第九球 闇に踊る

次話 『第八球 長い廊下』

https://kakuyomu.jp/works/16817139555831295773/episodes/16817139556425600084


 深く暗い穴の中。

 私は重力に身を任せながら、いろんなことを考えた。――死んでしまったお母さんのこと。はぐれてしまったクラウスさん、いや、ガルムさんのこと。ずっと会っていなかったお兄ちゃんのこと。……四天王。あの鎧武者に、出会ったばかりの少女型機械、JTR。

 そして、――……。


 もうすぐ地面に着く気がして、私はロングソードを強く握る。私の身体は、剣から伝わる知らない記憶に従って、くるくると猫みたいに軽快に着地した。


 そこは、真っ暗な闇の底。

 ふと、鏡の世界というのはこういうことなのかなと思った。鏡とは視覚の世界。つまり、光がなければ、闇の世界。それは、まさに魔王の国って感じがする。

 でも、今、ここには私がいる。勇者という名の光が。


 後ろから何かが飛びかかってくる気配がした。私はまだ目が慣れていなかったけれど、身体はさっと動いて、その何かを真っ二つに斬り裂いた。べしゃっと血肉が床に落ちる音した。

 それを合図にしたように、辺りに低い唸り声が響き、周りの何かが次々に襲いかかってくる。でも、私の身体はそれをかわして、いなして、斬り伏せる。まるでダンスでも踊るように。

 ようやく暗闇に目が慣れた頃には、辺りは血の海になっていた。血の海というか、血の水たまり。鉄臭い上に、びちゃびちゃで、歩きにくいし、嫌だった。

 ただ、まぁ、不快なだけ。剣の記憶のおかげで身体の動かし方にも慣れてきていた私は、滑らないように歩くこともできるようになっていたから。敵を斬るのも、歩くのも、重心を理解するのが大切なのだ。

 今までの私は、どこにどうやって立っているのか、分かってなかったと思う。でも、分かっていないと、すぐ動けないし、分かっていれば、少ない力で戦える。


 そして、それは相手だって同じだ。

 地面に転がる魔物の残骸をまたぎながら、新たに襲いかかる魔物を殺しながら、どんどん私は進む。

 魔物には人型とそうでないものとがいたけれど、結局はどちらもそう変わらない。同じように肉の塊で、襲いかかったり、逃げたりする。つまり、それに合わせて動けばいい。

 前へ前へと進むごとに、地面は魔物の血肉で染まっていった。鎧武者とJTRはまだ来ない。

 私はあの二人に負けないくらい、死体の山を築いて進む。


次話『第十球 鏡(仮)』

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