第22話 外の海(1)
今カモメは北大陸の西の果てサラマンダ・ゴサ国の南を外の海へ向かって時速14ワーク(21km/h)のまま進んでいます。
中の海の波が穏やかでカモメが速度を出してもあまり揺れもひどくありませんでした。
風はほとんど向かい風で強く吹いていますが、カモメの航行に影響は殆どありません。
ゴサ・アジェ海峡は北の大陸と南の大陸の間の西側で最も狭い海峡で幅65ワーク(100km)あり、対岸は見えません。
海峡の真ん中をカモメは進んでいきます。
そろそろ外の海に入ったころ、波が段々強く荒々しくなってきました。
揺れが強くなってきましたが速度を落とす必要は無いようです。
カモメの速度を維持したまま進路を西から西北西へと変えます。
北の大陸の沿岸を北上して行きます、いよいよヴァン国が近づいて来ました。
ここまで海の魔物は出会っていませんが、中の海にもこの外の海にも魔物は居ます。
森ダンジョンの近くの海には沢山いるそうですが、外つ海と言われる外洋には魔物は少ないのでめったに船と出会う事はありません。
此れは海の中にダンジョンがほとんど無いか海の底深くに有って魔物もそこから出てくることが少ないからだと考えられています。
例外はサラマンダ・ゴサ国の西の先端から大きな湾曲を描く間口の広い湾の真ん中程にある岩山の周囲です。
ここは魔物の岩山(マグ・イシグ)と名付けられるほど海の魔物が多い場所です。
陸地には森ダンジョンの様な物は無いので、海中にダンジョンがあるのではと考えられています。
私達もここは遠回りして魔物を避けるために北西に進路を変えて進みます。
魔物の岩山(マグ・イシグ)を迂回中の3日目の朝、北東方向にヒレが見えるとレタから報告がありました。
ヒレの型からサメの魔物だと思います、でも魔物の岩山から150ワーク(225km)は離れているはずです。
でも魔物に襲われる以上戦うしかありません、さてどう戦いましょう。
まず海中に潜ったまま船底を食い破られたら、この船は終わりです。
これを避けるには海中で有効な攻撃手段を作らなければなりません、火球の魔法の信管魔術陣を書き換えます。
サメが襲ってくるまでに作る必要があります、作っては実験していきましょう。
先ず、水中に入るときの衝撃をやり過ごす必要があります、さらに水中を進む時の抵抗があります。
これまでの衝撃や接近での魔術の行使は使えません、現状考えられるのはタイマー式しか考え付きません。
信管魔術陣にタイマーでの魔術の行使を行うように書き換えます。
何回かの時間設定を変えての実験で水中での火球の速さが秒速1ワーク(1500m/秒)ぐらい早いのが分かってしまった。
時間設定を空中から海中までの変化を考察して設定とか無理、今すぐに作れないよ。
しばらくぼんやりしていたが、その時火球砲改2の近接信管の反応時間なら対応できると思いついた。
この新式の信管の反応は反射魔波は使っていません、魔力節約の為魔波の発生回路を無くして頑固な空間を超えた相関関係を利用して、片方を魔力で固定して他方を自由にすると振動が発生します、この振動を利用して短い時間を計測できるようにしました。
さらに空間把握は質量の把握なので、その簡易版を付与して魔術陣に変換した物を組み込んでいます。
質量把握の範囲を必要最小限にして1/100秒間隔で感知して質量を感知で1、感知無で0とし記憶します。
0から1への変化で信管の起動を待機状態に移行させて、1の続く間は待機して、1から0になったときに作動させています。
衝突した時は衝突信管が作動して魔術陣を行使しています。
当然空中も海中の物体も質量があります。
しかし、空間把握は質量の感知なので質量の密度が分かります、密度を物体の質量密度に設定して使えば火球砲などの近接信管になります。
今回は水中なので質量密度は使えません、生き物や魔物は水中の質量密度と大して変わりません。
では、どう使うのか、先ず空中で無いは水中として考えます。
そして質量感知が0から1へ変化した時から水中として、タイマーを作動させます。
タイマーの設定で1/100秒間隔の空間把握を使います、1間隔で約10ヒロ(15メートル)進みます。
これで水深は分かりませんが、どのくらい水中を進んだかはわかります。
例えば45度ぐらいの角度で水中に打ち込んだ場合1間隔で約10ヒロ進みます、水深は7ヒロ(10メートル)ぐらいになります。
これで作り込みを行い、試射を数度行いました。
この出来なら船底をサメの魔物に食い破られることはないでしょう。
レタからサメの魔物が2キロの空間把握内へと入ってきたと報告がありました。
私は作ったばかりの火球の魔術をサメの魔物から見て前方の下ぐらいを狙って打ちました。
狙いはうまく行って、サメの魔物が水面から上半身を空中へさらけ出しています。
後は待機していたアイに火球砲改2で始末してもらうだけです。
火球砲改2の扱いに慣れている、アイにとって海上に上半身をさらけ出した獲物は格好の的です。
サメの魔物に襲われましたが、火球砲改2で何とか仕留める事が出来ました。
魔物が消えなかったので、ダンジョンから迷い出た魔物で確定ですが、魔石を取る事だけでも大変で皮と歯の一部しか回収出来ませんでした。
カモメとボートで挟んでロープを魔物に掛けて沈まないようにしてから作業を始めました。
私のイオン粒子線を絞りに絞ってボートやカモメを撃ち抜かないように慎重に作業を進めました。
火球砲改2で頭とその後ろ側から背びれまで吹き飛んで無くなっていましたので、腹びれ(これってフカヒレになるの? by妹)から後ろ側の皮を剥ぎます。
(フカヒレなんて知りません、全部ゴミですゴミ by小姉)
解体中は匂いや出てくる血などその他諸々で怖気がして大雑把に皮を剥ぐと硬そうな骨や下顎の歯を取った後は、魔石の場所を空間把握で確かめながら他の部位を切り落として行き、解体を始めてから1時間ぐらいで魔石を回収することが出来ました。
(もう二度とこんな大きな魔物の解体何てしたくありません by小姉)
魔石は5級の魔石で、5級の魔石は初めて見ました、とても大きくてレタの拳ぐらいありました。
魔物の岩山(マグ・イシグ)の近くにサラマンダ・ゴサ国第2の都市で、バシャ川の河口に沿って出来たカルジュ・ボネ市が在ります。
近くにと言っても200ワーク(350km)は魔物の岩山より南側に離れています。
ボネの名前は帝国のボネでは無くサラマンダ・ゴサ国のボネなのだそうです。
ビチェンパスト王国で調べても、歴史的に違うそうなのですが、詳しくは分かりませんでした。
名前が名前なので寄ってみる事はしません。
それ以外にも大きな理由が有ります。
サラマンダ・ゴサ国も帝国と同じでネーコネン一族の治める国だったのです。
魔物の岩山(マグ・イシグ)を大きく迂回して、進路も北東から北へと変えていき、湾曲部の一番奥にあるゴサ国とナトネ国の国境を湾の沖合で越えました。
今はサラマンダ・ゴサ国を通過してディジョレン・ヌゥ・ナトネ国の沖です。
このまま北へと進むと、ナトネ国の最西端にある半島の港町カナントがあります。
ここまで8日ほど掛かっていますが時化る事も無く順調に航海出来ています。
港町カナントはナトネ国の西に突き出た半島の先端にあり、ヴァン国へ船が出ていると聞いています。
港町カナント沖を通り、島国エルゲネス国とナトネ国の間の海峡を通って北の海へと抜けます。
エルゲネス国は黒エルフと言われる闇魔術を得意とするエルフの統治する国です。
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