第20話 海の上で迷走(2)
横一列と成った陣列を取って襲ってくるようです。
レタに火球砲塔での砲戦準備を伝えます。
カモメの舵を切って風上側へと方向変換します。
1コルもしない内に砲戦距離の2ワーク(3km)以内まで海賊に近づきました。
そこでカモメを左舷砲戦とする為船首を北西に艦尾を南東へ徐々に向けていきます。
海賊を左舷に捕らえると海賊を船首側から砲撃するようにレタに伝えます。
『レタ、左舷砲戦、火球砲は順次船首側の敵から撃破しなさい、…撃てッー』
火球砲塔から単発の火球砲の音がします、「ボン」と数分待ってまた「ボン」と鳴ります。
3km離れていますので、火球が海賊に届くまで9秒近く掛かります。
波によるブレが火球砲の着弾に影響しています、標的の海賊船の周りに水柱が立ちますが大きな被害を与えたように見えません。
3発目がやっと当たって海賊船が大きな炎に包まれます、ここからでも見える大穴が開き急速に沈んでいきました。
次の目標へ目標を変えて又射ち始めます、「「ボン」」と、今度からは2つの砲を一斉に打つようです。
海賊船が1.5ワーク(2km)ぐらいまで近づいたようで6秒ほど後で海賊船が火を噴きました。
これで2隻目です、残りは8隻順調に撃破出来ています。
3隻目が火を噴いて沈むころ、海賊の船は列が乱れ個別に動き出していた。
『レタ、逃げる敵は追わなくていいよ、向かってくるのだけ撃破していきなさい』
とレタに再度指示を出す。
4隻目が火を噴いた時、残りの6隻は列を乱し、個別に逃げ出そうとしていた。
バラバラに東へと帆の向きを変えカモメから遠ざかろうする海賊船に、今度は右舷での砲戦を指示することにした。
『レタ、撃ち方止め、右舷へ転舵します、・・・180度転舵始め』
『舵戻せ、・・・ヨウソロウー、右舷砲戦用意』
逃げ始めた海賊船を後ろから追う形に成ったカモメですが、船の速さはカモメの方が倍以上早いため1.5ワークの間を取って平行に進めながら砲撃を再開します。
『レタ、距離このまま、速さを敵に合わせなさい、火球砲は艦尾側から順次撃破、用意出来次第撃ちなさい』
と言う事で、又火球砲が単発で「ボン」、「ボン」と撃ち始め、直ぐ効力射に切り替えた。
5隻目、6隻目が火を出して沈むころ、残りの4隻は逃げきれないと覚悟したのかもう一度方向を今度はカモメ目掛けて方向転換した。
残り4隻ではたどり着く前に1隻づつ沈んでいき最後の1隻が火を噴いて沈むまでに2コル(30分)程の時間しかかからなかった。
『レタ、打ち方止め、戦闘態勢解除、警戒態勢へ移行』と命令して、海面の状態を見る。
戦闘の前、私達の右舷船尾後方に居た何隻かの商船は戦場を大きく迂回するようにシーロン島の沿岸へと近寄っていますね。
状況は分かったので、元の進路へ戻すことにします。
『レタ、進路北西へ、警戒態勢解除、通常態勢へ』
レタがカモメを再び北西へ方向転換させるため、大きく舵を切る。
偵察バードに海賊船の様子を偵察させる。
海賊船が沈んだ後には何人かが板や樽に掴まり漂っているだけだった。
近くに海賊船の仲間が居る様子も無くこれで安全に成ったと確認が取れました。
偵察バードを通常のカモメ上空1000mに配置して、パンレッテ海峡を越えるべく北西へと進みます。
その後、海賊島からの追っても無く無事パンレッテ海峡を越えて、更に西へと進みます。
南大陸第一の海賊都市ビチェスの町の北側を過ぎるころ海賊の第2弾が襲って来ました。
夜になって速度を落とし巡行速度を時速7ワーク(時速10キロ)にして西へ移動します。
夜の航路の安全を確認する為に夜間勤務のレタと交代して操舵室に詰めて居た次の日の朝方の事でした。
海賊共は魔通信で海賊島の惨状を知っているのでしょう、風上から100隻が一斉に襲って来ました。
これには参ってしまいました、海賊が多くて捌ききれません、幸い海賊よりも早さは在りますので、近寄った海賊を撃破しながら逃げる事にします。
三日月に曲刀が海賊都市ビチェスの海賊旗ですが、全ての海賊がこの旗を掲げている訳ではありません。
しつこく追いかけてくる船の中には三日月に髑髏の旗や星が1つや2つなどの旗もありました。
結局西へ行くことが出来ずに北へ逃れたカモメですが、偵察バードの情報では西の海に警戒線を張って私達を待ち構えています。
3回目の海戦は西へ警戒線を張ったビチェス海賊にカモメが見つかった時から激しい戦いになりました。
海賊は30艘ほど、しかし時間が経つと応援がやって来ます。
私達は距離を取って1隻ずつ倒していくしかありません。
ヒットエンドラン戦法を取るカモメに包囲しようとする海賊、夜までもつれ込み東へ逃げる事でやっと振り切れました。
その日、警戒の為見張り役のアイを除いたメンバーで食堂に集まった皆と今後の対応を話し合いました。
何時ものように私から現状の分析と、課題を説明します。
「先ず、海賊の戦力の分析から、海賊の船は100隻以上います」
「殆どがガレー船です」
「櫂の数は片側に20本前後で1時間近く時速7ワーク(10km/h)位の速度を出せていました」
「このことから櫂の漕ぎ手は魔薬を飲んで体力を上げていると思います」
「船の大小に関係なく、魔術を行使できる者を船に乗せこちらに対抗してきています」
「今の所、風魔術で船の速さを上げるとか、火球砲の火球を逸らそうとしています」
「水魔術は火を消すために使っていました、治療にも使っているでしょう」
「土と火の魔術でこちらに対抗して火炎や礫を飛ばしてきましたが精々20ヒロか30ヒロ(35mか45m)ぐらいでした」
「魔弩砲(魔道具の弩)の魔弾を撃ってきましたが200ヒロ(300m)も届く物は在りませんでした」
「このことから海賊の戦法は包囲しての魔弩砲を使っての接近戦か衝角攻撃で乗り込んでくるぐらいだと考えています」
「次に私達の現状です、船が沈んでも飛空で逃げられます」
「食料や水についてはいつまででも大丈夫です」
「問題の1つは魔石の数です、船の動力として又、火球砲の魔力として6級の魔石を使っています」
「今はまだ余裕がありますがこのまま使って行けば何時かは無くなります」
「再魔力充填出来ますが、魔力充填できる最大魔力量は減っていきます」
「でも、このままでも数カ月は持ちますので魔石については其の内購入するなど考えれば良いと思います」
「今早急に対応しなければ為らないのは、火球砲改の魔力充填時間です」
「現状5分で充填出来ていますが、2分30秒で1発の間隔では海賊に飽和攻撃を受けると接近を許してしまいます」
「と言う事でこの対策を話し合いましょう」
「はーい、火球砲でハリネズミみたいに武装しましょう」と妹が手を上げて発言します。
「火球砲を設置する場所が船首も船尾も障害物があって出来ない、精々両舷側に1門づつぐらいだ」と姉ねが考えながら具体的な設置場所を言ってくる。
「偵察バードは今8級の魔石を使っているが、自爆攻撃は出来ないか?」
と私も考えた末諦めた事を姉ねが言ってきます。
私も一度はその考えを検討しましたが、敵にそのような手段がある事を知らしめる事になるので出来るだけしたくないのです。
「偵察バードの作成には高度な錬金術の技量が必要です、しかし帝国は特にアルベルトはその手段を持っているでしょう」
「帝国に知られる恐れがあるのなら行わない方が良いと思います」
私の考えを伝えると姉ねも理解してくれました。
「後は火球砲改の魔力充填時間を短縮する方法を考える事しかなさそうだね」
姉ねがお手上げだと、両手の平を上に向けながら言います。
「はーい」と妹が手を挙げて発言を求めます。
頷いて発言を促すと。
「東へ大回りして逃げるとか、北へ回って大陸沿いに西へ高速で突破するとかは?」
確かに東へ行けば東の外の海から北へと行けるでしょう、ただし北大陸の東側の大きさが分からないので未知な部分が多くて西へ行けない場合の最終的な選択ですね。
「東へですが、未知な事が多すぎて他に選択が無い場合になると思います」
「東へ冒険の旅も面白いが、海賊の親玉の国が東にあるからなぁ、そっちは無しだわ」
と姉ねがダメ出しで終わりにします。
もう一つの北から大陸沿いに高速で西へ突破を図るのは、先日の戦いのような大海原を縦横無尽に走りながら逃げ回る事が出来なくて、大陸側へ包囲されて陸へと逃げることになるでしょう。
「海賊は常に南風を利用して襲ってきます、最初から半分逃げ場が無い場所からの突破は陸へ追いつめられてしまいます」
やっぱり火球砲改の改造しかないようです。
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