第6話 ラヴェンナの街

 朝。窓の隙間から日がさして俺の顔に細長くあたったので目が覚めた。向こうは二月の寒い時期だったが、ここはそれほどでもない。というか少し暑いくらいだ。春から夏ぐらいかな。

 ハルノさんはまだ眠ってる。寝返りしたのか、こっち向いてる。起きてる時は吊り目がちの目が、つぶってると目尻が垂れていて少し幼く見える。あとまつ毛が長い。小さな口が少し開いていてスースーと息が聞こえる。寝顔がめちゃめちゃかわいい。

 あっ、女の子の寝顔を勝手に見ちゃまずいな。


 土間に行くとガルムさんもまだ寝てた。

そーっと歩いて外に出てみる。


「すごい、きれいだ」

 まだ日が昇り始めたところなのか、朝焼けが見えた。

 昨日は暗かったのでわからなかったがどうやら森はもうすぐ抜けられる距離だったようだ。小屋は森の出口近くにあって、少し歩いた先は荒野だった。

 朝日が登るにつれ、地平線まで広がる荒野がだんだんと見えてきた。荒野の先の方に小さくなにかある。あれが町かな?


 とにかく、昨日はガルムさんに出会ってこの世界にも人がいることがわかった。そしてなんと魔法があることも。

 それなら俺とハルノさんがここに来た理由とか、町に行けばなにかわかるかもしれない。それと帰る方法もわかるかも。


 そういえば朝日なんか見るのは久しぶりな気がする。昔家族で行った初詣以来だ。


「そういえば母さんやナミが心配してるだろうな。なんとか事情を知らせられたらいいのに」

 俺は家族のことを思いながら朝日が登るのをしばらく眺めていた。


 だんだんと広がっていく荒野。まるで太陽が、俺にこの世界を見せてくれているようだと思った。


 ガルムさん、ハルノさんの順に起きてきて、ガルムさんの用意してくれた朝ごはんを食べた。

干し肉とパンだ。どちらもすごく硬い。こんなの食べたことない。干し肉は塩辛いのかなと思ったけどかじってみるとやっぱりしょっぱかった。じゃがいもっぽい根菜が入ったスープもくれた。こちらは塩気がない。パンはスープにつけて柔らかくして食べるみたいだ。

 なるほど。異世界ラノベで見たことある。現実の異世界でもこうやるんだ。そういえばラノベとかだと転移者は大体冒険者になるのが多い。転移の恩恵でなにか能力が備わってたりするけど俺たちにもなにかあるのかな? そういえばステータスとか見れるのか?

「ガルムさん、自分でどんな魔法を持ってるとかのステータスを見ることとかできますか?」


「すてーたす? なんじゃそりゃ。魔法の属性は昨日話したとおり、ギルドの鑑定具で見るしか方法はないと思うぞ」


 そうなんだ。そこまでラノベと一緒じゃないか。じゃあ何か能力が備わっているかは街まで行かないとわからないのか。でも、本当に何か能力あるのかな? 心配だ。でも、勇者召喚があるってことは転移で強くなる人が呼ばれるはずだから必ずスキルとかの能力があるはずだ。


 朝ごはんを終え、ガルムさんが帰りの支度を整え終わり、俺達は町に向かって歩き出した。

 荒野は森に比べると日が当たって暑いが平地なので歩きやすい。町までは朝出て夕方ぐらいに着く距離らしい。


 歩きながらガルムさんに街のことを色々聞いた。

これから行く街に入るのに特に身分証とかはいらない。貴族エリアとか、町でももっと大きな王都なんかではいるらしいがこれから行く町に入るのにはいらない。

 門番はいて、魔物や盗賊が来ないか見張っているとのことだ。

 ギルドには冒険者ギルドの他、商人ギルドや職人ギルドなんかがある。商人ギルドに入るには誰かの紹介がいる。丁稚奉公して主人に紹介してもらうなどだ。職人ギルドも弟子が師の紹介で入るなど、信用のおける人の紹介がいるので、俺たちがすぐに入れるのは必然的に紹介のいらない冒険者ギルドしかない。

 ギルドに行けば登録と、俺達みたいな旅人でも泊まれる仮宿舎(雑魚寝スペース)みたいなのがあるらしいので、今晩はそこに泊まり、明日一日でできる仕事をして日銭を稼ぐつもりだ。

 まあ、なにか強い能力があればそこそこ稼げるんじゃないかな。俺は気楽に考えていた。



 予定通り町には夕方についた。ガルムさんに冒険者ギルドまで案内してもらった。ガルムさんとはここまでだ。


「本当にありがとうございました。お陰様で何とかなりそうです。このお礼は必ずいつか」


「まあ気にするな。冒険者になるなら剣とかもいるだろう。稼いだらワシの鍛冶屋に来い。特別にサービスしてやる」


「はい! その時はぜひ!」


 ガルムさんと別れ、ギルドに入った。

 中は意外と広い。入口正面突き当りに長いカウンターがあって身なりのいい人が立ってる。きっと受付嬢だ。男の人もいる。


 左側は酒場になってて、仕事終わりなのかすでに多くの人が飲み食いしてる。きっとみんな冒険者なんだろう。腰に剣とか、壁に槍を立て掛けてたりしてる。カッコいい人もいればいかにもガラが悪そうな連中もいる。うわっ、こっち見た! 絡まれないようにしないと。


 奥のカウンターの左側は冒険者が石とか皮とかを出してお金に変えてるみたいだ。素材鑑定用のコーナーだな。すごい!


 右側の壁には掲示板みたいな大きな木のボードがあって紙がぶら下がってる。きっと依頼書だ! これを見て依頼を決めるんだな。大体ラノベのとおりだ。多分右側のカウンターで依頼を受け付けるんだろう。


 俺も近いうちに、あの掲示板から選んだ依頼書を引き剥がしてきれいな受付嬢の人に『これだ。この依頼を受けよう』 なんて言って冒険に出るんだな。まるで憧れの冒険者そのものだ。すごいすごい!


 ハルノさんがキョロキョロとしてるのではやる気持ちを抑えながら、「 おそらくは…」 とざっくり説明して正面右側カウンターの、きれいな女の人のところに向かった。ここはやっぱり女の人がいいな! めっちゃ美人だし胸も大きい! 後ろのハルノさんの視線が痛い気がするが。


「いらっしゃいませ。今日はどのような御用でしょうか?」

 丁寧だ。


「あの、冒険者登録をお願いします。あと、今晩泊まるところがないので部屋をお借りしたいです。お金はまだありません」 


「かしこまりました。ではこちらの登録用紙にご自身のことをお書きください。字はかけますか? 代筆もいたしますよ」


 こっちの字書けるかな? ハルノさんを見ると

 書けるに決まってるじゃない

 みたいな顔してる。わかってるのかな。


 俺が

「ちょっと書いてみていいですか?」

 と聞くと、


「それではこちらをどうぞ」

 と、紙を渡してくれた。見るとよくわからない字が書いてあった。だめだやっぱりわからない。

「あの、やっぱり書いてもらえますか? ここの文字が読めませんでした」


「あら、異国の方なんですね。そういえばその黒髪は珍しいですね。……黒髪って……、よく見たら服装も……」

 受付嬢の目の色が変わった。なんかまずいかな?


「じゃあ、書いてください。お願いします」


 もとの話に戻す。

「あっ、そうですね。失礼しました。それではお名前を教えて下さい」


 本題に戻れた。よかった。

村手幸ムラテ コウです」


「ムラテコーさんですね」


「えっとムラテが家名でコウが名前です」


「家名をお持ちで。貴族の方ですか? あら、そういえば家名が先ってたしかおとぎ話の勇者の世界の……」


 ヤバ、なんか大げさにされるとやりにくいな。

「コウ・ムラテです。それでお願いします」


「あっ、失礼しました。かしこまりました」

 お姉さんがハッとして名前を書き出した。


 その後出身とか年齢を聞かれ、出身はトウキョウという東の方にある街の名と説明して、年齢は素直に答えた。


 ハルノさんは名前はやはりハルノのまま答えた。


「それでは能力鑑定をさせていただきます」

 お姉さんがカウンターに何やら木の箱を出してきた。開けると水晶みたいなのが上についた機械が見えた。

「この水晶に手をおいてください。ではコウさんからどうぞ」


 いよいよだ。どんな能力が備わったかな? 俺はワクワクしながら手を置いた。すると、

「はい。ありがとうございました。もういいですよ」

 と、普通にお姉さんから言われた。あれ?

「あの、どうでしたか?」

「はい。コウさんは一般的な魔力量がありますね。あと、属性は火ですね」


 一般的って?

「この道具って魔力と魔法属性の他にはなにかわかるんですか?」


「? いえ。他には何も」


「そ、そうですか」


 スキルとかは見えないのかな。でも属性が火ってことは何かすごい火魔法が使えるのかな?


「では続いてハルノさん、お願いします」


「は、はい!」

 ハルノさんが手を置く。すると、明らかに俺のときよりも明るく輝き出す鑑定玉。


「すごい魔力量! あっ、それに属性が!」

 お姉さんが驚いてる。俺のときと全然違う。


「あの、どうですか?」

 ハルノさんが尋ねると、


「すごいですよ! 二つの属性持ちです。これはなかなかいないんです!」


「そ、そうなんですか?」


「はい! それに水と、なんと光の属性です! 特に光なんて属性は私は初めて見ました!」


 なんかすごいことになった。ハルノさんはそれを聞いてテレテレと照れだした。

「そ、そうかな。エヘヘー」


 かわいい。


「そうね! あたしならこれくらいは当たり前よね!」

 ドヤ顔しだした! テレビで見たときと全然違うやん! やっぱりこの人性格がちょっとあれだな。アイドルのときは猫かぶってたな。


「今後のご活躍に期待しています! それではこれで登録をさせていただきます」


 しばらくしてお姉さんが奥から戻ってきた。

「はい。できました。こちらがギルドタグです」


 俺達は木で出来たタグを受け取った。

「まずはFクラスからのスタートになります。タグにはランクがありまして、下からF、E、D、C、B、Aと最上位はSです。まあ、Sは伝説級で過去には誰もなれたことがないクラスですので、現実的にはAが最高ランクですね。ちなみにCでベテラン冒険者、Bなら商業馬車の護衛などの高額な報酬の依頼にもつけます。Fは誰もがなれるサポートクラスで、通常依頼を月に五つこなしていただきます。そして討伐依頼一つ達成で戦闘クラスのEランクになれます」


 次に俺たちが受けられる依頼の話を聞く。

「ではFランクの仕事ですがこちらは町の中の依頼が多くて掃除や芝刈りなどの仕事から、町の外だと薬草採取がありますね。明日も朝から依頼書を張り出しますので早速受けられるなら朝にあちらのボードを見て、できそうなものをこのカウンターまでお持ちください」

 このあたりはラノベみたいだな。


「あとはパーティーですね。お二人はパーティーを組まれますか? 一人でも受けられる依頼はありますがパーティーのほうがより多くの依頼を受けられます。まあ、初めてなのでそこは明日依頼書を見て決めていただければよろしいかと。明日の朝も私はおりますのでお尋ねください。

名前を申し遅れました。私はアメリアと申します。今後もどうぞよろしくお願いします」


 俺達は一通り冒険者のことについて聞いて仮宿舎に案内してもらった。仮宿舎は昨日泊まった小屋と同じような感じで広い部屋に雑魚寝スペースだった。今日は俺たち以外は誰もいないらしい。ちょっと安心だ。埃っぽいが毛布があったのでそれをかぶって眠りについた。今日も歩き詰めだったからすぐに眠れた。ハルノさんはぐーぐーといびきかいてる。よっぽど疲れてたんだな

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