第11話 善意
朝。目が覚めるとハルノさんはすでに起きていた。
「おはようございます」
「う、うん」
なんかそっけない。
「あの、どうします? 朝ごはん食べますか?」
「先に報酬を貰いに行こう。それからご飯を食べよう。それからこの世界での服を買って、残ったお金次第で次にどうするか決めたいと思うの」
ハルノさんがいきなり今日の予定を話しだした。でもその予定でいいかもだな。
「わかりました」
二人でカウンターに行き、アメリアさんに会った。この人いつもいるな。ちゃんと休んでんのかな?
「おはよう、二人とも。昨日は大変だったわね。でも討伐証明を確認したからちゃんと報酬が出てるわよ」
アメリアさんはカウンターに銀貨三枚を置いた。
高い報酬だと思っていたけど、やってみるとそうでもないなと思った。骨折ったからね。
「ありがとうございます」
「それと二人に提案なんだけど、数日はそれで過ごせるでしょ? この際魔法をしっかり覚える気ない? ボランティアで教えて貰える人を探したら、空き時間だけならいいっていってくれたパーティがいたの。どう?」
アメリアさあん。なんていい人だ。
ハルノさんと顔を見合わせ、うなずきあって、「ぜひお願いします」
と言った。
「わかったわ。彼らは今日は依頼を受けてるから夕方にまたここに来てね。紹介するわ」
「わかりました。アメリアさん、俺達のために色々とありがとうございます」
「いいのよ。昨日は私にも落ち度があったわ。ゴブリン退治はまだちょっと早かったわね。これからは私もしっかりあなた達のできる依頼を紹介するわ。まあ、これは他の冒険者には内緒ね」
アメリアさああん。好きぃ。
もう一度お礼を言って、ハルノさんと朝ごはんを食べて、アメリアさんに聞いた古着屋で服を買った。二人とも茶色っぽい長袖シャツにズボンだ。靴は今履いてるやつのほうがマシなのでそのまま履くことにした。ハルノさんはライブ衣装だったが、騎士っぽい制服みたいな感じで下はスカートにスパッツ? レギンス? みたいなかっこいい格好だったけど、着替えて普通になった。靴だけ白いブーツのままだ。でも衣装がきつかったのか、古着に着替えると少しホッとした表情になってた。良かった。
仮宿舎で少し休憩して夕方にギルドカウンターを訪ねた。あれ? あの人達は、
「あら、来たわね。早速紹介するわ。この人達はブラックストライカーというBランクパーティで、あなた達に魔法を教えてくれる人たちよ」
「よう! やっぱりお前らか! よろしくな!」
「皆さんだったんですね。ありがとうございます。お世話になります」
「あら。知り合いなの?」
「食堂で隣になったときにおかずをいただいたりしまして」
「まあ、後輩を助けるのも冒険者の仕事だからな。じゃあ早速ちょっとやるか? それから飯に行こうぜ」
「はい。よろしくお願いします」
それからギルド内の訓練場で一時間ほど最初のレクチャーを受けた。属性が違うので二人別々に教えてもらった。
俺にはリーダーのタイラーさん、最初におかずをくれた人だ。バトルアックスを持った戦士で火魔法も使える。
ハルノさんには女の人のアナさん、水と風の魔法使いだ。この町ではアナさんだけが冒険者の中では治癒魔法が使えるらしい。
ブラックストライカーは四人パーティで、あとはタンクという役割で大盾と剣を持って敵の攻撃を食い止めるザカリーさん、それと槍使いのコナーさんだ。
俺は前衛としてタイラーさんに火の魔法と、ザカリーさんに剣術を教わることになった。実は俺は小さい頃にじいちゃんから剣道を習ってた。だから武器を使うなら剣だと思った。
ハルノさんは後衛として水の攻撃魔法と、ハルノさん自身の希望で治療魔法を教わる事になった。治療魔法は時間がかかる魔法なのでこの先一人でも自分でできる鍛錬の仕方を教わるみたいだ。
今日のところは何をやるかと、自分でできる鍛錬法を教わって終わることにした。
酒場ではほとんどタイラーさんたちにおごってもらった。お腹いっぱい食べさせてもらった。涙が出そうになった。
その夜、仮宿舎でいつものように寝ようとするとハルノさんが、
「コウ」
俺を呼んだ。
「どうしましたか?」
「昨日は言えなかったけど、あのとき助けてくれて、あ、あ、ありがとう」
「えっ」
俺は耳を疑った。
本当のハルノさんはきっと気の強い人だ。
猫かぶってたアイドルのときとは違い、今ではすっかり素を見せて俺にはぞんざいな態度を取ってる。
そのハルノさんがありがとうって。言った? 空耳か?
「な、何よ。あたしだってお礼ぐらい言えるんだから。それにあたしのせいでコウが怪我したし、悪いと思って。あたしがゴブリン退治に行くって決めたから。それなのにあたしはやられそうになってて動けないのに、コウが無理して助けてくれたから怪我したり、あたしコウの足を引っぱってばっかりで……、ぐすっ」
泣いてる!
「い、いえ! そんなことないですよ! 一体はハルノさんが倒したし、それにハルノさんの言う通り、冒険者になったんだからあのときやらなかったら多分ずっとひもじいまま野垂れ死んでたと思います。だからこれで良かったんです。ブラックストライカーの皆さんにも教わることができたんだし」
「そうね。死ななくて本当に良かった。死んだら元の世界に帰れないもんね。生きていればきっと帰れるよね?」
「はい。異世界に来たってことは帰る方法もあるはずです。少しづつ強くなって帰る方法を探しましょう」
「そうね。はああ、あんたと話したらなんだか落ち着いたわ」
ハルノさんがごろんと寝転んで上を向いた。
「ふふっ。でもあの人達のパーティー名、ブラックストライカーって、ぶふっ」
「なんですか? なんで笑ってるんですか? かっこいいですよね? ブラックストライカー」
「えっうそ? それマジで言ってる?」
「えっ、マジですよ。俺達もパーティ登録して名前考えなきゃですね。どんな名前にしようかなぁ」
「ちょっちょっと、変な名前にはしないでよ」
「ちゃんと考えますって。うーん。暁の牙とかどうですか? おれここに来て見た朝焼けがすごいきれいだなぁって思って」
「ぶふっ、ちょっとやめてよ。ふざけないでよ」
「いやふざけてませんよ! いい感じでしょ?」
「いやないわー。恥ずかしくて名乗れないわー」
「ハルノさん、センスないんですね。アイドルなのに」
「アイドル関係ないわよ! ていうかセンスあるわよ! あんたが変なのよ!」
「じゃあハルノさんならどんな名前にします?」
「そうだなあ、ロマンティックガールズとか?」
「えっ、ヤバ、なんすかそれ、恥ずかしくね?」
「あかつきナントカより良いわよ!」
「いやでもガールズって。俺男ですよ」
「はあ、あんたとは感性が違いすぎるわ。いいわ、名前は私が考えとくから」
「いや、ガールズはやめてくださいよ? 事前に俺にも確認させてくださいよ?」
こうして夜は更けていった。いつもより夜ふかしをしたけど、少しだけ分かりあえた気がした。明日も頑張れそうだ。
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