第2話 戸惑う二人
「あれ? なんだここ?」
俺はあたりを見回した。草原? その先もずっと続いてる。後ろを振り向くと月明かりで森が遠くに見えた。草原には腰の高さぐらいの岩がいくつかあるだけであまり目立ったものは見当たらない。俺のすぐ目の前にいる『アイドル』 ハルノちゃんもキョロキョロしだした。月夜の明かりでも天使の輪のように光る黒髪が、あちらこちらに顔を向けるたびにさらさらと流れる。その仕草がめちゃめちゃかわいくてきれいだ。
やっぱりCMや歌番組によく出てる有名アイドルだ。
でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
ここにいるのは俺とハルノちゃんの二人しかいなかった。俺のすぐそばにいた
なんでだ? どうしてこうなった?
「あの、どこですか? ここ」
ハルノちゃんが俺に聞いてきた。まっすぐに俺の顔を見てる。俺は思わず目を少しそらしてしまった。
めちゃめちゃきれいな声だ。透き通るような、それでいてビブラートがかかったような不思議な声だ。
その声だけでハルノちゃんだとわかるユニークな声質をしてる。
アイドルが自分に話しかけてくれるなんて、まるで夢のようだ。
でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
俺は素直に言葉を返した。
「いえ、それが俺にも何がなんだかわからないです」
「ライブは? どうなったんだろ?」
えっ考えるのそこなの? さすがアイドルだ。
「俺もライブを見てたんですが、ハルノちゃんがピカッと光って、光が消えたらここにいました」
「どうしよう、ライブがまだ終わってないのに」
やっぱりそこなんだ。身の危険よりライブを考えるなんて職業病なのかな。
「それより、ここがどこなのか調べたほうがいいのではないかと」
「そ、そうね。調べてみましょう」
丁寧な言葉を返してくれるおしとやかなハルノちゃん。近くで見るとめっちゃくちゃ美人だ。
思わず見とれてしまう。
俺たちは二人であたりを歩いてみたが、ほんとの草原だった。映画のロケの場所なのかなとかなんとなく思ったけど違った。というか、生えてる草は見たことない植物だった。ギザギザした葉の草や、野花は丸いのや四角いのや変わった花びらをしている。色もなんかおかしいものもあった。
二人で草原を歩いて森の入口まで来た。森の奥からはキーキーとか、キュロキュロッ、とか何か動物の声が聞こえる。あと、森の奥は真っ暗でめちゃめちゃ怖い。
二人で話し合った結果、どうやらライブ会場からどこか遠くの場所に二人で飛ばされたのだろうと結論づけた。
一瞬の出来事だったのでどうやったのかはわからないが、おそらくここは東京でも、日本でもないように思えた。
一時間ほど歩いたけど手がかりはなかった。今は夜。多分深夜だ。とりあえず二人で夜を明かして、明るくなったらまたあたりを歩いてみることにした。幸い俺のリュックがあったのでペットボトルの水を二人で分けて飲んだ。まだ開けてなくてよかった。先にハルノちゃんに飲んでもらい、あとから俺が口をつけた。あっ、間接的なキスだ。でもハルノちゃんは気にしてないようだったから良しとしよう。うへへ
岩場にもたれるように二人で座り込んで休むことにした。
やっぱり怖いんだろうな。ハルノちゃんは俺のすぐ近くに腰を下ろした。肩が触れそうな距離、めちゃめちゃいい匂いがした。
あ、いかんいかん。こんな時に何考えてんだ? 俺。
「ここ、何県なんだろう。近くに人はいるのかな?」
ハルノちゃんはここが日本のどこかなんだと思ってるけど多分違う。
俺は夜空を眺めながら言葉を返した。
「あの、多分ここ、地球でもないと思うんです」
「なに? どういうこと? 何が言いたいの?」
あれ? ハルノちゃんの言動が。
何いってんの? イタいヤツなの? みたいな感じでハルノちゃんが聞いてきた。気がする。
気のせいかな?
まあいいや。
「だってあれ、空見てみてください」
ハルノちゃんは俺の言葉を聞いて 空を見上げて固まった。
「え、なに? 月が二つ? 今日なんかあったっけ?」
月食とかのこと言ってるのかな。でも、どんな現象でも月が二つ見えるのは無い。と思う。どっちも黄色っぽい白い月だけど二つはだいぶ離れて夜空に浮かんでる。それと大きさが大小と違ってる。こことの距離が違うとかなのかな。
「この花といい、どこか違う星とか、違う世界のような気がするんです」
「そんなのあるわけない。バカなの? ここは多分ハリウッドのスタジオとかなのよ」
「でも、外でどうやって月が二つ見せられるんですか? それに星の並びもなんか違います。ここ、どこか全然違う場所なんですよ」
ハルノちゃんは信じてくれなかった。まあ、明日もう少し調べたらわかるだろう。
夜の寒さを凌ぐために俺のコートをハルノちゃんに渡して寝た。ハルノちゃんは無言で受け取り、コートに身を包めて向こうを向いたままだった。
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