Ⅳ 7

「あの娘からお金はもらったの」

「もらわなかった。でもそれでよかったんじゃないの」

「そうだね」

 タクヤはフライパンのたまごの上にチーズをのせて包みこんでいく。チーズオムレツを夢見がはしで割ると溶けたチーズが皿の上に流れた。似たような色をしているのでたまごとチーズを見分けるのは難しい。

「美味しそうですね」

 皿の上のオムレツを見て加奈が言った。

「加奈ちゃんのもすぐできるから」

 タクヤはそう言いながらフライパンから皿にオムレツをすべりこませる。

「あたしもお料理の上手い旦那さんがいいかな」

「フミマロのウラはちゃんととっていたんだ」

「まあね。それが仕事でしょう」

 夢見はマーガリンを塗ったトーストをかじる。

「あの人は恋人ではなかったんでしょう」

「そう思いこんじゃったのはこっちの方でさ」

「まだまだ修行が足りないってことだよね」

 加奈はイスに座るとテーブルの上に置いてあるオレンジジュースをグラスに注ぐ。

「実際は恋人より絆が強かったんだけどね」

「兄妹なんですよね」

「まあ、連れ子同士だけど」

「結婚できるんですよね、連れ子同士って」

「ずっと一緒にいるわけだから、親密になるか、いやなところが見えて離れるか」

 夢見は冷めた目で加奈を見る。

「あの二人は、その意味じゃ微妙な関係だよね」

「一見兄貴の独りよがりに見えるけど」

「そう言えば、あの男の奥さんが来たんだって」

「お礼を少しいただいたよ」

「会社は辞めるようだけど」

「よかったんだよ多分」

 加奈がにこやかな顔をしたタクヤを見ている。夢見の冷めた表情と対照的に思えたが、この二人はこれでいいのだろうと思った。

「妹の闇のほうが深かったのかな、見た目がそう見えない分」

 タクヤの言葉に夢見はほとんど反応せずコーヒーを飲みはじめる。

「あの、あたしにもお兄ちゃんがいるんです。血がつながっていない」

「お話聞いていただけますか」

「聞くわよ」夢見がにこやかに答える。

「マスターからも聞いているしね」タクヤがつづけた。

「とりあえずご飯食べて」

「そのあとゆっくり事務所で」

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