第12話 成果

 タイラーさんたちに稽古をつけてもらい二週間が経った。

 俺は火魔法を教わったが手に火の玉を出すことしかできなかった。なぜだかそれを遠くに飛ばせないのだ。これだと直接ぶつけるしかない。

 あと小ぶりの斧を持つようになった。これはタイラーさんが昔使ってた物らしく、小さくて今は使わなくなったからと俺に譲ってくれた。トマホークというらしい。

 この斧はナイフよりも強力でゴブリンなら頭を割れるし、投げて遠くの敵を攻撃することができる。

 魔法が飛ばせないし、腕力のない俺には丁度いいかもしれない。


 剣術は模擬戦形式で教わった。子供の頃に習ってた剣道とはちょっと違ってた。より実戦的な感じだ。突きの動作が多くなった。


 ハルノさんはウォーターバレットがさらに強力になり、そしてなんと小さい切り傷なら治せる治癒魔法を習得した。アナさんが言うにはこんなに早く治癒魔法を覚えるなんて異常だと言っていた。

 ハルノさん凄い。

 治癒魔法は毎日俺の左腕を実験台にして行い、なんと骨折が少しづつではあるが治っていった。今ではすっかり骨も繋がり、普通の生活ができるようになった。

 俺の怪我が完治したのを機にハルノさんの鼻はどんどん天狗のように伸びていった。


「おっほっほっ。次に怪我してもわたくしが直して差し上げますわよ。さあ、これからもわたくしのために馬車馬のように働くのです!」

 なんで?


 そして俺達は目標を定めた。一番はもちろん元の世界に帰ることだが、そのための目標だ。

 まずは今のところ唯一、異世界とのつながりがある勇者召喚という魔法について知ること。そのためにはアルビオン王国に行かないといけない。勇者召喚がアルビオンの王族のみが持つ魔法らしいからだ。

 アルビオン王国はここ、ロマリア王国の西の隣国だけど、電車もないこの世界ではアルビオンの王都まで行くには馬車で一ヶ月、歩きだと二ヶ月以上はかかる距離らしい。馬車は乗り合いでもめちゃくちゃ高額だから歩きになる。それに歩きでも旅の服装や道具、食料などの費用がかかる。

 俺達は旅費を稼ぐため、また、道中に何があっても自分で身を守れるように強くならないと行けない。だから俺達の一番身近な目標は少なくともCランク冒険者になるまで強くなることだ。

 今Eランクだから、パーティーでEランクモンスターの依頼を二十個こなし、さらにDランクの魔物を五体倒さないとDランクにあがれない。

 CランクになるにはDランク依頼を受け続けてギルドで十分にCランクで通用すると判断される必要がある。これがなかなか難しいらしい。一度もDランク依頼で失敗しないことが条件で、無理をして怪我をしてしまい、引退する冒険者も多いらしい。だから無理をせずに自分にできる下のランクの依頼を受けるDランク冒険者が多いようだ。


 稽古中は薬草や皿洗い、調理補助などの仕事しかしていないのでほぼその日暮らしだった。

 相変わらず仮宿舎だ。あれ以来ハルノさんは何も文句を言わなくなった。天狗にはなってるけど。



 そして今日、いよいよ魔族討伐の依頼を受けることにした。修行の成果を試す時が来たのだ。


「いよいよだな、コウ。まあ一度は戦ったことのあるゴブリンだ。数は多いが今のお前たちなら楽勝だ。頑張れよ!」


「はい! 師匠。がんばります! 今まで稽古をつけてくれた成果を見せてきます!」


「よし、その意気だ」


「ハルノ、いい? 魔法は距離感が重要よ。近接ではあなたは戦う術がないんだから、十分に安全な距離を保つのよ」


「はいアナ師匠。最初から遠距離で全滅させてみせます。コウの見せ場なんかないんだから」


「フフフッ、そうね。あなたは魔力量が凄いんだからガンガン打っちゃいなさい。でも気をつけてね。やばくなったらコウを頼るのよ」


 えーってハルノさんがぼやいてる。俺信頼されてないな。


「ではゴブリン十体の討伐任務を依頼します。二人とも頑張ってね」

 アメリアさんにも励まされ、俺達は二人で冒険に出た。



 場所は前と同じ北の林だ。ただ今回はもっと奥の街道沿いにゴブリンの群れが出たらしい。行商の馬車が襲われたが二頭立ての足の早い馬車だったのでなんとか逃げ切れたようだ。

 ラヴェンナの町についてギルドに報告が入り、領主から依頼が出たばかりだ。おそらくまだ遭遇した場所にいるだろう。

 太陽が登りきった頃に現場と思われる場所についた。


 今は街道から左に外れた茂みに隠れながらゆっくりと歩いて進んでいる。するとはるか遠くでギャッギャッと声がした。前にも聞いた声、ゴブリンだ。中腰になり、あたりを見回しながら進むと、いた。

 何かを囲んで固まってる。獲物を仕留めて取り合っているようだ。なんか食べてる。百mか百五十mぐらい距離があるのでハルノさんの魔法が届く距離までジリジリと詰める。あれから飛距離も延びてなんと五十mだ。


 よし、いよいよだ。作戦は以前と同じだ。ハルノさんの遠距離魔法の先制攻撃で数を半分以上減らして、近づいてくる間にもう二、三体を減らす。

 残ったら俺が近接戦で倒す。二体以上同時に接敵しないようこちらから近づいて一体ずつ叩く。


 ハルノさんが詠唱を開始して魔法を発動、ハルノさんの前方には圧縮された水弾が二十個ほど出来上がる。


「行け。ウォーターバレット」

 ハルノさんがつぶやくと、ビュンビュンビュンッと右から順番に勢いよく水弾が飛び出してあっという間にゴブリンに到達。


 縦に並んで飛んでいった水弾は三体のゴブリンの頭に連続でドドドドと次々と当たってふっとばした。すごいんだけど耳残ってるかな?


 ゴブリンが騒ぎ出したがまだこちらの位置に気づいていない。

 ハルノさんは続けて水弾を十個放った。すぐに到達、さらに二体のゴブリンが倒れた。

 これで残り五体だ。さすがに気づかれたか。残りのゴブリンが総出でこちらに走り出した。いや、残り五体のはずが三体しかいない。あと二体はどこだ?

 とりあえずは近づく三体を倒さないと。続けてウォーターバレットを十個作って放つ。当たった。

 距離が近いためか、運よく二体の頭に連続でぶつかり、首の骨が折れたのか、だらりと頭をぶら下げて倒れた。残り一体だ。でも他の二体の姿が見えないので俺はこちらから接敵せずに待った。ハルノさんを一人にして後ろから襲われたりしたらまずい。


 一体が十mぐらいの距離まで来たところで、やっぱりいた! 左右から一体ずつ茂みから飛び出してきた。木々で死角を作って近づいてたんだ。


「ハルノさんは前から来るやつをお願い!」


「わかった!」


 俺は一番早く到達するだろう右のゴブリンめがけて走る。棍棒を持ってる。振り上げたところを下からナイフで切り上げる。修行して前よりも動きが速くなった俺はゴブリンが振り下ろす前に棍棒を持った腕を二の腕から切り落とす。「ギャッ」と叫んでる隙にナイフを振り下ろし、袈裟斬りに左肩から右の脇腹を切りつけ、首筋を突いた。

 ボキッと音がしてナイフを抜くとゴブリンが後ろに倒れた。死んだかの確認もせずに、振り向いてすぐに左から接近しているはずのゴブリンを見る。前方のゴブリンはハルノさんに任せてるから考えない。


 ヤバい! ハルノさんを狙ってる! 俺はザッと地面を蹴って、ハルノさんを横切ってゴブリンの前に出る。なんとか間に合った。驚いて一瞬立ち止まったゴブリンの首を左手の斧で左から右へ横に切り払うとサクッとした感覚を手に感じた。ゴブリンの首は半ばまで切れ、頭をぶらぶらさせて倒れた。

残るは前方のゴブリンだが、前を見るとすでにハルノさんがウォーターバレットで倒した。


 これで十体のゴブリンに攻撃を加えた。油断せずにまだ生き残ってて攻撃してくるものがいないか一体ずつ確認して回ったが、全部絶命していた。


「やった、倒せた」


「怪我はないですか?」


「大丈夫。またあんたが守ってくれたから」


「えっ、いやっ、それほどでも」

 照れるな。


「ありがとうコウ。だけど勘違いしないでよ。あたし達はただのパーティメンバーなんだから」


「は、はい、それはもう」

 ツンデレかな。いやツンしかないな。


 一息ついて討伐証明の右耳を回収する。頭がフッ飛んだゴブリンは左耳がないのはいたが右耳は残ってた。良かった。


 死体は他の魔物が処理してくれるがなるべく街道から離れたところに移動させ、帰路についた。

 ギルドにつくとみんなが待ってて迎えてくれた。


 まずはカウンターでアメリアさんに報告だ。

「おかえりなさい。どうだった?」


「はい。無事倒せました」


「まあ!」

 アメリアさんの顔がぱあっと花が咲いたような笑顔になった。

「よくやった! それでこそ俺の弟子だ!」

 タイラー師匠が横から俺の肩に手をおいて喜んでくれる。

「よくやったわね。無事で良かったわ」

 アナさんもハルノさんを軽く抱きしめて安堵の表情を見せる。


「……う、うう、」

 みんなが心から喜んでくれた。それを見たら思わず涙がぼろぼろと出てきてしまった。


 もう、二人だけじゃない。見知らぬ俺なんかを助けてくれる人達がいるんだ。そう思うと拭っても拭っても、涙が止まらなくなってしまった。


「おいおい泣くやつがあるか! まだゴブリンだぞ」


 そうだ。まだまだだ。くそっ、思ったより大変だな、冒険者。


「まあいい、それじゃ祝い酒だ。一杯やろうぜ!」


 タイラーさんに誘われてまたごちそうになった。

 今日は俺が、て言ったけど今日が最後のおごりだ! 卒業だ!って言うんでお言葉に甘えました。

 今までありがとう。このご恩は一生忘れません。元の世界に帰っても絶対に忘れない。


 でも、ここにいる間に少しでも恩返しをしよう。

 俺は無理やりお酒を飲まされながら、心に誓った。



 次の日は初めて二日酔いになった。頭がガンガンして痛くてつらかったけど、なぜだか生きてるって感じがした。


 そう、俺たちはこれからも、こうやって自分の力で生きていくんだ。

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