第19話 海の上で迷走(1)

 私達の航海術は基本陸地に沿って南下する事なのです。

 私達の知識は航海術に付いて何も知らないことが分かった、と言う事が分かったと言う事です。

 この大地の大きさも、傾きの度合いも、磁石の北がどのくらい偏向しているのかも、太陽を回る周期についても北極星が在るのかも何にも知らないのです。


 それは、地球と比べてほとんど同じくらいだろうと思っていますが、では正確に数字でどの位と聞かれると、ごめんなさいとしか言えないのです。

 地理も似ているようで、違いは大きいです、この北大陸もヨーロッパのような形をしていますがヴァン国の位置に島などありませんし、中の海は両端が外の海に繋がっています。

 どちらかと言うとパンゲア大陸の北アメリカ大陸と分裂した直後の方が似ています。


 右も左も解らないので、今わかっていることから始めました。

 日の昇る方角が東なので、ヴァン国のある半球を北半球として、磁石の北と南を決めました。

 そして、夜に北の空を見て北極星の様に動かない比較的大きな星が無いだろうかと探しました。


 今が6月だと言う事が幸いして比較的天気の良い日が続き、やっと北の空にほとんど動いていないと皆が認めた星を北極星と名付ける事ができました。


 北の空を画像音声付加魔道具で記録して、後で再生させて確認したので北極星と呼んで間違いないでしょう。


 ビンコッタ海が終わり右舷に見えていた陸も先端を通り過ぎて、私達は中の海へと出てきました。

 大陸の先端は南西へとまだ伸びているようです、偵察バードからの眺めでは大きな湾に成っているようです。

 なので、しばらく南西へと方向を変えて航海しています。


 中の海に出て、南西へと進む私達の前に大きな島が見えてきました、シーロン島です。

 帝国で手に入れた地図では大陸から突き出た半島の南西に大きく書かれた島として描かれています。


 この辺りには交易船が多いのか風を受けて帆を広げた船が上甲板から良く見えます、舳先(へさき)方向にも何隻か見えます。

 ここからは島を迂回して北西へ向かいます。


 私達が他の船より便利な方法が偵察バードを利用した、周囲の海を高い高度から見渡すことが出来るということです。

 今も3000mの高度まで偵察バードを飛ばして前方を見ながら航海しています。


 シーロン島を右舷に見ながら進むとやがて偵察バードの画像に遥か遠くに南の大陸と思われる大地の線が見えました。


 恐らくここがパンレッテ海峡でしょう、左舷の大陸には有名な海賊が犇(ひしめ)いているそうです。


 今の所、太陽が出てくる方角を東、沈む方角を西として舳先を北西へ、右舷を北東に左舷は南西、船尾は南東の位置取りで北西へと向かいました。


 偵察バードの高度を500mまで降し、周囲の監視を強化します。

 シーロン島と大陸の間に海賊島と言うそのまんまの名前の島が在ります。


 この島には海賊の砦や港が在り、パンレッテ海峡を通過する船舶から通行料の名目でお金を巻き上げています。

 ビチェンパスト国は海賊と取引をしてビチェンパスト国が纏めて商人から受けたお金を年に1回支払っています。

 これでビチェンパスト国の商船は海賊に襲われなくなったのですが、取引相手の海賊が他の地の海賊を抑える約束が信用できれば良いのですが海賊は信用などとは正反対の存在なので、ビチェンパスト国の商船が偶に襲われる事になります。


 その度に、ビチェンパスト国の海軍が出張り海賊の塒に成っている南大陸の都市を襲って奴隷にされた人々を大勢助け出していますが、例え海軍と雖(いえど)も常に海賊と戦っている訳には行かないので海賊は今でも繁栄しているのです。


 海賊島は周囲26ワーク(40km)程の島で中央に煙の出ている火山が在ります。

 海賊が襲う時の目安にしているのが船毎に掲げている所属を表す旗です、ビチェンパスト国の旗は平行な3色に色分けした旗で、上から白、黄色、赤です。


 私達もヴァン国の旗を掲げています、3色に色分けしていますが、平行な線では無くて旗の底辺を底辺とする二等辺三角形の頂点が旗の上側の真ん中へ繋がっています。

 色は上の三角形から黒、中の二等辺三角形部分が黄色で中に緑の糸で聖樹が描かれています、下の三角形が赤です。


 旗は大きくて、その旗を染める染料は高いので簡単には作れないのが不正防止になっています。


 その日昼3時(午前8時)ごろから方向を変える事にして北へと向かいました。

 海賊島の近くを通ると海賊が襲って来そうなので、シーロン島に沿って北西へと進むことにしたのです。

 同じ考えなのか、南西からの風に乗って必然的になのか何艘かの船がシーロン島沿いに航行しています。


 昼8時(午後1時)ごろ偵察バードに左舷前方から接近する10隻ほどの櫂を沢山備えたガレー型の帆船を見つけた。


 ビチェンパスト王国で聞いた話では、ガレー型の船の櫂の漕ぎ手は奴隷上がりの海賊が多いそうで、何年も奴隷として櫂を漕がされ魔薬漬になり狂い死ぬより海賊の仲間と成って漕ぎ手兼切り込み要員となる方が何倍も増しだと、殆どの奴隷が海賊に転向してしまうらしいです。


 海賊にとっても奴隷でなく漕ぎ手の手下が多くなればより多くのお宝(船や村)を狙えてお互いにウインウインの関係なのだと言います。


 海賊は人を攫って奴隷にするために襲ってくるそうで、荷や船が直接の狙いでは無いのだそうです。

 時には数百艘の海賊船が集まって村や島を丸ごと襲って村人を攫っていく事も多いそうです。


 今回の船が海賊船と決まれば撃沈も止む無しと考えています。

 彼らの戦法は、風上を取り逃げる獲物の船が舷側を見せると衝角で攻撃してきます。

 衝突した後は獲物の船に海賊の手下共が乗り込んで、荷や人を攫って行くのが典型的な攻撃方法だそうです。


 ビチェンパスト王国やその他の北大陸の国は海賊の主な頭と話をしていて、毎年通行料を支払う事で襲は無いと約束ができているそうです。

 でも実情として海賊の拠点は南大陸の方々にあるので話し合っていない海賊も多くいます。

 そのような海賊を各国の海軍が掃討しています、でも海賊はゴキ**と同じで後から後から湧いてくるので何処の国の海軍でも対応しきれないのが実情です。

 結局、海賊の実質的な頭カッラ国太守に通行料の名目でお金を払い、他の地域の海賊を抑えて貰うしか手立てがないのが実情です。


 ガレー船は西から風上を取るように動いています、聞いている海賊の襲撃方法と同じですね。

 昼10時には風上に位置して、一斉に船の向かう先を北東へと変え後ろからの追い風に乗ってこちらに近づいて来ました、海賊の居る方向が左舷側の南西の為、太陽を直接見る方向と成って見えにくいのです。


 ここまで計算ずくでの襲撃は、敵認定して良いと思います。

 (まぁ待てって、この脳筋娘!例えそうだとしてもちゃんと確認ぐらいはしようよ by大姉)


 仕方ありません、姉ねがそう言うなら確認しましょう。

 偵察バードを海賊船へ向かわせます。

 (このごろ脳筋娘が私のあだ名みたいに使われています、不本意ですわ by小姉)


 偵察バードが近づくと船の旗が見えました、白地に黒で三日月に曲刀です。

 見なくても分かり切った事ですが、海賊旗です。

 この旗印は海賊の根城と成っているビチェスと言う都市の旗で真に海賊旗として広く知られている旗です。

 これを掲げた船はビチェスに所属する海賊でこれから襲うぞと宣言しているのです。


 カモメの船内では、ナミが火球砲の砲塔に砲手として詰めています、レタとアイは操舵室にいます。

 アイが操舵手として、レタが指揮を執ります。

 私は帆柱の上に在る物見板の上に立っています。

 ここは、人ひとりがやっと立てる程の板敷きにロープで周りを荒く囲っただけの作りです。

 場所は帆柱の最上部に在ります。

 上甲板から10ヒロ(15m)は在ります、足の下にはヴァン国の旗がはためいています。

 今帆は畳んで帆柱に括り付けていますので帆柱の中程が括り付けた三角帆とブームと呼ばれる柱材で膨らんでいます。


 やがて海賊船が見えてきました、南西約10ワーク(15km)ぐらいに帆が見えます。

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