第16話 失態
フード野郎の後を追い、隣の建物に飛び移る。
階段をショートカットし、どんどん上に登っていく。
前を行くフード野郎の背中から、不安は感じられない。
ちらりちらりと俺を見ながら、口元に笑みを湛える。
パルクールを使った追いかけっこが楽しい……というのも、あるかもしれないが何よりも余裕が感じられる。
もしかしたら、どこかに誘い込もうとしているのかもしれないな。
屋上から飛び降り、別の建物の中に飛び込む。
さらに、次の建物に飛び込んだ時に――視界の端で、人影を捉えた。
着地のタイミングで前転をし、衝撃を分散させる。
その後立ち上がり、周囲の状況を確認しようとした瞬間に――鳩尾あたりに衝撃が走る。
「っぐ……」
痛みに喘いでから、バックステップをしつつ、視線を動かし周囲の状況を改めて確認する。
こちらをにやけた面で眺めているフード野郎と……今まさに俺をぶん殴った、目出し帽を被った男。
空きテナントの一室で、俺は今二人の不審者と対峙をしていた。
「ファブルかよ」
俺の軽口に、目出し帽を被った男は、悠然と構えた。
右足を前に出した、サウスポースタイル。
身長は180㌢と少し、体重は70キロ半ばから後半程度。
構えから、ボクシングを相当やりこんでいるのが分かる。
こいつは――強い。
相対した俺は、構える。
油断はしていないつもりだった。
――だが、目出し帽の男のコンビネーションを見た途端。
思考が、一瞬停止した。
その一瞬の隙を逃すような甘い相手ではなかった。
俺は思い切り、顎に一撃を喰らう。
的確な一撃は、俺の脳を揺らし……世界が揺れた。
しまった、下手を打ってしまった……!
俺は片膝を突き、目出し帽の男を見あげて睨みつける。
ダメージから回復するまでに、追撃を取られてしまえば、ゴングのないストリートでは命取りになってしまう。
……しかし、追撃は来なかった。
フード野郎と目出し帽は互いに目配せをしてから、警戒態勢を解いた。
それから、ゆっくりと歩き始め、部屋を出ようとした。
「待ちやがれ」
二人の背中に向かってそう言っても、二人は当然、立ち止まる様子はない。
俺は立ち上がるが、まだフラフラとしたままで、走って追いかけることは難しい。
目出し帽は振り返ることもなく、フード野郎は口元に挑発的な笑みを湛えてから、俺に向かって中指を立ててから。
二人は、部屋から立ち去っていった。
……完全なる失態だった。
あの二人を、おめおめと逃がしてしまった。
「この返しは、必ずさせてもらう――」
俺はそう呟いてから、床に仰向けに倒れこむ。
天井を眺めながら、葛城たちがあの男子中学生から有益な情報を得ていることを祈りつつ。
しばし、体力の回復に努めるのだった。
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