第18話 共同任務
晴れてDランク冒険者となった俺たちはフォレストウルフやオークなど、Dランクの単体の魔物や魔族の討伐依頼を受けていった。Eランクの時からすると格段に収入が良くなった。
だけど、単体の依頼はそんなにない。週に一度あるかないかだった。
また、逆に群れの討伐依頼の数が増えてきた気がする。それも魔族であるオークだ。どうやら北からやってきてるらしい。
このままだと単体の討伐依頼を受けている時に、群れに遭遇する可能性も考えないといけなくなる。
どうすれば?
そんなとき、タイラーさんたちブラックストライカーから、共同でオークの群れの討伐依頼を受けないかと誘いがあり、二つ返事でオーケーした。
今まで師匠達の戦いを見たことがないから、これを機に勉強させてもらおうと思ったからだ。
それに俺たちの戦い方を見て、この先どうしたらいいかを教えてほしかったのもある。
依頼を受けて二パーティで森を歩きながらタイラーさんが声をかけてきた。
「お前たち二人は、今まで群れのオークを倒したことがないんだったな」
「はい。初めての依頼だけ二体でしたが、その後は単体だけの依頼を受けてきました」
「じゃあこれがいい機会だな。二人パーティーでも連携すれば五体ぐらいの群れまでなら対処できるはずだ。今回はそれを教えてやろう」
「ありがとうございます。いつもお世話になってしまって」
「気にするな。もっと強くなって有名にでもなってくれればいい。……そういやパーティー名はどうなった? 決まったのか?」
「「あっ! 忘れてた!」」
俺とハルノさんは顔を見合わせた。
すっかり忘れてた。
「ハッハッハ。しょうがないな。じゃあ俺が考えてやろう!」
それを聞いてハルノさんがアワアワしだした。そういやタイラーさんたちのパーティー名がダサいとか言ってたな。ハルノさんは。
「いやいやいや! そんなのいいですよ! そんなことまでお手間を取らせるわけにはいきませんて!あたしたちで考えますから! いやほんとに!」
「別に手間でもないぞ? それに俺はなかなかネーミングセンスがあるからな。任せるといい」
「えっ、センスいいって? じゃあもしかして師匠達のパーティー名って他の誰かがつけたんですか?」
「もちろん俺だ! かっこいい名前だろ!」
「あーうーん、どーだろー? なんてー」
ハルノさんはごまかすの下手だな。でもそれ以上に俺の師匠は鈍感だった。
「まあ遠慮するな! そうだな、二人組だから、ファイティングパートナーズとかかな?」
「ひぃぃぃぃぃ!」
ハルノさんは鳥肌立たせて拒否反応が出てた。
なのに断れないなんて、この人以外に押しに弱いな。しかたない。
「師匠、ありがとうございます。でも、パーティー名は自分たちでつけたいです。だからすみません」
「そうか? そうだな。 やはり自分でつけるのがいいな。 じゃあ頑張って考えてみるといい」
「はい、ブラックストライカーみたいな超かっこいいのを考えてみますね」
「おお! この名前の良さがわかるか? そうか! なら安心だ。頑張っていい名前にしろよ?」
ハルノさんがそれを聞いて胸を撫で下ろしたかと思うと、またソワソワしだした。
「コウ、名前はあたしがつけるからね? ね? ね?」
◇
北の森に入り、半日ほど歩くと目撃情報のあった現場についた。
そして探索すること小一時間、いた!
俺たちは中腰になって、藪の中からオークの群れを覗いていた。
単体でもでかいのに集まるとめちゃめちゃ怖い。
あんなの倒せるのか? 誰かが無事じゃすまなそうだぞ?
「報告通り、五体いるな。よし、アナとハルノは魔法で先制だ。真ん中を狙え。群れをバラすんだ。詠唱の間に俺とコナーとコウで三方から一体ずつ担当するぞ。ザカリーは今回は魔法組の護衛を頼む」
リーダーであるタイラーさんの指示で、発見後は素早い指示で各自動き出す。
状況判断が早いんだ。それと迷いがない。それにみんなもリーダーの指示に対する理解が早いのは長年で培った信頼と連携の賜物なんだろうな、と思った。勉強になる。
バトルアックスのタイラーさんが中央、槍使いのコナーさんが左側を、俺が右側だ。
三方に別れながら五十メートルの距離を詰めていく。まだ気づかれていない。オークたちは食べ残した魔物の周りを囲むように座り込んでいる。寝そべっている者も一体いる。
半分の距離まで来たとき、ビュンビュンとウォーターバレットが何十個も通り過ぎていった。まるで車のレースのようにものすごいスピードだ。
魔法組が放ったすごい数の水弾は、群れの中央をドドドと襲って五体全部にぶつかっていった。特に中央にいたオーク二体は顔中が血だらけになるほどでバタバタと後ろに倒れた。
タイラーさんが藪から飛び出して走り出す。
コナーさんもほぼ同時だ。俺だけ出遅れてしまった。急いで右手のオーク一体に向かう。
タイラーさんが接敵する。
「おらあ!」
ブンと大きく振り上げた大斧が一体を左肩から切り潰して、あっという間に牛のような巨体が真っ二つになった。
すごい!
「はっ!」
コナーさんはめいっぱい後ろに引いていた槍を接近しながら残り二メートルあたりでまっすぐに突き出して、別の一体の胸に突き刺す。なんとそれはオークの胸を貫通して背中から穂先が飛び出した。あの太い体を串刺しにしたんだ。
「ふん!」
一気に引き抜くと勢いよく血が吹き出した。正確に心臓を一突きしたんだ。
すごい!
俺も負けてられない。左のオークに向かって中段の構えのまま、突きを放った。
刀の切っ先は座り込んでいたオークの左目に刺さった。
「ブフォ…」
脳まで到達したらしく、すぐに動かなくなった。
俺のはなんか地味だな。まあ当たりどころが良くて一撃で倒せたのは運が良かったな。
すぐに他のオークを見る。あとは倒れた二体だ。 ちょうど起き上がってきたところだった。
と思ったらまた水弾がドドドと二体の体に当たった! アナさんとハルノさんだ。
身体中が血だらけになったオークたちは放心状態だ。すかさずタイラーさんとコナーさんが一体ずつ仕留めた。
「まだだぞ? 確実に仕留めたかを確認するんだ」
前衛三人で五体のオークの絶命を確認して作戦完了だ。
「よし、終わったな。みんなよくやった」
タイラーさんが仲間を労う。
「ハルノはもう十分な魔法が放てるな。コウもよくついてきたぞ」
「はい!」
「ありがとうございます!」
五体のオークの討伐証明である右耳を取って討伐完了だ。
「よし、次だ。行こう」
そう、今日の討伐依頼は二件だ。
次はこのまま奥に行ったところにある村の付近だ。そこには七体のオークの巣が見つかったらしい。
◇
村に挨拶をしてからさらに進んでオークの巣に着いた。
森の切れ間にある、岩場に囲まれた広場みたいな場所だ。
岩場からちらりと覗くと、骨やら武器やらが乱雑に転がった中で四体のオークがいた。他は留守のようだ。
コナーさんがリーダーに尋ねる。
「どうする? 七体揃うまで待つか?」
「いや、先に四体をやろう。その後は入口付近で残りが帰るのを待ち伏せだな」
巣の入り口は二箇所だ。挟み撃ちにするため、タイラーさんと盾持ちのザカリーさんが向こう側に回って、残り四人でこちら側の入り口から攻めることになった。開始はやはり魔法からだ。
巣の入り口の岩場に隠れて二人が詠唱を開始。
しかし、その間に残りの三体のうち二体が帰ってきてしまった!
やつらはタイラーさん側の入り口で騒ぎ出した。
「ブフォア!」
「ブヒィ!」
あとから来たその二体がタイラーさんたちを後ろから襲いかかる。
「やばい 見つかったぞ」
コナーさんの言うとおり、巣にいた四体が騒ぎを聞いてタイラーさんたちに向かっていった。
後ろから来た二体をまとめてザカリーさんの大盾で食い止め、巣にいた四体にはタイラーさんが待ち構えてる。そして遠目にこちらを見た。いや、コナーさんとアイコンタクトしてるようだ。
「応戦するぞ。アナとハルノは後ろに続け。まだ他にいるかもしれんから離れるなよ。コウ、行くぞ」
「はい!」
コナーさんと俺が前衛で、あとから後衛のアナさんとハルノさんがついてくる。
「準備できた! どいて!」
アナさんの掛け声でコナーさんが左に避けるのを見て俺も右に避けた。
すると
「ブフォア!」
四体のうち二体の背後に当たり、オークたちが一瞬パニックになった。
同時にタイラーさんと先行したコナーさんが前後挟み撃ちにした。これで四体のオークがうまく二体ずつに別れた。
うまい。
俺はコナーさんに向かってきた二体のうちの一体を受け持とうと声を上げて誘った。
「うおおおお!」
すると、一体どころか二体とも、しかもなんとタイラーさんと対峙していたもう二体のオークまでもがわざわざ俺の方を向いた。
えっ、なんで?
四体のオークが俺の方に向かおうとした隙を逃さずに、タイラーさんとコナーさんが一体ずつに切りかかった。
こっちは残り二体だ。うまく凌げばなんとかなるか?
と思ったら、まだ見なかった新たな一体が、俺たちが入ってきた入り口からやってきた。やばい! 七体全部来ちゃったぞ!
と思ったら、最後の一体だったはずのオークの後ろから、さらに二体が入ってきた!
「な、七体だけじゃない! 二体増えたぞ!」
みんなに知らせようとすかさず叫んだ。すると、
なんとあとから来た三体が俺の方を見てニヤニヤと笑いながら向かってきた!
えっ、なんで?
でも、魔法組に行かなかったのは幸いか?
俺は一番近いオーク、二体のうち、元々コナーさんが対峙していた一体に向かって刀を振り上げた。
「やあ!」
片手剣と円盾を持ったオークだ。俺の剣は円盾で難なく防がれた。くそ!
相手の盾に視界が塞がれたので後ろにさがり、再度中段に刀を構えた。
「ブフォッブフォッ」
円盾を構えていて剣が入らない。まるで時間を稼いで後ろから来る三体の援護を待っているようだ。くそ!
攻めあぐねているとついに後ろの三体が追いついてきた!
あっ、いけない!
振り向くと、三体のうち先頭のオークは俺から方向を変えてハルノさんに向かって行ってしまった。
「だめだ!」
俺はとっさに腰に下げていたトマホークを思い切りぶん投げた。
ドガッ!
「ブァヒィィ!!」
「コウ!」
ハルノさんが叫ぶがこれでいい。
「かかってこい!」
叫ぶと三体がこちらに向いた。どうする?
ハルノさんに向いていたやつは少し遅い。
残る二体も前後にずれて時間差ができた。
こいつだ!
「はっ」
俺は小さく気合を入れて動く。
一体目は両手に片手剣を一本ずつ持った欲張りなやつだ。左右から振りあげてきたお陰で中央がガラ空きだった。
中段からまっすぐ正中に刀を振ると、当然こちらの刀のほうが早く到達した。
ズバンと額に当たり、顔が割れた。剣先だけに当たってる感触を感じた。死んだかはわからないが動きは止まった。次だ。
一体目のすぐ後ろから二体目が来る。
一体目の前にかがんで死角を作り、顔から刀を引き抜くと、
「ギャビィ!」
と一体目が鳴いた。まだ生きてたか。
かまわずに一体目の脇から二体目の胸をめがけて突きを放つ。
ザクッ
と突き刺さるが右肺当たりで致命傷じゃない。
「くっ!」
おまけに刀が抜けなくなった。ヤバい!
トマホークが肩に刺さったままの三体目が来た!
目の前の二体目も棍棒を振り上げてきた。
俺の背後にいる顔が割れたやつも両手の剣を振りかぶった!
やられる!
ズバン!
ズガッ!
ふわりと俺の後ろからなにかが現れ、二体のオークが動きを止めた。
見ると、斧に頭を割られ、槍に心臓を貫かれていた。
「タ、タイラーさん、コナーさん」
「よくやったコウ。あとはまかせろ」
後ろを見るとすでに戦闘が終わってたようだ。
「た、助かった……」
あっという間に残りのオークが倒されて、討伐が完了した。
「大丈夫か? コウ」
後ろからザカリーさんが声をかけてくれた。
「はい。大丈夫です。ちょっとやばかったですが」
「まったく無茶しやがって」
タイラーさんにコツンと頭を小突かれた。でも痛くなかった。
「ご、ごめんなさい」
「いや、でもお前のおかげでみんなが無事だった。よくやったぞ」
「は、はい!」
討伐証明部位を取り、村へ戻る。もうあたりが暗くなってきたから今晩は村に泊めてもらうつもりだ。
村ではオーク討伐の報を聞いてみんな喜んでいた。そして俺たちにお酒やごちそうが振る舞われた。俺とハルノさんもたくさん食べて、お酒は少しだけいただいた。やっぱりお酒の味は、まだよくわからなかった。
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