第17話 代償
数分休んでから、ダメージが抜けたころ。
俺はスマホを取り出し、楓に連絡を取る。
『楓か?』
『はい、楓です』
『悪い。こっちはミスった』
俺の言葉に、
『今、どこにいるんですか? ご無事ですか!?』
と、楓は少々取り乱した様子で問いかけた。
『ああ、無事だ。相手に逃げられた、それだけだ』
『ご無事なら、何よりです』
俺の言葉に、楓はホッと息を吐いた後に、そう答えた。
『それで、そっちの様子はどうだ?』
『私と葛城が話を聞こうとしたのですが、どうにも警戒をされているようで、素直に話してもらえていません。……中学生を暴力で脅す訳にもいきませんし』
どうやら聴き取りは難航しているらしい。
当然だ、葛城と楓は、正義の味方って風貌ではない。
あの中坊は、サプリを譲ってもらっていたと言っていた。
大したことをしてはいないはずなのに、怪しげな人間がいろいろと聞こうとしたら、答えにくいに決まっている。
『そこに歌音はいるか?』
『いるのですが、今ちょうど中学生と話をして……あれ?』
楓が困惑したような声を出した。
『どうした?』
『……歌音さんには、警戒せず話をしてくれたようです』
楓は少々納得のいっていない様子でそう言った。
しかし、それも当然だ。
男子中学生は、綺麗な年上のお姉さんが好きなのだから。
例え地雷系女子だとしても、歌音レベルのルックスなら、少しでも自分に興味を持ってもらおうとべらべら喋るだろう。
『よし、それなら合流しよう。一度、事務所に……いや。一旦ウチに戻るぞ』
『承知しました。……お迎えは必要ですか?』
『いや、問題ない。ウチに戻るまでに何かあったら、また連絡してくれ』
俺はそう言ってから、通話を切った。
立ち上がり、部屋を出る。
一度情報を整理して、仕切り直しをするために。
☆
マンションの一室に戻ると、既に楓たちは戻っていた。
リビングのソファに座る葛城と歌音、二人に茶を出す楓。
三人は、俺が帰ってきたことに気が付き、
「お帰りなさい」
「お疲れ様です、若」
「お疲れ様です」
と、それぞれが言った。
「おう、待たせて悪いな。それと、フード野郎は取り逃がした。こっちも、悪かったな」
「若が追い付かないなら、誰も捕まえることはできませんよ」
葛城が冷静にフォローをしてくれる。
俺は無言で彼を見て首肯してから、
「そんで、そっちで中坊から話は聞けたんだよな。情報を共有してくれ」
俺は机の上に置かれた、パケに入った薬物を見てから、歌音に問いかける。
彼女は少しだけ疲れたような表情を浮かべてから、
「
歌音は訥々と語る。
うむ、と俺はゆっくりと頷いてから、
「お前は何を言っているんだ?」
と、全力の笑顔を浮かべて答えた。
「これが、私の払った代償です」
そう言った歌音は、スマホのメッセージ画面を見せてきた。
……相手からの長文メッセージがそこにはずらりと並んでいた。
「木田くんから、連絡先を教えてくれたら、あの薬の話……に限らず、何でも教えてくれるって話だったので。ブロックしたいけど、今後も情報を提供してもらうことがあるかもしれないからって、二人には言われて。だから、無視するわけにもいかず……」
そう言ってから、歌音はスマホを葛城に預けた。
葛城は無表情のまま『へー、そうなんだ。すごいね♡』と打ち込み、返信をしていた。
誰一人として幸せになっていない、地獄のようなやり取りだった。
「……それで、肝心の薬のことは聞けたんだよな?」
歌音はゆっくりと頷いた。
そして葛城がメッセージを随分と最初の方にスクロールさせてから、とある画像を開いた。
「『受験生や資格試験の勉強中のあなたにおススメ!! 眠気覚まし、記憶力のアップに効果があります。※効果には個人差があります』……普通のサプリの広告っぽいが、確かにこれなら警戒はあんまりされなさそうだな」
一枚の広告の画像だ。
このサプリを使ったら志望校に合格して彼女も出来た、という内容の漫画も載っていて、これまた警戒心を薄れさせているように思える。
「こんな広告画像を作っても、どこかでバレるに決まってるのに……その半グレ集団は馬鹿の集まりなんですか?」
呆れたように、歌音が言う。
葛城は無表情のままだったが、楓は少し苦笑をしていた。
「バレても問題ないんだろうよ」
「え、なんでですか?」
「理由はいくつかあるかもしれないが、売人が捕まっても、トカゲのしっぽ切りが出来るようにしてるんだろうな」
「嫌な感じですね……」
「そうだな」
俺は頷いてから、続けて言う。
「とにかく、これは櫻木會に対する明確な挑発行為だ。ウチのシマを荒らすような行為を看過できない。……組のモンにも、この情報は流しておく。どのくらい被害が出てるかを調べるのは、カシラに任せよう」
「私たちは、何をすればよろしいでしょうか」
「この薬を売りさばいてる大元。それがどこのどいつか調べて……カチコミだ」
「かしこまりました」
と楓は良い、葛城も無言で頷いた。
しかし、
「え、櫻木會と私たちの役割、逆じゃないですか?」
と歌音が戸惑った様子を見せた。
「相手がヤクザならそうした方が良いかもな。……ただ、
「じゃあ、相手はやりたい放題できるってことですか?」
「本気になったら、櫻木會は犠牲なんて考えずに相手を潰すけどよ……。そうなる前に、
歌音は「何か複雑な感じですね……」と呟いていた。
「いや、実際問題、複雑なことなんか一個もない。奴らを潰す理由は単純明快だ」
俺の言葉に、歌音は「へ?」と呆けたような声を出してから、こちらを見た。
「あいつらはウチのシマで好き放題し、俺をコケにした。だからもう二度とそんなことが出来ないように、返しは徹底的にする。……それだけだ」
俺の言葉に歌音は、
「どうでも良いですけど。今の仁先輩、めちゃくちゃ悪人面ですよ……?」
と、割と本気で引き気味でそう言った。
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