第23話 外の海(2)

 島国エルゲネス国は黒エルフと言われる闇魔術を得意とするエルフの統治する国で聖樹年100年代にはエルフの入植が始まっていたようです。

 二つの島を占有した後外の海の更に西にある大陸へ進出しようとして、当時のハイエルフの長からきつい釘を刺され、当時のダキエ国から独立してしまいます。

 背景にエルフの男性の恨みが溜まっていたことがあります。


 聖樹が地上に降臨してからの女性のエルフが根の一族の男性と如何に奔放に過ごしたか、おかげでエルフの人口は増えたけど、エルフの男性に深い恨みの感情が残ったのは歴史の裏に隠れた事実です。

 聖樹が宇宙空間に在る間はエルフの女性はエルフの男性と仲睦まじく過ごしていたのです。

 しかし選べる男性が一気に増えた、聖樹降臨後はエルフの女性の振る舞いは他の樹人から見ても酷いと思えるものでした。


 エルフの長たちは、渋々エルフの男性達に今のエルゲネス国に移住し、奔放に過ごすエルフの女性から離れて彼らに賛同するエルフだけで過ごすことを許しました。

 エルゲネス国の成り立ちはこうして始まりました、そして男性のエルフにも人族との間に子供ができる事も多くなり、その子供達は長命の因子は無くても、他の人族に比べれば長生きする事が知られてきました。


 やがて増えた人口は他の大陸へと目を付け移住しようとし始めた時に、エルフの女性の女系としての優越が侵される、と感じたエルフの長達から強引に中止させられたのです。

 当時はまだ聖樹と共にやってきた技術があり、それを知っているエルゲネス国のエルフ達に逆らう事ができなかったのです。

 ただダキエ国から完全に離れてしまいました。


 エルゲネス国のエルフにも聖樹由来の技術は残っていて追いつめてしまえば、ダキエ国側に少なく無い犠牲が出たでしょう。

 それでもエルフの長達はエルゲネス国へ攻め込む事を考えていました。

 しかし、他の樹人達はエルフの長達に強く反対をしたためエルゲネス国へ攻め込む事は出来ませんでした。

 その事を不満として、ダキエ国のエルフは長の一族を除いて聖樹を離れたのです。


 考えの違うエルフ達は、ダキエ国の開発に進む者たち女系派と、エルゲネス国に閉じこもる反女系派に分かれたのです。

 黒エルフ呼びはこの頃から始まっています、女系派のエルフ達が呼び始めたのは自分たちの権威を認めない彼らを侮蔑して呼んだのです。

 彼らに対抗するように女系派は人族をダキエ国に移住させて島の開発と人口の増加を進めて行ったのです。


 反女系派は、エルゲネス国内に閉じこもり、闇魔術の研究にのめり込んで行ったそうです。

 闇魔術は光に対する闇とは関係ありません、光魔術が光に関係する物を扱う魔術に対して、闇魔術は光で認識できない物、空間その物や生命などの神秘を扱う魔術です。

 彼らは長命の因子を男のエルフに取り込みたいのでしょう。


 国の運営は人族が事実上行っています、エルフもそれを面倒毎は関わりたくないと黙認しているので問題無いのでしょう。


 エルゲネス国はコク島とイナコク島の東西の大きな2つの島からなる国でコク島は南北へと長く伸び北側に山が多く湖水地方と呼ばれる湖が点在する地形です。

 イナコク島は楕円形をした比較的低い山の多い地形をしています。


 エルフが人口の1%を占め、全ての土地を持ち支配しています。

 国民の99%が人族ですが大半がエルフ系です。

 (私この世界のエルフって差別的で男も女も長命かどうかで価値を決めていて嫌いだな by妹)

 (エルフも人間の一つなので嫌な部分もあるのは当然なのよ、私達もね by小姉)


 彼らは主に農業、工業、商業を担い国を動かす原動力になっていて、帝国とも海では張り合える力を持っている国です。

 エルフ以外は土地を持てませんが、馬車や船、工房などの動産を持つ事は出来るので、国内の財貨の過半数は人族が持っています。

 (1%で3,4割以上のお金持ちって超お金持ちじゃないの by妹)


 国の運営は議会があり、エルフは貴族院、国民は衆議院を持って国政に参加しています。

 議会の議長と議長が任命した議員と議会職員がエルゲネス国政府の中身だそうです。


 エルフは土地と土地に関係する税金以外に興味を示さないので、国政は衆議院がほとんど行っているそうです。

 国内の各地方も国政に習って行っていると書いてありましたので、エルフの領主と国民の地方議会から成り立っていて、領地の運営は地方議会の議長と議長が任命した議員と地方議会職員がほとんど行っているのでしょう。


 ディジョレン・ヌゥ・ナトネ国とエルゲネス国は犬猿の仲と言われるほど昔から仲が悪い事で有名です。

 何が発端だったかは分かりませんが、エルフの土地に対する拘りが切っ掛けの一つになったのは間違いないでしょう。


 狭い海峡を挟んで存在する2国ですから、お互いの土地について取って取られての紛争が絶えません。

 今も両国の間にある島々の帰属で戦争状態が続いていて、今は実際に干戈を交えるような戦闘状態までは行っていませんが、精々お互いが様子見と言う休戦状態で商業的な交流さえ最小限にしか行っていません。


 エルゲネス国が帝国を友好国として付き合えば、ナトネ国はビチェンパスト王国の友好国になると言う外交を展開しています。


 ヴァン国とは同じ樹人の国の関係からエルゲネス国と友好関係が有ると思われがちですが、建国の経緯から付き合いは最小限にしかありません、逆にナトネ国とは穀物や魔道具の輸出入を通じて広く交流が有ります。

 港町カナントからヴァン国へ定期的に船が出ているのもその一環だと思います。


 ただ、帝国に在る長命族に対する闇組織については、エルゲネス国も同じ立場で協力して対処しています。

 逆にナトネ国にも長命族に対しての需要が有り、その点は帝国と同じような背景があるのではと感じています。


 港町カナントについて興味は有りますが、私が今どこにいるか知らせる事になりかねないので、寄港して私の情報が帝国に知られ無いように寄港はしません。


 カナントの在るカナント岬沖100ワーク(150km)で北から北東へと進む方向を変えいよいよエルゲネス国ではドッハー(轟)海峡、ナトネ国ではネーネルス(嘆き)海峡と言う名前の海峡を通ります。


 この海峡は船の航路が集中するところなので、海峡を通る船が多いのです。

 特にカナントからは、海流が海峡を通って北の海へと流れているので通りやすく風も追い風になる事が多く、逆に北の海からは風に対して間切る必要が有る為広い海域を必要とします。

 その為に決められたのが海峡同盟と言う船舶の通行を取り決めた約束を多くの国の間で承認した物が有ります。

 これは単純に海峡を北上する船は海峡の船が通行できる幅のエルゲネス国側を2/10を使って通過する。

 南下する船はナトネ国側を6/10を使って通過する。

 間の2/10は衝突防止の安全帯とする事を約束した物です。


 何時も北上する側が追い風になる訳では無いので風が逆の場合安全帯までは北上する側が使って良いとかの細則が色々あります。


 私のカモメは間切る必要が無いので、基本左を通れば良いのです。


 海峡の入り口部分になるカナント岬を過ぎたあたりから魔波を周囲の船から何度か感じる様になってきました。

 どうもカモメに追いつこうとしている船が何隻かいる様で、カモメを見つけると帆風(追風)に乗って追いかけて来てスピードを競っているようです。


 カモメは巡行速度の時速14ワーク(21km/h)ですから帆船では対抗できるはずが有りません。

 後ろに取り残されては何事か魔波を出して連絡をしています、此れは何事なのでしょうか?

 帝国にしてはこの海域はエルゲネス国とナトネ国に近く自由に動ける海域ではありません。

 エルゲネス国やナトネ国ならば一体何をしたいのでしょう。

 (カモメのスピードを計っているんじゃない by妹)

 (待ち構えていたからにはカモメの情報が彼等に知られているね by大姉)


 レタに魔波を出していると見られる船の旗を確認してもらいます。

 レタからの報告では、帝国、エルゲネス国やナトネ国、ゴサ国からヴァン国まで他にナトネ国の北にある低地連合国の旗もあるそうです。


 いずれも軍艦では無くて商船の様だと言う事です。

 商業同盟でも動いたのでしょうか、低地連合国は小国の集まりですが、商業同盟がスポンサーと成っていて実質商業同盟の国になっています。

 商業同盟は帝国に在る闇組織の元締だと考えられているので、ヴァン国やエルゲネス国は国内への入国を拒否しています。

 それを掻い潜る為に各国の国民に商店を経営させ、其処の荷を運ぶ為の船を貸し出す方法で入国してくるのです。

 もちろん商業同盟の船だと分かれば商店も船も没収されますが、船の所属を上手く友好国にして中々尻尾を掴ませないのです。


 前方に2隻の船が並んで帆走しています、船と船の間は1ワーク(1.5km)程間が有ります。

 2隻の船は何故か他の船より遅いようです、しかもカモメの前に常に居る様にコースを取っていてとても邪魔です。

 2隻に1ワークぐらいまで近づいて訳が分かりました、彼等の船の間にロープが張って有り、ロープを海面下に隠してカモメに引っ掛けようとしているようです。


 ロープに何かついているので、それで引っ掛ける積りでしょうね、まったく新手の海賊でしょうか


 2隻の並んで走る船の右側の船のさらに右舷を通るコースに舵を切ります。

 前に並んだ船も右へとコースを変える様です。

 が、いきなり2隻の行足が落ちると船尾が水面へと沈んで行きます。

 2隻の船員は何が起こったのか分からず、船尾から沈もうとする船にしがみ付いています。

 やがて船尾を完全に水没させ船はゆっくり沈み始めます、その時水面から巨大なサメの魔物が姿を現すと、2隻の船を強力な尾びれで叩き潰してしまいました。

 その魔物を見た周囲の船は一目散にその場から逃げ出しました、当然私達も逃げる様に海峡へと進みます。


 巨大サメの魔物は魔物の岩山(マグ・イシグ)の沖で魔石を取った魔物から作ったゴーレムです、ほんとは帝国の船から襲われたら使うつもりでカモメの下に待機させていたのですが、商業同盟相手に使う事になるとは思いもしませんでした。

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