部活ってさ、部活だよね

 僕は掲示板に張り出された部活動の勧誘のポスターを見ていた。みんな涙ぐましい努力がほどこされている。陸上部男子ならユニフォーム姿の走っている男の腕と足が立体的になっており、動くようになっている。迷える子羊の新一年生を狼のように狙う上級生たち。恐ろしい。

 僕は中学までは吹奏楽部だった。理由は簡単、音を大きく出してもいいから。笛を吹くにも川辺に行かなきゃいけないくらい騒音には気を使っている。そう考えると吹奏楽一択だろうなと思っていたけど、音楽関係の部活があと2つある。合唱部と軽音楽部だ。合唱はないとして軽音楽部はヒジョーに興味がある。どんなことをやるのか、なになにポスターによると『ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボード。音楽を楽しみたい人募集中!』あとは、しおれた制服を着た部活動をやっているであろう写真が載っている。一方吹奏楽は相も変わらず女子ばかり。中学の部活動で酷い目にあってるからなぁ。ちょっとサックスでジャズっぽくしたら「ふざけないで!」とブチぎれられる有様。

「おい」

 女性恐怖症になる。マジで。数が集まると女子は強い。

「おい!」

「ん?」

 僕は振り返った。そこにはまた仲間をぞろぞろ連れているオデコ狙いのなんとか先輩がいた。

「どうも」

 僕は軽く会釈した。

「お前、柔道ができるらしいな」

「ちょっとくらいなら」

「来い」

 僕をにらむとついて来いと言わんばかりのそぶり。あーあ。結局こうなるのか。ついて行くと入学時にあった謎の館についた。ここ柔道とかやるところだったんだな。確かに外見は白い壁に黒い瓦の入の部首みたいな屋根がついている。確かに和風だ。

「ここで俺と柔道で勝負しろ」

 入ると下駄箱があり、奥では柔道部が新入生を歓迎している。僕は上履きを下駄箱に入れて入っていった。中には見学のガタイのいい新入生が見学するなか、男くさい連中がくすんだ白の柔道着を脱がそうと一生懸命になっている。壁には大きく胆力と書かれた書道のかけじくがあり、他には数々の賞状が飾られている。よくみるとオデコもそこにいた。

「なんでこんなところにオデコがいるんだよ」

 僕は近づいて話しかけた。確かに胸が大きいから太って見えるけど、腰はまあまあ細いぞ。

「知らない。来いって言われたから来たの」

「知らない男についてっちゃダメだぞ」

「フン」

 オデコはそっぽを向いた。

「おい、森。柔道部入れよ。俺はこの柔道部部長、上様下僕(ウエサマゲボク)だ」

 すでに臨戦態勢の柔術着に着替えている。帯びの色は黒だ。僕は緑だから格上か?

「俺と闘え、森!」

 ケンカじゃないだけマシか。僕はその勝負を買った。相手の方が背が低かったが体格は向こうの方が上だった。僕は制服、靴下のまま試合をしたが僕があっさり勝った。打撃ありでもよかったな。

「ク、クソ! 俺様が……広井にいいところを見せられなかった!」

 こうして僕は柔道部を後にした。オデコといっしょに。


「そういえばオデコは部活動決めたのか?」

「まあね、吹奏楽部にしようと思ってて見学に行くところ」

「へー、中学の時はバレー部だったのに」

「さすがに高校のバレーは難しいでしょ、運動神経の悪さ自覚したし」

 胸がばるんばるん揺れるしな。

「逆にあんたはもう決めたの? やっぱり吹奏楽?」

「んー。吹奏楽は女ばっかりだしなぁ。ここだと軽音楽部があるからそっちいってみようかなーって思ってる」

「バンド活動なんて興味あったんだ」

 オデコは手を叩いて笑った。

「防音、目当てだけどね」

 2人で校舎をさまよっているが目的地がわからない。うろうろしているうちに見つかるだろうという愚策。

「で、何やるの楽器、まさかボーカル?」

「そこは入ってみないとわかんないな、一番少ないやつやる。ベースかな、多分」

「ふーん」

「オデコはなにやるのさ?」

「エレクトーン」

「吹奏楽には無いぞ」

「まあ、こっちも似たようなものね。余りものにでもしようかしら」

 しばらく歩いているとピープーという吹奏楽特有の調律の音がする。

「あ、こっちみたい。じゃね」

 オデコは跳ねるように吹奏楽部の部室に向かった。


 僕も軽音楽部の部室を見つけて入っていく。

「こんにちは~……」

 恐る恐る扉を開けると、中には備品と思わしきドラムがたくさん並んでいる。部員は……、なんか普通。さっき行った柔道部とか吹奏楽部とかと比べて個性が薄い気がする。普通に音楽を楽しんでいる人たちの部活みたいな雰囲気だった。男女比も悪くない。

 上級生の一人が僕に歩み寄ってくれた。

「新入生! ウェルカム! 何君?」

「森です」

「森君、ようこそ、軽音楽部へ。見学かな?」

「一応……」

 軽音楽というくらいだから軽く音楽に触れたいだけです、吹奏楽のパートとかクソくらえって思ってます、なんて言ったら怒られるかな。

「軽音楽の軽の部分に惹かれてきました」

「アハハ。よろしくね」

 部員は多くない。いまいるのが20人程度。見学はいま5,6人。結構笑い合いながらやってるから人間関係は悪くない、かな。外向けかもしれないけど。

「軽音部ってどのくらいの人数いるんですか?」

「ケッコーいるよ。40人くらい」

 多っ。みんな真面目にやってんのかなぁ。一人だけ黙々と篠笛を吹いたりしたら電磁浮遊だろうな。部屋の隅っこでやればいいか。

 

 その後入部届を無事提出して、軽音楽部の一員になりました。僕の個性が出せるようになる日がくるのだろうか。

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