第3話

 あのひと。

 あのひとだった。

 なんか、ふらふらしたから。声をかけようとして。


「あの」


 分からないみたいだった。

 なんか、おかしな。変な感じがする。追わないと。何か大事なものを落としてしまったような。そんな感じが。

 人混み。

 あのひとの姿は、ちょっとした曲がり角の向こう。どこかに消えていった。










 その日は、人身事故で電車に乗れなかった。

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