第24話・2 (閑話)アデュパスの海賊

 ビスガットは海賊船の船長だ。

 彼は、エルゲネス国とディジョレン・ヌゥ・ナトネ国の間にある島に生まれた。

 島は港町カナントの沖の島で両国の取り合いで、常に奪い奪われと戦場になる島だった、大人になるとナトネ国の私掠船に乗り込んで働きだした。


 数年で私掠船の船長まで出世したので、彼には才能が在ったのだろう。

 しかし、両国の戦争が停滞し、戦争状態のまま停戦交渉の間停戦することになり、私掠船の活躍の場所は無くなった。

 仕方なく彼と彼の仲間たちはここ南大陸のアデュパスまで流れて来た、他の生き方を知らない彼らは海賊稼業を続ける事しかできなかったのだ。


 彼らがアデュパスに来たように、両国の私掠船で活躍していた者たちの多くもやってきていた。

 彼らが齎したものに船の作りがある、これまでのアデュパスの海賊が使っていたのはガレー型の船が大半だったが、そこに彼らの乗る横帆だけでなく縦帆を組み合わせて風上にも進める船がやってきたのだ。

 さらに弩の改良に魔道具を使う方法で遠距離にも近距離にも使える手立てが手に入った。


 こうして海賊がより効率的に行えるようになると、アデュパス沖を通る船の被害が多くなり各国の海軍による取り締まりが行われた。


 海軍の取り締まりは情報が簡単に漏れる為、彼ら海賊たちは散り散りになって逃げてしまい、海軍に落胆させる事になる。


 そのアデュパスの海賊たちにビチェスの町から魔波通信である情報が寄せられた。


 「帝国がカスミ姫を言い値で買う」と言う話だった。

 更に、そのカスミ姫が櫂も帆も無い船でヴァン国へ向かうと言う話で、多くの海賊たちは半信半疑で聞いていた。

 ただ、近々その船がアデュパスの沖を通ってヴァン国へ向かうのは間違いないだろう。

 ビチェスの連中に先を越されなければ。


 しばらくして、そのビチェスの町から魔波通信が衝撃の内容を伝えてきた。

 船は本当に櫂も帆も使わずに走っていること、船から火の魔術で3ワーク(5km)離れた船を沈めたこと。

 そして火責めを行ったが逆襲されグス太守が戦死した事まで知らせて来た。


 全てが信じられない事だったけど、ビチェスの連中が失敗したのだけはわかった、これはアデュパスにチャンスが回って来たんじゃないか。

 アデュパスの海賊は急いで船を出航させる準備を始めた。

 アデュパスには新型の船がある、新型の魔弩砲がある、腕の立つ私掠船の乗組員が大勢いる。


 ビスガット船長は部下に言葉をぶつける。

 「手前ら!急ぎやがれ!遅れれば獲物を他の奴らに取られるぞ!」

 急がせて、部下を叱咤して、船の出航準備を早く終わらせようと、更に声を上げる。

 「手前ら!俺たちが一番乗りして獲物を手に入れるぞ!金は欲しいだけやるぞ!」

 「急げ!急げ!急げ!」


 部下を死に物狂いで叱咤して、鼓舞し欲望を全開に、やっと出航できた。

 周り中必死になって急ぐ船ばかり、大きな集団になって南南東へと風下へと全力で向かう。


 そんな船の集団の前に一艘の小型の船が現れた、櫂も帆も使わず風上へと進んでいる。


 「いたぞぅ!奴だ!あの船だ!」

 「急げ!急げ!あの船だ!帆を最っと増やせ!」

 「魔弩砲を用意しろ!前に出るな、火魔術が来るぞ!回り込め!」

 「手前ら!乗り込むぞ!風に乗れ!帆に水を掛けろ!風を逃がすな!」


 ビスガット船長も手下を急がせる。

 「手前ら!気張れ!帆に風を逃がすな、ジブ増やせ2枚張れ!」

 「見えて来たぞ!獲物が見えた!正面だ!切り込み隊用意しろ!」

 「切り込むぞ!・・・」

 ビスガット船長はその時獲物の船から何か飛んでくるのが見えた。

 何だろうと見ていると、自分の船に真っ直ぐ飛んでくる、これは何なんだ?

 「火球が3ワーク先の船を沈めた。」ふと連絡してきた中にそんな情報があったなと思いだした。


 「ガッ」「ドガッ」「ドガッ」と言う音が聞こえた気がした。

 そして何も感じなくなった。

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