第3話 とあるアイドルの独白
いよいよclaraの全国ドームツアーの最後のステージだ。締めくくりは東京。
東京にあるドームは五万人が入る。チケットは販売開始から即完売だった。
「さあ、ここが最後だよ。みんな頑張ろうね!」
楽屋でナッチが鼻息荒くして声をかけてきた。
「そ、そうだね。頑張ろうね」
私は『ボロ』が出ないように注意して返す。
「もう、ハルノん、ここでは猫かぶんなくていいんだからね? 三人だけだし」
ナッチの言葉を聞いて意識してた顔の表情を緩める。
「そ、そう? でもあたしうまく切り替えできないんだよなあ。素がバレるとまずいしなあ。喋ると絶対にボロ出ちゃうから」
「うふふ、大丈夫ですよ。私達がうまくフォローしますからね。ハルノちゃんは何も喋らなくていいですよー」
「ありがとねエリ」
「あー! 私にはないの? お礼!」
「はいはいわかったわかった。おおきにやで、ナッチ」
「もう! 気持ちこもってないじゃん!」
三人で笑い合いながら緊張をほぐす。
そう、あたしはアイドルになるためにキャラ作りしてる。
あたしの夢はシンガーソングライターだ。
高校一年のとき、駅前でギターの弾き語りを始めた。
最初は有名な曲のカバーだったけど、少しずつ自分で作った曲も披露していった。
でも、カバー曲はそれなりに聞いてくれる人はいたけど、自作曲は誰も見向きもされなかった。
一年くらい続けてたとき、スカウトの人が芸能人にならないかと声をかけてきた。
来た!
と思ったらアイドルの勧誘だった。
自作曲を歌いたいと言ったら、
「いい曲ができたら考えてみよう」
と面接で社長が言ってくれたので受けることにした。
まずはアイドルでみんなの注目を浴びて、少しずつ曲を作ったり、聞かせていけばシンガーに転向することもできるかもしれない。
そう思った。
歌やダンスのレッスンを受けてるけど、これはシンガーとしてのいい勉強にもなると思った。
シンガーもアイドルと同じで誰かに聞いてもらい、見てもらうものだからね。
ひとつ問題があった。どうやらあたしの性格はアイドル向きじゃないらしい。
可愛さが重要なアイドルにとって『はすっぱ』なあたしの性格だと売れないし、好かれないと言われた。
だから清楚で可憐な女の子をイメージしておとなしいキャラを作った。
『あたし』は『わたし』に、語尾には『〜だね♡』とか『〜だよ♡』とかをつけるようにしたり(ちょっとキモいと思う)、あたしなりに可愛い女の子を演じてるけど、長く話すと気づかれてしまう。
だからトークはなるべく二人に任せて歌とダンスで魅せようと努力してきた。
一年経って、あたし達はそこそこ有名になった。
ファンクラブも二十万人になってすごい勢いで人気が出てきた。正直ビックリしてる。
駅前で歌ってた時は、一晩で一人か二人が聞いてくれたらいいくらいだったのに、三人組とはいえあたしがセンターなのに、何が違うんだろうと悩んだこともあった。
もちろんボイトレやダンスレッスン、体力作りとか、プロの方たちの指導の下で特訓したのもあるだろう。でもこんなに短期間で人気が出るなんて。
社長が言うには
「熱意だけじゃない。そんなのアイドルを目指す誰でも持ってる。一番大切なのはお客様が何を望むかだ。そして君たちにはたくさんのお客様を楽しませるものを持ってる。美貌、ルックス、歌声、笑い、あとはそれらが身近な距離にあるということだ」
ざっくり言うと憧れの子がいつでも見たい時に見れることが大事らしい。タイミングが重要だそうだ。
芸能事務所は必要なタイミングでコネやお金をかけて
そうしてやってきたドームツアー。
アイドルの仕事は正直言って嫌いじゃない。
自分の作った曲じゃないけど歌は聞いてもらえるし、プロの人たちが作った曲はすごく勉強になるし、歌いたくなる。
大丈夫、あたしは間違ってない。これでいつかは夢を実現していくんだ。
そう思って頑張ってきた。
でも、そんなあたしの夢が遠のくような、そんな出来事が起こった。
ライブは大成功だったけど、アンコールでの最後の曲で、あたしの体に異変が起きたんだ。
歌いながらアリーナのみんなに挨拶がてら顔を見せに廻ったところで、あたしの足元になんか丸い円が白く光りながら現れた。
なにこれ? こんな演出あった?
あたしは歌いながら横にいるナッチとエリに目配せしたけど、二人とも知らないようだった。
そうこうしてるうちに足が少し浮いて地面に付かなくなった。そして惰性でそのままステージから滑るように飛び出てしまった。
ヤバい! ステージから落ちる!
光が更に強くなって目が開けてられなくなったから思わずギュッと目をつぶる。
落ちると思ったけどふわりとした感覚があってつま先が地につく感触があった。けど何も見えないのでそのままぺたりと座り込んでしまった。
しばらくして目を開けると、目の前には知らない男の子がいた。
だれ?
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