Ⅳ 6
「キース・キャラダインって知ってる」
夢見はオレンジ色のカクテルが入ったグラスを揺らす。
「知らない」
タクヤがそう言うと向かいのマスターがグラスを拭きながら微笑む。
「ナッシュビルっていう映画に出ていた人」
「アイムイージーって曲は」
「役者さんじゃないの」
「映画で歌ってたらしいの。ミュージシャンの役で」
「ロバート・アルトマンよね」
美佐さんがつぶやく。
夢見とタクヤは一人で納得したような表情の美佐を見ている。
「監督よ。ナッシュビルの」
「キース・キャラダインも良かった」
美佐は時間の向こう側を見ているのか。
「キースの名前の由来ってそれなの」
「どうもそうらしいの」
「彼女知ってたんだ、そのキース…」
「身近な人に影響されたって話もあるし、名前をつけた人の思い入れだって話も」
タクヤは彼女の名前に違和感を覚えたことを思い出す。
「誰なんだろうね」
夢見がポツリとつぶやいてテキーラサンライズをぐっと飲んだ。
「事務所は大丈夫なの」
「営業時間外ですよ。加奈ちゃんはいますけど」
「加奈ちゃんはこっちじゃなかったの」
ざわついていた店内はいつの間にか閑散として客はカウンターの三人だけになっている。タクヤは事務所に行くという加奈にカギを渡した。
「フミマロなのかな名付け親」
「それとも影響を与えた人物」
「それはないんじゃない。映画を知ってる可能性はあるけれど」
「知っていそうだよね。こだわりがありそう」
「深い仲っていうのもまんざら嘘じゃないのかしら」
「あの二人の言っていることってほとんどウラが取れてないですから」
夢見は二人の会話を黙って聞いている。
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