牛鬼淵へ!

昔、伊勢の山奥に牛鬼淵と呼ばれる深い淵があり、そこには顔が牛で体が鬼という恐ろしい化け物が住んでいると言われていました。この山奥に、二人の木こりが山がけして木を切り出していました。


ある夜の事、いつものように囲炉裏端で年寄りの木こりがノコギリの手入れをしていると、妙な男が戸口のむしろをめくり顔を出しました。「何しとるんじゃ?」と尋ねる男に、年寄りの木こりが「ノコギリの手入れをしている」と答えました。木を切るためのノコギリと知ると、妙な男は小屋の中へ入ってくる素振りを見せました。


そこで年寄りの木こりが「じゃがの、最後の32枚目の刃は鬼刃(おにば)といって鬼が出てきたら挽き殺すんじゃよ」と言うと、妙な男はどこかへ行ってしまいました。翌晩も、同じ男がやってきて同じ質問をして帰っていきました。


翌朝、木こり達が大木を切っていると、固い節の部分に鬼歯が当たりボッキリと折れてしまいました。折れた刃を修理するため、仕方なくふもとの村まで下りる事にしましたが、若い木こりは面倒くさがって一人で小屋で待つ事にしました。


その夜、また妙な男がやってきて同じ質問をしましたが、若い木こりは酒も入ってたせいか「鬼刃の修理に行っているんじゃ」と答えてしまいました。すると妙な男は「今夜は鬼刃は無いんじゃな」そう言いながら、小屋の中へヌーッと入ってきました。


次の日、ノコギリの修理を終えた年寄りの木こりが山に戻り、牛鬼淵のそばを通りかかると、若い木こりの着物がプカプカと浮いていました。牛鬼は確かにいるのです、月の明るい晩には「ウォーン、ウォーン」と悲しげに鳴くそうです。











 翌朝、伊万里は早起きして桜太郎おうたろうと牛鬼淵へ向かった。

 2時間以上かけて牛鬼淵に着き、鬼塚の捜索を始めたが、途中で桜太郎おうたろうは伊万里に

「伊万里ちゃん、一旦中断しよう!」

「でも…」

「結構動いたし、休もう」

 恋人に言われた伊万里は素直に言う事を聞き、休む事にした。

 10分経ち、再び捜索を開始したが、いくら探しても鬼塚は見つからなかった。

「鬼塚さーん!!!いるんですよね?早く帰りましょう!!!皆待ってますよー!!!」

 伊万里は叫ぶと

「ちょ、ちょっと伊万里ちゃん⁉︎叫んだら牛鬼出てくるよ?止めなよ」

 桜太郎おうたろうは伊万里を止めたが、

桜太郎おうたろうさん!今の時代は、妖怪達は人間社会に溶け込んで学校や会社に行ってるんですよ!それに桜太郎おうたろうさんが言ってるのは、昔話じゃないですか!」

「わからないじゃん!」

桜太郎おうたろうさん大丈夫ですって!そんなのにびびっているのは、小さい頃のうちの弟ぐらいです!」

 伊万里は、『牛鬼淵』という鬼刃を怖がる牛鬼が登場する昔話の絵本を当時3歳だった10歳下の弟の雪之丞に読んだ事があり、牛鬼が人を食べようとするクライマックスで雪之丞は泣き叫んで、両親をびっくりさせてた。

「気持ちはわかるけど、取り敢えず日を改めて…」

 桜太郎おうたろうは止めようとしたが伊万里は数メートル先に移動していた。

「って!伊万里ちゃん⁉︎」

 桜太郎おうたろうは伊万里のところへダッシュした。

「おーにーづーかーさーん!!!」

伊万里がそう叫ぶと

「五月蝿いねぇ〜。なんなんだよ〜」

「さっきから大声出さないでくれる?」

 そう声がして伊万里が見ると2頭の牛鬼が伊万里を見下ろしていた。1頭は雄で、もう1頭は雌だった。

 伊万里は腰抜かし、やっとたどり着いた桜太郎おうたろうが伊万里を支えたが、桜太郎おうたろうは2頭の牛鬼に気がつくと口をあんぐり開けた。

「なんなんだね?鬼塚って…」

 雄がそう言うと

「もしかして清志郎の事じゃないのか?確か人間社会で働く時の名前を自分で考えていたし…」

 雌が手を叩いて言った。

 呆気にとられた伊万里は

「あのー鬼塚さんの知り合いですか?私、鬼塚さんの部下の皇伊万里と申します。鬼塚さんがストーカー被害を受けて急にいなくなったと思ったら此方にいらっしゃると伺い参りました」

 と平静を装って話した。

「なんだね?清志郎の部下か〜。あー清志郎なら山降りてスーパーへ行って買い物に行ってるよ」

 雌は言った。

「スーパー⁉︎」

 伊万里はびっくりして間抜けな声を出した。

「おっと。申し遅れた!私は清志郎の父で」

 雄が自己紹介すると

「私は清志郎の母です」

 雌も自己紹介した。

「え…えぇー!!!お父様にお母様⁉︎」

 伊万里はびっくりした。

「そうだ!いつも息子がお世話になってます〜」

 鬼塚の父がそう言うと

「あ!噂をすれば帰ってきた!ほら、あそこ!」

 伊万里と桜太郎おうたろうは、鬼塚の父に言われた方向を見るとビニール袋を持ってる鬼塚がやって来た。

 鬼塚は顔を上げると伊万里に気づいて

「え…皇さん…?」

 と唖然としていた。

 一方伊万里も

「鬼塚さん…」

 と呆然としていた。


















【冒頭引用】

http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=202

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