第十一球 筋肉と少女

前話『第十球 鏡(仮)』

https://kakuyomu.jp/works/16817139555831295773/episodes/16817139556593443616

 円卓を囲む同じ顔をした四人の男。


 あと二人いれば、雪の結晶みたいだな。

 ピリピリと張りつめた空気の中で、私はそんなどうでもいいことを思った。


「おや、立ったままではお辛いでしょう。どうぞお座りください」

 奥のひとりが言った。たぶん、『早打ち』の人。……四人の見分けは自信ないけど、彼はひとりだけ、片手に銃を握り締めていたから。


「はぁーい!

 ありがとぉーございっますっ!」

 私は感謝の言葉をかけ声に、ぐっと地面を蹴って飛び出した。だって、殺意で肌がピリピリするし、これで私の会った四天王は七人目だし、これはもう間違いなく敵かな?って。攻撃をしかけることにした。

 もう迷いも戸惑いもない私の身体は、程よく力が抜けていた。ロングソードの固い柄が生身と義手のアンバランスな両手にしっくり馴染む。もう剣の記憶に頼ることなく、思いのままに身体が動いた。


 とりあえず、一番近くにいた安倍晴明、たぶん『陰陽師』を斬りつけると、バフンっという音とともに姿が消えて、代わりに小さな紙切れが現れた。たぶん、人形ひとがたってヤツだと思う。

 私は構わず、剣を振り降ろし、人形ごと円卓も真っ二つに叩き割った。晴明のすかした顔がちょっとムカついたので。

 すると、私の動きが予想外だったのか、奥の『早打ち』が一瞬怯む。そこをすかさず、斬りつける私。ずいぶん、戦いに馴れてきた気がする。しかし、


「――はっはっはっ!聴いていたより、お転婆なお嬢さんですね」


 横から、別の晴明が早打ちを押し退けるように飛び出した。彼は剣を受け止めようと右腕を掲げるが、私の刃は止まることなく、袈裟斬りに彼を引き裂いた。ざっくり裂けた衣装の間から、逞しい肉体があらわになる。私の剣は骨を断つことはできなくても、傷は浅くなかったようで、噴水みたいに鮮血が噴き出た。


「はっはっは!元気なようで結構!結構!」


 私の髪を雨みたい濡らすほどの血飛沫。でも彼はそんなこと気にならないように、豪快に笑い続ける。

 そして、「ふんっ」と軽く力を入れると、上半身の筋肉がボコボコッと盛り上がり、着ていたヘイアンイショウが粉々に弾け飛んだ。まるで漫画みたいだった……。現れたのは、まさにゴリゴリマッチョの筋肉ダルマ。さっきの出血ももうピタッと止まっていた。


「さてさて。では、僭越せんえつながらまずは私、『狂戦士』安倍晴明が参りましょう」


 表情筋までゴリゴリに隆起した笑顔で、彼は醜くニッコリ笑った。



 ――少し時を戻って。みどりが奈落トラップルームに落ち、しばらくした頃。

 彼女やシロウとともに魔王のもとを目指していた包帯少女、JTR。平安衣装の死体が転がる中、彼女は血と泥にまみれ。満身創痍で地面に膝をついていた。


「おいおい、大丈夫か?量産晴明と違って、俺はただのオリジナルだ。一回殺せばもうおしまいだぞ」


 彼女の前に立った大きな影が呆れた声を出す。

「……ガルム」

 JTRの呟きに、影は白く鋭い歯を剥き出しにして、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「俺なんかに手こずってるようじゃ、『殺戮機械キラーマシン』の異名が泣くぜ?」


「さすが、『古き魔物』を名乗ることを許された『奈落衛兵』ガルムシリーズ個体003。生身で全盛期の塵塚と同等の馬力とは聞いてたですが、ここまでとは」


「『奈落衛兵』シリーズ?」


 影は身体を屈めて、訝しげにJTRの方を覗き込んだ。

「何をぶつくさ言ってやがる。俺は今も昔も変わらずずっと『古き魔物』のガルムだよ」


「あぁ、記憶まで晴明に弄られてしまったですか」


 JTRは立ち上がろうとするが、膝がガクガク笑ってしまって、うまく立てない。


「ぐっ、シロウ。まだですか。

 ワタシ…ひとりでもち堪えるのは…そろそろ…限…界…」


「あー、もうウゼェよ。もう寝てろ」


 ユラユラと立つ彼女をガルムは太腕で薙ぎ払う。彼女の小さな身体は蹴鞠のようにね飛ばされた。


次回最終回『第十二球 『完』』

https://kakuyomu.jp/works/16817139555831295773/episodes/16817139557044485314

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る