第9話 討伐依頼
俺が何も魔法を出せないので次の日も午前中は練習をして、午後は皿洗いと薬草採取をすることにした。食費を稼がないとね。
ハルノさんはウォーターバレットを二、三個同時に飛ばせるようになった。
俺はやはり何も出せなかった。どうしよう。このままでは足手まといだ。
皿洗いと薬草採取をなんとかこなし、一日を終えた。
寝る前、仮宿舎で、
「明日ゴブリンを倒しに行きましょう」
とハルノさんが言った。
「ほんとにやるんですか?」
「やるしかないでしょ? 冒険者やるんだからいつかは通る道だよね? それにゴブリンが魔族の中で一番弱いんでしょ? だったら他の人に取られないうちに明日うちらでやっつけよう」
そうだよな。よし! やってみるか!
「わかりました。じゃあ作戦を立てましょう」
俺達は作戦を練った。
こちらから先に発見できて、三体が固まってる場合、ハルノさんの魔法で先制攻撃で二体減らすまで遠距離攻撃し、残り一体で近接になったら借りたナイフで攻撃する。
もし発見が遅れ、近くにいた場合は逃げる。
そのため退路は常に気にしておく。
遠くまで離れることができても追ってくるようなら遠距離から魔法攻撃で残り一体になるまで減らしていく。こんなもんかな。あとは実行あるのみ。
次の日、いよいよゴブリン討伐の依頼を受けて発見場所に向かった。町の北側の林の中だ。
北の街道を進むと林に入る。街道沿いは旅人や行商人が通るので魔物が出ると危険なため、領主が討伐の依頼をギルドに出す。だから報酬が高いんだな。
林までは歩いて半日ぐらいかかった。林の中を道沿いに進む。もう午後だ。太陽が天頂を過ぎてる。
お腹すいたけど昼ごはんはなしだ。お金がない。いつか自分で動物を捕まえて自給自足できたらいいな。
しばらくするといた! 百mぐらい先に小さい生き物がいる。緑の体の子供ぐらいの大きさ。あれがきっとゴブリンだ! ちゃんと三体いる。
まだ気づいていない。やれる!
目で頷きあうとハルノさんと中腰になってそろそろと近づく。気づくなよ。
丁度いい高さの茂みに隠れながら二十mぐらい、魔法が届きそうな距離まで近づいた。よし! やろう!
ゴブリンは空き地みたいなところに輪になって座り、ぎゃいぎゃいと騒いでる。気づかれてない。
ハルノさんが集中して詠唱を開始した。
「アクア アクリ デュラム メア イニミクス スピナム」
すると圧縮された水の礫が五つ空中にできた。すごい、また増えてる。
「ウォーターバレット」
ハルノさんが小さくつぶやくと水の礫が飛んでいく。そして後ろを向いてるゴブリン一体に二つが当たった。顔と左肩辺りだ。
圧縮された水の塊は石のように固い。礫はゴブリンの首と左腕を貫通し、頭と片腕が吹っ飛んだ。凄い威力だ。頭のないゴブリンはぶっ倒れた。残りの二体はどうだ? だめだ当たってない。あたりをキョロキョロしている。でもまだ気づかれてない。
ハルノさんはもう一度五つのウォーターバレットを放った。今度は気づかれた! ハルノさんは慣れたのか、さっきよりも早く放ってたんだけどうまく避けられた。
二体が棍棒のようなものを持ってこっちに走り出した。でもあと五メートルくらいのところで再度放ったウォーターバレットが一体の腹のあたりを貫通して倒れた。残り一体。
俺は借りてきたナイフをゴブリンに向けて振り回した。ゴブリンはギリギリ届かない距離で止まり、棍棒で威嚇してくる。小さい。俺の腰ぐらいの背丈だ。やれる。
ジリジリと近づき、タイミングを図ろうと時間をかけたのがまずかった。仕留めたと思っていた別の一体が左の草むらから飛び出してきた。腹から血が出てるけど動きが素早い。軽傷だったんだ。
そいつはハルノさんに近づき棍棒を振り上げた! ハルノさんは驚いたまま固まってる。まずい!
俺はとっさにハルノさんの前に出てナイフを突き出した。相手の棍棒がとっさに上げた左腕に当たったが構わず右手のナイフでゴブリンの胴めがけて突き出したら首に刺さり、途端に赤い血がブシュッと吹き出した。
俺はそのまま血を顔にかぶってしまった。うわ!と思ったと同時に左腕に激痛が走った。棍棒が当たったんだ。痛い!
ナイフを持った右手でそのまま左腕をかばい周りを見たら、一体のゴブリンが俺に棍棒を振り上げていたところだった。反射的に両腕で頭をかばうようにしてうずくまる。とっさの判断だから正しいのかわからない。また左腕に当たってボキッと音がした。痛い!
「きゃあ!」
その時左から声がした。ハルノさんだ。見るともう一体のゴブリンがハルノさんに掴みかかってた。もう一体はまだ俺に棍棒を向けてる。
ハルノさんはナイフを手放してしまって腕を振り回してるがすぐに両腕を掴まれた。ヤバい! 俺はとっさにハルノさんに取り付いたゴブリンめがけてナイフを横に振り回した。もう一体が俺に棍棒を振り下ろしているがそっちは対応できない。ナイフはゴブリンの左腕と背中を切りつけた。と同時に俺の背中にドガッと棍棒が当たる。今度は大したことない。振り向きざまにナイフを顔に切りつける。
それはゴブリンの目に当たり、両手で目を覆ったゴブリンの胸にナイフを突き刺す。以外とサクッと入ったナイフを抜くとさっきよりも勢いよく血が吹き出した。俺は全身にそれを浴びてしまう。くそ!気持ち悪い! いや! それよりももう一体だ!
振り向くと残り一体はよろよろと逃げようとしていた。左腕から血を流してる。
「ハルノさん! 魔法を!」
叫ぶがハルノさんは呆然としたままだ。
俺は追いかける。左腕が痛くて動かない。
相手はもうよろよろなのですぐに追いついて、後ろから逆手でナイフを振り下ろすと、首の後に刺さった。ゴリッとした感触があった。骨か。ゴブリンは前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。
俺とハルノさんはしばらくのあいだ動けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます