第10話 試練
全部倒せたよな? しばらくしてまだ生き残っているゴブリンがいないか気になった俺はあたりを見回した。動いているものはなさそうだ。最初に倒した奴が遠いのでまだ生きてて逃げてないか確認しないと。
俺はハルノさんを見る。まだ呆然として座り込んでる。震えてる?
「ハルノさん、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
俺が近づくと、こっちを見た途端、
「いや! こないで!」
とハルノさんが叫んだ。
「ハルノさん、俺です。コウです」
更に近づくと
「ひい!」
と言ってズリズリと後ずさる。
だめだどうしよう。
「俺、ゴブリン見てきます。討伐証明の右耳を取ってこないとですから」
そう言ってゴブリンのほうへ向かうがその前に自分は大丈夫か? 怪我は? と思った瞬間、左腕に激痛が走った。見ると肘から下が動かない。ブラブラしてる。……これ、折れてるんじゃないの? 怖くて触れない。とりあえず添え木とかしないと。適当な木を見つけてずっとポケットに入れたままだったハンカチで手首と棒をしばり、ベルトを外して棒のもう片端と肘を縛る。
ぶらぶらの手を延ばすとき、かなりの激痛だったけど我慢だ。ここでは誰も助けてくれない。自分でしないと。あと早くハルノさんを町に戻して安心させてあげないと。
討伐証明を持ち帰らないと倒したことがわからないので報酬がもらえない。ゴブリンの場合は右耳だ。でも最初にハルノさんの魔法で倒したゴブリンは確か頭がなくなってたよな?
気になったので一番遠い、最初に倒したゴブリンの方へ行く。いた。やっぱり頭がない。あたりを見回すと頭が落ちてた。ちょうど首あたりにウォーターバレットがあたってちぎれたんだ。耳をナイフで切り取る。頭の皮が付いてるけど右腕だけだと器用に削り取れない。このままでいいか。
右耳をギルドから借りてきた布袋に入れ、ハルノさんのところに戻りながら次のゴブリンのところへ、あとは全部耳を切り取らないといけない。いやだな。耳を切る感触は本当に気持ち悪かった。死んだばかりの体なのでまだ柔らかいため、なんとも言えない感触だったが、ぐっとこらえて残り二体の耳をすべて切り落として布袋に入れた。
「コウ」
振り向くとハルノさんが近くまで来ていた。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「私は大丈夫。でもコウが……」
ハルノさんは俺の左腕を見て心配そうにしてる。
「ちょっと折れたかもですが添え木しました。あとはギルドに戻って見てもらいます」
「あたし、何もできなくて……」
「いや、魔法で一体は倒してもらいましたよ。それで俺も油断しました。初めてだったしなんとか無事だったし良しとしましょう」
「……うん」
それきりハルノさんは黙り込んでしまった。
ほとんど何も喋らないまま歩いた。街につく頃にはすっかり夜になってしまった。ギルドにつくと、
「あっおかえりなさ、コウくん!」
アメリアさんが俺の身なりを見るなりカウンターから飛び出して俺の体をまさぐった。イタイイタイ!
「ちょっと! 骨折れてるじゃない! すぐに手当てしないと!」
俺達はカウンター横の通路から更に中につれて行かれた。医務室っぽいところでアメリアさんに左腕を見てもらい、ちゃんとした添え木に変えてもらう。包帯でぐるぐる巻きにされた。
「お金があるなら治癒術士に見てもらえばもう少しだけ早く治るけど、お金ないよね?」
「治癒って魔法で治癒するとかですか? いくらぐらいですかね?」
「水属性の治癒なら金貨1枚ってところかしら」
「水属性で治せるんですか? ならあたしの水属性で治せるんじゃないですか?」
「ハルノちゃんにはまだ無理ね。治癒魔法はかなりの修練がいると聞くわ」
「……そうですか」
ハルノさんが喋ったと思ったらまたしょんぼりした。
「手当てありがとうございます。もしかしてこれもお金入りますか?」
「これはいいわよ。本当はギルドでは治療しないんだけど、私が何も聞かずに連れてきちゃったから今回は内緒よ」
「ありがとうございます。アメリアさん。助かりました」
「い、いいのよ。これくらいしかできないから。それよりこのまま添え木で骨がくっつくの待つと何日もかかるわよ。その間どうする?」
「依頼は受けます。薬草とかならできますし」
「そうね。無理しなくていい依頼を集めておくわね」
「ありがとうございます」
「さあ、今日のところはもう休みなさい。その前に水場で汚れを落としてね。コウくん凄いことになってるわよ」
俺は自分の体を見る。全身ゴブリンの血だらけだった。そういえば顔もなんかカピカピしてる。
「はは、そうします」
「討伐証明はこれね。明日報酬を渡すからカウンターに来てね」
アメリアさんは耳の入った袋を持ってカウンターに戻っていった。何から何まで本当に感謝しかない。
俺達は水場に行き、濡れ布で体を拭いた。敷居があるのでお互い見えない。何も喋らないのでパシャパシャと布をゆすぐ音だけがする。
仮宿舎に戻って寝ることにした。いつものように両端に二人離れて寝転ぶ。少しするとすすり泣く声が聞こえた。
「うぐっ、うっ、かえりたいよぉ、おかあさん」
俺はどうすればいいのかわからず、声をかけて励ますこともできなかった。
疲れてるはずなのにその夜はなかなか眠ることができなかった。
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