第七球 我が儘
(https://kakuyomu.jp/works/16817139555831295773/episodes/16817139556118457763)
パラパラと、ガラスの破片や砂埃が舞い落ちる。大聖堂は今や伽藍洞どころか、廃墟のような有り様だった。
瓦礫の影から、フラフラと立ち上がった大きな影。それは低くうなると、崩れるように倒れ込んだ。影はそのまま煙のようにたち消えて、中から金髪の女性、クラウスもといガルムが現れる。着ているメイド服はボロボロで、彼女自身も血と泥にまみれていた。
大聖堂の天井はもはや、ほとんど崩れ落ち、そこから覗くは漆黒の夜空。
「くっ……やっぱり四天王最強は伊達じゃねぇ。でも、」
彼女は喘ぐように闇を見上げて立ち上がった。
「でも、これでもうおしまいだ」
杖の回転弾倉がうなり声をあげて、瓦礫の山を一掃した。辺りには砂埃が舞い上がり、大聖堂は完全に崩れ去った。
「やっぱり甘いですね、所詮はワンコといったところでしょうか……」
男の静かな一言とともに、一筋の銃弾が女性に向かってまっすぐ伸びる。
「……っ!!!」
満身創痍だった彼女は避けきれず、そのまま後ろに吹っ飛んだ。しかし、急所は外したようで、間髪入れず身体を起こす。
「ふんっ。これぐらいで俺を殺せるとでも?」
「ふふ……。私が貴女への対策を何もしていないとでも?」
四天王最強の男、安倍晴明は砂埃の奥から姿を現すと、綿毛でも飛ばすように手のひらの上をふぅーっと吹いた。
「言ったでしょう?ここは『ガワだけ取り繕った伽藍洞』。『私たちと同じ』だと……」
すると、突然、女性を中心に
「てめぇぇぇ……!こざかしい罠を仕掛けやがって!……くっ……そ……がぁ…」
叫ぶもすぐに声は掻き消され、狼になろうにも風に抑え込まれる。風が吹きやむ頃には、ただ小さな丸い塊が残っていた。
晴明はそれと彼女の杖を拾うと、満足げに微笑んだ。
「さて、魔王様に良いお土産ができましたね」
――私はまた、夢を見ていた。
鏡の国に来てから、私は寝てばかりだ。もしかすると、夢の国に来ていたのかもしれない。
あれはいつかの帰り道。
……たぶん、何かスポーツの試合を観に行ったときだと思う。私は慣れない人混みとスタジオの熱気に気おされて、終わった頃にはぐったり疲れていた。
その日、両親は用事があって行けなくて、私たちは兄妹ふたりで行った。だから、電車とバスで帰らなきゃいけないのに、疲れた私は「もう歩けない」とダダをこねたのだ。
お兄ちゃんは少し困った顔をして、もう小さくはない私のことをおんぶしてくれた。別に力持ちじゃなかったのに、私のワガママを聞いてくれた。
――そんな懐かしい夢を見ていた。
「……っ、よっこいしょ」
突然、冷たい床に下ろされた。
(https://kakuyomu.jp/works/16817139555831295773/episodes/16817139556425600084)
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