第14話 船の購入と改修作業の完了

 次の日、私は昼4時(午前9時)にナミを護衛に、王宮へ向かった。

 ゆっくり行くので、歩いて行ってます、王宮に着くのは昼5時(午前10時)ぐらいです。

 レタからステイスル商店で最後の支払いを終わらせたと連絡がありました。

 これで一つ安心ですね。


 このまま何事も無く終われば私の杞憂だったと言う事になりますね。


 私とナミが王宮前の戦勝記念碑(ビチェンスートラ)の広場に着いた頃、レタ達が小舟に乗って船まで帰り着いたと連絡があった。


 さて一安心ですね、ではエドワール皇太子様にお会いしますかね。

 ナミに王宮の門番に問いかけさせる「昨日、エドワール皇太子様の秘書のリリエビッチ子爵と話し、王宮にてエドワール皇太子様との歓談をお誘いいただいた、カスミ・ヴァン・シルフィード姫様である、お取次ぎを願う次第でござる」


 門番は、聞いていないようで、此方の身なりを見ている様だ。

 もちろん言ってないですから、当たり前ですね。

 今日は前回の時と同じ町娘の格好で来ている。

 勿論わざとです門で追い返されたら、手紙を渡してこれ幸いと船に帰る積りですから。


 所が、門番も皇太子とリリエビッチ子爵の名前を出されては、取次しない訳にもいかなかったのでしょう、門番の中の一人が王宮へ駆けていった。


 しばらくすると先ほどの門番が、一人の侍女と思しき女性を連れて帰って来た。

 帰ってすぐ門番の指示なのか門が開いた、そして侍女と思しき女性が前に進み出てお辞儀(カーテシー)をする。


 彼女の手を取りながら「貴方の名前を聞いても良いですか」と聞いて見る。

 すると「恐れ入ります、私は皇太子宮の取次役女官、カリナと申す者です」との事です。

 どうやら私の前に来たのは皇太子への取次をするための様です。

 「貴方に付いて行けば良いのですか?」と聞けば。

 「はい、どうぞお願いします」と付いて行けばよい様だ。


 彼女に付いて行くと、王宮の扉も庭園への扉も全て自ら扉が開いて行く、中々に見事な景観だった。

 庭園の中にバラが一面に咲いていて、そこに東屋が立っている区画があり、其処へ案内される様だ。


 近づくと東屋の中で立ち上がる人影があった。

 いつの間にか取次のカリナ女官殿は横へと移動していて立ち上がった人に私の前を譲っていた。


 私は深々とカーテシーをしながら、彼の差し出す手を取る。

 彼は私の手を引いて立ち上がらせると。

 「カスミ姫、良く来てくださいました、歓迎します。」と私が来るのを知っていたようです。

 東屋にしたのは、私が歩き始めて行き先が王宮の可能性が在ると分かった時点で知らせが来て、部屋の用意が間に合わず、急遽東屋を用意したのでしょう。

 ビチェンパスト王国の影も優秀なのか、暇なのでしょう。


 「エドワール皇太子様、お約束のお話をするためにまかり越しました」と約束だから来たよと告げてみる。

 「お約束では船で出る前にお会い下さるとの事でしたから、いよいよ船が出来上がったのでしょうか」

 「はい、艤装も今日終わります、船の支払いも今朝終わりました」

 「後は火球砲の試射だけだと、皆も気が早っております」と今の状況を説明する。


 「今日は私との約束を守る為来てくださったのですね。」と手を取ったまま歩き出す。


 「どうぞここはビチェンパスト王国の中でもバラの庭園として有名な庭の一角です、冬でも咲く魔術の庭園なのです。」と少し自慢なのか演技には見えない自慢気な顔をしています。

 確かに3月の終わりと言えどもまだ冬、なのに寒さを感じない、ここは魔術で温度をコントロールしている庭園のようです。


 「見事なバラの庭園ですね、花の色まで様々に咲き誇り、この東屋の近くに咲くバラの深紅で見事な事すばらしい庭園ですわ」匂いを嗅ぐためバラに近づき少し息を吸う。

 するとバラの甘い香りがして「とても良い匂いです」とため息のように言葉が出る。


 エドワール皇太子に案内されながら東屋に入り用意された椅子へと導かれるままに椅子へと座る。

 椅子もテーブルも私の為に高さを低くして座り安くしてくれている、後にはナミが控えている。


 エドワール皇太子も対面へと座る、少し座りにくそうだが足を組んで誤魔化している。

 侍女が紅茶とコーヒーをサイドテーブルで入れて持ってくる。

 「まぁ良い匂いの紅茶ですね」と美味しそうな香りの紅茶を前に感じたままを言う。


 「夏に摘んだ茶葉から作られているらしく、香りも味も好きな茶なんだ」とエドワール皇太子の好みはコーヒーだけど紅茶にも詳しい様です。

 「タフトもどうぞ、今日のタフトはプリムと言う酸味のある果物のジャムを生地にも練り込んであるタフトなんだよ」とこれもまた美味しそうな赤いジャムの乗った焼き菓子が紅茶に添えて出てきた。


 前回のお茶請けで食べたクッキーのトロフーレより柔らかい食感で、ジャムの甘酸っぱい風味が口の中に広がり、食べた後の紅茶でさらに広がる香りと甘い酸味が渋みを程よく感じさせて幸せです。

 「この紅茶はタフトとよく合っていて美味しいですわ」とエドワール皇太子へお礼を込めて伝える。


 ちょっと目を細めて笑顔になりながら「そうなんだよ、このコーヒーにも意外と会うし中に練り込んでいるジャムを別の果物にすると風味も変わって別の美味しさが味わえるお菓子なんだよ。」と飲み終わったコーヒーを脇へと押しやりながら言う。

 組んだ足をほどき、少し前のめりになると、両手をテーブルに乗せ指先を軽く触れ合わせると、エドワール皇太子の雰囲気が獲物を前にした猟犬の様に見えてくる。

 「カスミ姫、先日のお話では聞けなかった事が幾つかあってね今日はそこの所を話してもらえると嬉しいのだが、先日も言ったように、あなたが話しても良いと思う範囲で話してもらいたい。」


 「今日はそのために来ましたのよ、やはり私の養母様のことからですか?」と一番聞きたいだろう事からにしましょう。


 「はい、名を名乗らなかったダキエの姫とその娘の話を話してください。」エドワール皇太子の聞きたいことも同じでしたね。


 「マーヤニラエル・イスラーファ・エルルゥフ、養母様の名前ですが、エルフの名付けの習慣で母の名前を必ず2番目に名乗ります」と言うとエドワール皇太子だけでなく周りの人達も驚いたようです。


 「では、ダキエの姫のお名前は……イスラーファ」最後の声は少し掠れて聞こえた。


 「はい、イスラーファ様とお名前だけはお聞きしています」周りの驚きぶりに少し怖くなって小声になってしまいました。


 「お待ちください、その娘帝国から手配されている暗殺者ですぞ、ご用心を!」

 どうやら、無粋な乱入者が現れたようです。

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