操ってみせます。

 興味を引かれたニキは端末の前に座りコントローラーの操作を私から教わりながら偵察バードを動かし始めました。


 「カスミちゃん、此の鳥(偵察バード)をもう一羽飛ばして、私もやってみたいから」

 とフェンが珍しく自分からねだって来ました。

 それを聞いて、私が偵察バードをもう1機飛ばすと。

 フェンはもう一つのモニターのコントロール用の端末の前に座って見て覚えた方法で偵察バードを動かして見せました。

 「フェンちゃんもう動かし方が分かるの、すごいね」

 とそれを見て、思わず私は驚きの言葉が漏れました。


 「ニキちゃん、面白ね」

 とフェンちゃんが偵察バードを村の周りを飛ばして、モニターに映る知り合いを見つけては驚いた顔を映すのを楽しみながらニキちゃんに言っています。


 「うん、とっても面白いわ、ほら、ここ家の畑よパパが居る」

 ニキのモニターには畑で麦の穂の状況を手に取って調べている妖精族の男の人が映っています。

 後1月もすると刈り取りする時期なので穂に実がどの位入っているか見ているのでしょう。


 ニキが操作すると映像は畑を離れ聖樹の1柱へと移動していく、高度を上げたのだろう聖樹の枝が葉を茂らせている様が良くわかる。


 偵察バードの高度を更に上げると村が一望に出来るほどに高くから見下ろす景色が、夏の暖かな日差しに麦の穂も少しづつ色づき始めていて美しいと思った。


 フェンの方は覗いて見ると、村の中を屋根すれすれに飛びながら障害物競走の様に前方に現れる屋根や木をぎりぎりでかわし、村端までのタイム競争を一人でしていた。


 それを見た時が、私の中でニキに中継バード、フェンに偵察バードを任せようと決めた瞬間でした。 


 このまま数日間程ニキとフェンに操縦とモニターを見ながらコントローラーの操作方法を覚えて貰えば、バード関係のオペレータとして十分任せられるようになるでしょう。


 その間に私は中継バードに新たな通信方法を組み込む方法を考えます。


 中継バードに使う魔術陣の空間を超えた頑固な関係は、火球砲改2やサメの魔物に使った信管魔術陣が一時的な短時間の空間を超えた頑固な関係しか出来無いので、少し時間が経つと関係が消えてしまいます。

 しかし、今回作る中継バードの空間を超えた頑固な関係は一時的な関係では運用できないので最低でも24時間は持たないと使えません。


 レタ達のような恒久的な空間を超えた頑固な関係は双方に神力があるからできる事なので、神力が無い物ではどうやっても一時的な空間を超えた頑固な関係しかできません。


 早々に空間を超えた頑固な関係を維持する事を諦め、空間を超えた頑固な関係を作るときに使う神力を残して消えるまでの時間を24時間以上維持する方が簡単だと思います。


 しかし、神力を込めて維持させるには全種類の魔金属を極細の糸状にしてより合わせ魔糸で包んだ糸でしかこれまで成功した物(ボディスーツや飛空服の聖域の結界)は無いのです。

 今回もこの糸を使って神力がどのくらい維持できるかテストしてみましょう。


 まぁね、テストする前から予測していたのですが、糸の長さで神力の維持時間が等比級数的に変化しました。

 テストは両端を繋げ輪にした糸へ神力を込めて、感知出来なくなるまでの時間を計りました。


 24時間空間を超えた頑固な関係を維持させる神力を維持するには、1スン(3㎝)の長さの輪を双方に設置すれば出来ました、輪の中心部分が長時間の空間を超えた頑固な関係を維持する場に成ります。

 実際に中継バードに組み込む時は長さを数倍にしてグルグルと輪に回して使うことに成るでしょう。

 これで中継バードの作成に入れます。


 しばらく試験飛行を続けなければ、条件や環境が変化すると維持できなくなるかもしれません。


 ニキとフェンのオペレータ教育を始めて数日が経ちました。

 今は、新型中継バードの試験飛行をしながら、ニキとフェンのオペレータ教育の最後の仕上げを行っています。


 二人で組んで遠距離への飛行を行います、中継バードは旧型の魔波中継型を使い高度を7ワーク(10km)まで2機上げています。

1機は村の直上へ、もう1機は中継の為偵察バードの直上に7ワークの高度で待機させます。


 距離的に全土をカバーできる距離として600ワーク(900km)離れた場所まで飛んでいるフェンの偵察バードからの魔波を上空で捉えながら中継して、村の上空の中継バードで受けて、モニターのコントローラー端末でフェンが操作できるように偵察バードへ魔波を送受信し続けるための操作訓練をしています。


 偵察バードには中継バードとの通信が切れたら、自動的にここへ戻ってくるように設定しています。

 これまでの訓練ではそろそろ魔波を見失ってしまい、偵察バードが帰還する頃ですね。


 今日は如何でしょう、フェンが偵察バードを大きく輪を描くように飛ばしています、魔波の強弱を捕まえようとしているようです。

 ニキがフェンの操作に合わせて送受信用の中継バードの位置をできるだけ偵察バードへ近づけながら村の中継バードの送受信許容範囲から大きく逸れないようにしています。


 フェンのモニター画面を見てみると海上を帆船が1艘風を受けながら走っています。

 「フェン、この帆船に近づいて偵察バグを蒔くテストを行ってみて偵察バグはそろそろ使用期限が切れる頃だから丁度良い練習になるわ」

 テストの仕上げに実際の偵察活動を行って見ても良いでしょう。


 「はーい、じゃあ偵察バグを蒔くね」

 フェンが高度を下げ帆走する船に近付けると偵察バードを上手く風に乗せて船の風上側を帆の上すれすれに飛ぶ。

 そして偵察バグをバラまいていく。


 私の机の上に置いてあるモニターに偵察バグの画面がモニターに映り、撒かれた10匹の分割された画面から殆どが船に取り付けたのが分かった。

 1匹は海に落ちたようだ、しかし残り9匹がうまく船に取り付く事が出来たのはフェンの腕が良いからだろう。


 「フェン、旨いよ10匹の内9匹が船に降りれたよ」

 「えへへ、簡単だったよフェンにお任せだね」


 さて船に降下出来た事で偵察バグの訓練は終わったので、バグたちは海へ廃棄します。

 偵察バグへ新たな指令を出す為、分割表示されたモニターを見ながらバグの位置を確認しようとして、甲板を映している画像を見た時です。

 とんでもない画像が目に入ってきました。


 手錠と足かせをされた、妖精族かエルフの少女が2人、船の甲板の上を歩かされています。


 一目見ただけで分かりました、これは誘拐された少女だと。

 ニキとフェンにも知らせると、私は外へと急いで出ます。

 直ぐに手元にあった、旧型の偵察バードに偵察バグを乗せて船の居る西へと飛ばします、この船の上空へ貼り付けさせる為です。

 到着するまで6時間ほどかかってしまいます、今考案中の新型ならば速度が時速300ワーク(450km/h)の速さを出せますが、今ここにあるのは従来の物で時速100ワーク(150km/h)が最大速度です。


 船はジュヘイモスから離れようと北の海を北へ向けて航行していますから、見失う心配は無いと思います。

 海軍や警備船が見張っている帝国と近い北洋海側を避けてこの後西からエルゲネス国の南を回って低地連合国へと向かうのでしょう。


 偵察バードを飛ばした帰り、近くに居た人に声を掛けて養母様に私の部屋へ来てくれるように伝言を頼んだ。


 部屋へ帰って、画面を覗くとまだ誘拐された妖精族かエルフの子供は甲板の上を歩いている、閉じ込められていた場所から出されて血行を良くする為に歩かされているのだと思います。

 益々頭に来た、血行を良くする為に歩かせているのなら、その前は狭い場所へ閉じ込めていたのだろうと分かったからです。


 よし、飛空服で船に乗り込もう、一刻でも早く助け出さないといけない。

 焦るけど飛空服で飛んでも船までは18時間は掛かる計算です。


 こうして練習が実戦に変わってしまい、慌てても彼女達を助けられない、どうすれば助けられるだろう?

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