第27話 ヴァン国首都へ
政務庁での色濃い2日間が過ぎ3日目昼1時(午前6時)、私はヴァン国首都へと急いで旅立ちました。
妖怪砂掛け婆達から逃げる為です、あの妖怪たちは私の心に簡単には消えない恐怖を植え付けてくれました。
ここは素早く逃げましょう。
首都シルアルビェッカははっきり言って田舎の単なる村です。
どこから見ても村、村の周りは畑になっています、植えられているのは、カラス麦や燕麦で短い夏が終わる9月に収穫されます。
ただ一ついえ3つこの世界ではここだけの風景があります、村を中心とした三角形の頂点に生えている大きな木、聖樹です。
実生で植えられて千年、聖樹の大きさはすでに樹高40ヒロ(60m)、根本の幹の太さは7ヒロ(10m)になります。
三角形は正三角形の形でその1辺の距離は6.8ワーク(10km)です。
地上から樹高20ヒロ(30m)までは真っ直ぐ伸びた1本の幹で、そこから枝が半球状に伸びています。
3本とも同じ様なお姿です、それもそのはず3本ですが一柱なのです、妖精族から生まれた神なのです。
とても美しい姿をしています、私の自慢のお師匠様です。
ミエッダ(三枝)・アース・カゥン(明日香)様、私を6歳の時から導いてくださった恩師です。
私はミエッダ師匠とお呼びさせていただいています。
ミエッダ師匠も、実を揺り籠と呼ばれる『種を植え実生まで育てる器』に植えて、育てて、実生を村の3か所に植えたのは養母様です。
ミエッダ師匠と私は養母様の義理の姉妹でもあります。
港町オウレ・ンオトに2日後ジュヘイモスから移動した私達は無事到着しました。
ここでカモメを陸に上げて一月の航海で不具合が出ていないか点検します。
船工房を探さなければと言う事で、桟橋を管理する港湾事務所の係官に聞くと。
「ここには、いい腕をした工房が2つあるが、どちらも良い工房だぜ。」
「アーチボルト工房はオリブルガ族系の船工房で艤装をさせれば丈夫で長持ちする良い物を作ると評判だ。」
「ハルク工房はオリハラン族系の船工房で船を造らせたらここより頑丈な船はどこにも無いってくらい北の海で安心できる船を作るところさ。」
オリハラン族系はバルドの出身族系になるので受けてくれるのか心配したが、カモメを見て勝手に引き受けて、工房の小舟でカモメを工房まで引っ張って行くと工房の船台に引き上げてしまった。
ここまでされるともともと船の点検を任せたいと思っていたので、否応もないですね。
工房の頭のハルク氏と話し合い、船の点検と合板用の接着剤のレシピを提供する契約を結んだのですが、漆の木は遠い呪いの森産ですから、ヴァン国では手に入れにくいのです。
ヴァン国にはトレント系の魔物から取れるウルの汁があるので、ウルの汁で強化した板材の合板について研究する事にしました。
(ウルの汁は是非やってみたいと思っていたんだよ by大姉)
ついウルの汁で強化した板材の合板も研究すると話した所、それも言い値で買い取ると言質を貰いそちらの契約は首都から戻って再訪した時にすることに成りました。
「俺たちに任せておけ、戻ってくるまでに一度裸にバラして、一から組み立てなおしておくからよ。」
何か、カモメからビクッと怯える様な気配を感じたのですが、気のせいでしょう。
船台に引き上げられたカモメを一通り見て痛んだ所が無いのを確認すると、水流推進機を2台とも外し、センサーも念の為新しい物に取り換えて置きました。
後は、船内の移動できる物を全て移動させ、工房の倉庫へしまうと後の点検は工房へ任せ首都へと出発しました。
港町オウレを出たのは昼10時(午後3)ぐらい、ゴーレムにレタと相乗りしてのんびり首都へと移動します。
港町オウレ・ンオトの山側へ60ワーク(90km)奥(北)へ入った場所にヴァン国の首都があります。
そこへ行くには、獣道にほんの少しだけ人が手を入れた様な踏み固められた細い1本の道があるだけです。
途中は藪や木立の間に広がる平らな広場でキャンプをしながらジュヘイモスやオウレの町で仕入れた野菜や加工品それに調味料を使った料理を楽しみながら3日かけてシルアルビェッカ村へ着きました。
村の中まで一人で(レタは神域の部屋へ帰した)入り込んだ所で、私を知っている村人に見つかって、大騒ぎになってしまいました。
おじい様達(妖精族側)やこのシルアルビェッカへ夏の間だけ集まって1年間の予定を決める会議に出る為に帰っている、養母様やドワーフの長達にも連絡がいってぞろぞろと集まってきました。
ここは1国の首都なのに、反応が村人レベルで私が修行帰りの村人なら長達は村の長老といった感じで出迎えてくれます。
先ずは養母様へ挨拶です。
エルフの長マーヤニラエル・イスラーファ・エルルゥフへ向くと挨拶を始めます。
「お義母(かあ)様魔術師の修行を終わり、ただいま帰ってまいりました」
とカーテシーをしようと膝を曲げる前に養母様に抱き着かれてしまいました。
「お帰り、私の小さなカスミ、あなたが無事に帰ってこれて本当によかった」
「彼奴に文句を言ったのだけど、大丈夫としか言わないのよ!」
と何やら不穏な言葉が養母様から出ています。
養母様に聞き返そうとする前に、おじい様達に押し寄せられてもみくちゃにされてしまい、彼奴があの宙に浮く男なのか聞けませんでした。
おじい様達は口々にお帰りなさいコールをしてきて、私もそれに答えて疑問は棚上げにしていつの間にか忘れてしまいました。
やっと親類の歓迎から身を抜け出せて、次に挨拶をするのはドワーフの長達です。
「バルガ様、ホルト様、マチス様ただいま帰りました、帝都ではバルドと経緯は如何あれ殺める事に成りました、お詫び申し上げます」
と告げると思わぬ返答がありました。
「お帰り嬢ちゃん、実はそのバルドの事なんじゃが、誰も知らんのじゃよ、当のオーハラ族長に聞いたがそんな息子など居らんし、居所の分らん息子も一族の者も居らん、と言う事でバルドなる男が如何してオーハラを名乗ったのかわからんしそいつが誰なのかもわからんのじゃよ。」
バルガ様が一族のオーハラ族へ問い合わせてみたらとんでもない返事が返ってきたと戸惑っています。
あの宙に浮く男は私の場合と違って、帝国へ5人を送り込むのに恐らく樹人達を対象外にして記憶の改ざんをしたのでしょう、ビチェンパスト国でもアルベルトについて疑問を持つ政府高官は居ませんでした。
それに、養母様に何か聞きたいことがあったような気がしたのですが、思い出せません。
村の人達へは大雑把に「ただいまぁ~」とか「帰ったよ~」とか出合い頭の知り合いや顔見知りに挨拶をして行き、村の中心の100人は泊まれる夏の離宮用の数棟の建物へと向かった。
この離宮は7月だけ人が大勢詰めかけ、他の月はガラガラに空いている為村人が管理運営しています。
7月だけはジュヘイモスの政務宮からエルフとドワーフの大群がやって来るので村人は引き下がっています。
挨拶だらけで、忙しかった昼が終わり、皆が自分の部屋へ帰った頃、夏の離宮の一室では、妖精族の王と息子(どちらも私の伯父です)、養母様、ドワーフの長3人と私の7人が椅子に座って勝手に飲み物を飲みながら雑談をしています。
話題は、私が旅をして来た帝国とビチェンパスト国についてです。
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