第19話 Hatred  〜Unique Ability〜

 宴会はまだまだ続いていた。


 俺は酔いで少しボーッとしてきたので夜風に当たりに外に出た。そして夜空に浮かぶ月を眺めてた。


 やっぱりここは異世界なんだな。

 二つの月を眺めながら、あらためてそう思った。


 しばらくするとタイラーさんが出てきた。

「何してんだ? コウ」


「ちょっと酔い醒ましに夜風に当たってました」


「そうか。 ……なあコウ」


「なんですか?」

 タイラーさんが珍しく真剣な顔で俺に声をかけてきた。


「お前、もしかして固有能力者か?」


「えっ、なんですかそれ?」

 いったいなんのことだ?

 あっ、もしかして勇者召喚で授かるはずのスキルとかかな?


「ヘイトって知ってるか?」


「ヘイト? いえ、知りません」


「こいつはな、敵の目を自分に向けさせる能力だ」


「へえ、それは魔法かなにかですか?」


「わからん。魔法かもしれないし、そうでないかもしれない。だが、俺は昔その能力を持ったやつを知ってる。俺の親父だ」


「そうなんですね。でもなんでそんな話を俺に?」


「それはお前にもその能力があるんじゃないかと思ってな。今日の戦いのとき、お前が叫ぶとオークたちが一斉にお前に向いただろ?」


「そういえばそうですね。でもあれは俺が一番弱そうに見えたからなんじゃないですか?」


「いや違う。お前には見えていなかったかもしれんが、お前があとから来た三頭のオークに向かっていたとき、俺やザカリーと戦っていた奴らもお前をずっと見ていたんだ。みんなお前を狙っていた。俺らとやりあってるにもかかわらずに、だ」


「えっ」

 俺は背筋がぞくりとした。

 そういえば今までの討伐任務でも、何度か俺ばかり見てる敵がいたのを思い出したからだ。


「最後にお前に追いつけたのは他のオーク共がどいつもこいつもお前に夢中で隙だらけだったからだ」


「……」


「おそらくだが、お前にはヘイトという敵の目を引き付ける能力がある」


「……」

 俺はなんとなく悟った。タイラーさんが真剣に話す意味を。

 俺が一人でいるのを見計らって話す意味を。


「俺の親父はな、パーティー仲間に囮にされたんだ」


「えっ!」


「ある任務で偶然にも、敵わない魔物に遭遇したらしい」


「……」


「ドラゴンだ」


「えっドラゴン? そんなのほんとにいるんですか?」


「ああ、いる。親父たちはクリムトへの商業馬車の護衛中にサラマンダーに遭遇したんだ。地竜の中でも災害クラスに指定されている大型ドラゴン種だ。俺も見たことはないが二十フィート(六m)の化け物で口から火を吐くらしい。

とても勝てないと悟ったパーティー仲間は、親父を馬車から突き落として囮にしたんだ」


「そ、そんな……、そんなことって……、仲間なんでしょう?」


「そうだ仲間だ。やつらは仲間を裏切った。それで親父以外のみんなが助かった。遠目に最後まで諦めずに戦っている親父が喰われるのを見たと言っていた。

罪の意識に耐えかねた一人が俺達家族に告白したんだ。みんなで決めたことだとな。まあ、俺が全員に復讐してやったがな」


 タイラーさんのお父さんの壮絶な死に方に、俺は言葉も出なかった。


「いいかコウ。このことは他の誰にも言うな。ハルノにもだ」


「なんでですか? まさかハルノさんが俺を裏切るとでも?」


「違うそうじゃない。そんなことは俺も考えていない。だがな、こんな能力は知らないほうがいいんだ。もしハルノが知ったら、多分お前をかばうかもしれないだろう? お前はそれでいいのか?」


「……いや、だめです。そんなのしてほしくない」


「なら黙っておけ。いいか? 誰にも知られるな。悟られるな。もし仲間以外の誰かにでも知られたら、悪用されるに決まってる。

俺たち冒険者は常に死と隣合わせだからな。

誰が何を考えてるかなんて、その時にならなきゃわからん。裏切られてからじゃもう遅いんだ。

だがな、俺はお前を絶対に裏切らない。俺は親父を裏切った奴らのようには死んでもならない。だからお前はひとりじゃない。これは俺とお前の秘密だ。お前の能力のことは誰にも言わない。俺も墓場まで持っていく。いいな?」


「……は、はい」


「お前にやったトマホークな。あれ、実は死んだ親父の形見なんだ」


「えっ、うそ? な、なんでそんな大事なものをおれに?」


「さあな、なんでかな。俺はあのとき、お前がひどく弱そうに見えたんだ。なんだか運のないやつに見えた。俺の親父のようにな。だから死んだ親父にこいつを守ってやってほしいと思った。まあ俺は強いからな。だから代わりに弟子のお前を俺よりも先に死なせないためにだな」


「グスッ し、師匠……」


「そんな顔するな。大丈夫だ。お前なら、何があってもうまくやっていけるさ。さあ、話は終わりだ! コウ、約束は守れよ。

よし! じゃあもう少し飲むか!」


「は、はいぃ」


 俺はグズグズと泣きながらみんなのところに戻った。みんなびっくりしてた。師匠がこいつは泣き上戸だとごまかしてた。



 だけど、ヘイトか。勇者らしくないスキルだな。ろくに魔法も使えないし、やっぱり俺は勇者なんかじゃなかったんだ。

 それに怖いスキルだな。使い方を間違えたら、俺は確実に死ぬだろうな。

 でも、タイラー師匠が大丈夫だと笑ってくれた。

だからなんとかやっていけるはずだ。


 親父がいたら、こんな感じなのかな。


 俺は隣で大笑いしながら酒を飲む師を見て、ふとそう思った。

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